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都市部を中心に大型の木造建築が増え続けている理由

2022.08.14

「木造」といえば、戸建てやアパートのイメージが強い。しかし、ここ数年で大型の木造建築物が都市部を中心に増加している。その背景には、現状の日本の林業が抱える問題と、未来を見据えた企業の取り組みがあった。

増える木造施設、背景には新木材「CLT」

首都圏を中心に、木造の建築物が増えつつある。そのはしりとなったのが、東京オリンピック2020用の施設だ。有明体操競技場では新設会場で最多となる2600立方メートルの木材を使用した他、国立競技場には47都道府県から調達した木材を方位別に配置して使用し建造された。

民間でも木材を利用したビルが続々と建築されている。2022年5月には神奈川県横浜市にある大林組の純木造本社ビルが完成した他、2022年8月に休業する渋谷マルイは2026年に木造建ての商業施設へと生まれ変わる予定だ。林野庁の調べによると、国内の地上6階建て以上の木造建築物は、建築予定のものも合わせると2022年4月末時点で29軒あるという。

増加する大型木造建築の要因として、新しい木材であるCLT(Cross Laminated Timber)が建築素材として使用され始めていることが挙げられると、建材材料の仕入・製造及び販売等を行なうMEC Industry株式会社企画部部長の柳瀬拓也さんは語る。

「CLTとは、木材を板状に切り出した挽き板を並べたものを、繊維の方向が直交するように重ねて接着剤で固めて作られた木材です。繊維の方向を互い違いにしているので変形に強く、同じ重量あたりの強度はコンクリート以上になります。また複数の木を同時に使うため、木による品質のバラつきがなく平均化されており、形状も均一なので鉄骨などとの併用も容易です。そのため、従来の木材と比較して大型の建造物でも使いやすくなっている建材だといえます」

耐震性、耐火性が高い上、重量は鉄筋コンクリートの1/5以下と非常に軽い。輸送や建築時のコストも軽減可能だ。

欧米ではすでに大型の建造物などにも広く使用されているが、日本で本格的に導入されたのはここ数年だという。

「2013年12月に製造規格となるJAS(日本農林規格)が制定され、2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行されました。これにより、CLTを国により認定された建材として使えるようになりました。国立競技場にもこのCLTが一部で使われています」

日本の森林が抱える老朽化問題、解決のカギは“炭素の固定化”

CLT普及の背景には、森林の老朽化という問題が挙げられる。実は日本の木材自給率は30%程度と非常に低く、林野庁が公開している森林・林業白書によると、伐採の適齢期と言われる50年を超える樹齢の木が人工林全体のうち過半数を占めている。高齢の樹木が増えることにより、様々な問題が発生すると柳瀬さんは語る。

林野庁より公開されている、人工林の樹齢別面積の変化をグラフにしたもの。1960年代に植林された樹木が現在でも伐採されずに残っていることが森林の高齢化の要因だといえる。

「まず、高齢な樹木は二酸化炭素の吸収量が減少してしまいます。国立環境研究所が公表している日本国温室効果ガスインベントリ報告書では、森林などによる二酸化炭素の吸収量が減少し続けていることが報告されています。また、樹木は高齢なほど大径木化していきます。大きすぎる樹木は加工や輸送が難しく、加工時のロスやコストも高くなるため、使用を避けてしまいます。

そうなると、さらに高齢樹木が放置されてしまいます。これらの問題を解決するためにも、適度に樹木を利用し、新しい木が生まれるように森を循環させる取り組みが重要だといえます。CLTはその解決方法の一つになると考えています」

三菱地所など大手企業7社が出資して設立したMEC Industryは、2022年5月に鹿児島県湧水町にCLTの加工製造が可能な工場を新設。大径木も取り扱い可能な最新鋭の設備に加え、木材の生産加工から工場内で建物を製造するプレファブリケーション工法により、低価格でのCLTを用いた住宅等の提供を実現している。

「もともと高騰していた建築費を抑えるための手段としてCLTの活用に取り組んでいたのですが、業界の構造的に低コストでCLTを製造販売できる業者が少なかった。だったら自分たちで木材加工から取り組もうと思い設立に至りました」

工場では南九州で採れたスギ材を使用。年間9万5000本分の丸太にあたる、5.5万立方メートルの原木を加工している。

今後、事業を展開していくためのキーワードとして“炭素の固定化”を意識しているという。

「建物をはじめとした構造物に木材を使用することで、本来はバイオマス発電などによる焼却処分で二酸化炭素になり得ていた炭素を都市部に固定化することができます。そして適切に伐採された森林には新しい空間が生まれるので、そこに植林して新しい木を育てていく。その繰り返しにより森の健全な循環を促すことで、持続性のある未来のための林業が成り立っていくと考えています」

現在は戸建住宅を中心とした建材利用が主な事業となっているが、今後は木の消費量をさらに増やすために、CLTを始めとした木材の活用範囲を広げる取り組みを進めていく。

「戸建住宅にはもともと木材が多く使われているので、それをCLTに置き換えても消費量は大して変わりません。一方で、昨今注目されている大型木造建築はとても有効な取り組みではありますが、それだけでも木の消費量を持続的に増加させることは難しいです。例えば建物の外壁は強固なコンクリートを、内装はCLTなどの木材を使用するといったように、コンクリートや鉄筋と並ぶ第3の素材として提案したいと考えています。生活の様々な空間で、より手軽にかつ幅広く木材が選ばれるような事業を展開することで、都市と森をつなぐ役目を担いたいと思っています」

世界有数の森林大国である日本が直面する“森の老朽化”。解決の鍵はCLTのような新技術、そして街で木を使う場面を増やし、街を木質化することにある。昨今増加する大型木造建築は、こうした取り組みを進めるための足がかりだといえる。

取材・文/桑元康平(すいのこ)
1990年、鹿児島県生まれ。プロゲーマー。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務を経て2019年5月より、eスポーツのイベント運営等を行なうウェルプレイド(現ウェルプレイド・ライゼスト)のスポンサードを受け「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロ選手として活動開始。代表作に『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館新書)。

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