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半年で5.2兆円の巨額赤字を計上してもソフトバンクが踏ん張れる理由

2022.08.20

ソフトバンクグループが、2023年3月期4-6月に3.1兆円という過去最大の巨額損失を計上しました。2022年3月期1-3月も2.1兆円の赤字でした。ソフトバンクグループは6カ月で5.2兆円を吹き飛ばしたことになります。

アメリカのヘッジファンド、エリオット・マネジメントはソフトバンクグループに3,300億円を投じていましたが、巨額損失を目の当たりにして持ち株を投げ売りしたと報じられています。

半年で5兆円を超える赤字を出したことは、投資家を動揺させました。しかし、倒産がささやかれるような状況には追い込まれていません。なぜ、ソフトバンクグループはこれほどの損失を計上しても、“普通”でいられるのでしょうか。

一時はトヨタ自動車を上回る日本企業最高の利益を叩き出す

その謎には、ソフトバンクグループのビジネスモデルが密接にかかわっています。

ソフトバンクグループは2021年3月期に5兆円という過去最高益を達成します。これまで、日本企業の最高益はトヨタ自動車の2.5兆円でした。それを2倍上回る好調ぶり。2020年度の決算においては、マイクロソフトの4.7兆円を上回りました。

決算説明会より

ソフトバンクグループは投資会社と言って差し支えありません。従って、保有している株式の価値が業績に直結します。株価が上昇すれば利益、下落すれば損失という単純な構造です。

2021年3月期に過去最高益を出したのは、2020年はアメリカも金融緩和を継続していたため。2020年6月にナスダック総合指数は史上最高値を更新しました。ソフトバンクグループが好んで投資するハイテク株は買いが先行して株高となり、利益も押し上げられたのです。

しかし、2021年11月にアメリカはテーパリングの開始を決定。テーパリングとは量的緩和を縮小することで、金融緩和から抜け出す状態を指します。このころから世界的に株価は軟調となり、ソフトバンクは2022年3月期に1.4兆円の純損失を計上しました。

2022年にFOMCは本格的な利上げへと踏み切ります。利上げは金融引き締めを意味し、景気の過熱感を冷ますもの。アメリカの金融緩和は終焉を迎えました。2022年上半期にナスダックは29%安という過去最大の下げ幅に見舞われます。

下のグラフを見ると、ナスダック総合指数の下落に合わせてソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資する上場株インデックスが、下がっているのがわかります。

決算説明会より

資産価値を4,000倍に引き上げた手腕

ソフトバンクグループは経営上の重要指標として、出資している会社の時価純資産を挙げています。時価純資産はある時点での会社の総資産の時価総額から、負債の時価総額を差し引いたもの。出資先には未上場株も数多く含まれていますが、将来性を含まずにその時点での価値を重視していることになります。

2022年6月末時点で出資先の時価純資産額の合計は8.5兆円。そのうち、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが47%、アリババが21%、ARMが14%を占めています。この3つで8割以上であり、ソフトバンクグループの業績のカギを握っています。

決算説明会より

ソフトバンクグループが盤石でいられる要因の一つがアリババ。2000年に20億円を出資しました。その後、アリババは中国の電子商取引最大手へと成長し、2014年9月19日にニューヨーク証券取引所に上場します。上場後、時価総額は25兆円規模となり、ソフトバンクグループは8兆円の含み益を得ました。

上のグラフで2014年に突如としてアリババが現れているのはそのため。14年間でその価値が4,000倍に膨らんだのです。100万円を投資し、14年で40億円にしたのと同じことです。孫正義氏の優れた投資手腕を示す伝説的なエピソードとして知られています。

ソフトバンクグループは2022年8月10日にアリババの株式を売却すると発表。アリババは持分法適用会社から外れました。ソフトバンクグループの傘下ではなくなったことを意味します。

これにより、ソフトバンクは2023年3月期7-9月に4.6兆円の再評価益を計上する見通しです。4-6月に出した巨額損失の穴埋めができました。

アリババは、米国株式市場で上場廃止にされる可能性のある銘柄の一つとされていますが、今のところ流動性が高く、株式を売買しやすいのが特徴です。大赤字を出したとしても、アリババという切り札を使うことで、早期にその穴埋めができるのです。

今回の売却によってアリババ株の保有比率は23.7%から14.6%まで下がりますが、依然として主要株主であることには変わりません。

数兆円規模の巨額損失を再び出したとしても、それを乗り切る体力はまだ残されています。

今期中に半導体大手ARMの上場はかなうのか

近いうちにソフトバンクグループに巨額の利益をもたらすと見られているのが、半導体設計のARM。この会社はイギリスに本社を置く工場を持たないファブレス企業で、世界一のスーパーコンピューター「富岳」に同社のプロセッサーが採用されるなど高い技術を持っています。

ソフトバンクグループは2016年7月にARMを3.3兆円で買収。半導体は国策とも呼ばれるほど重要度の高いもので、その買収目的に注目が集まっていました。当初はソフトバンクグループが、IoTや自動車産業へ参入するのではないかと囁かれました。

結局のところ、ソフトバンクグループは転売益を得ることにしか興味がないことが明らかになります。

アメリカの半導体メーカーNVIDIAに売却を試みたものの、独占禁止法への抵触や、イギリス政府が難色を示したことで断念。今期(2023年3月期)中に上場させると発表します。しかし、英国株式市場での上場計画を停止したことなどが報じられました。

孫正義氏はナスダックではないか、ともコメントしており、具体的な計画は明らかになっていません。

しかし、上場へと漕ぎつけることができれば、アリババほどではないものの、業績に対して極めて大きなインパクトを持っていることは間違いありません。

ソフトバンクグループが“普通”でいられるのは、目先の危機はアリババで乗り越え、中長期的にはARMの含み益に期待できるためです。

ただし、有望とされていたソフトバンク・ビジョン・ファンドが高いリターンを上げているとは言えません。2つの切り札を失った後が本当の正念場となります。

取材・文/不破 聡

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