キャズムを乗り越えるためにできること
越えなくてはならない溝を飛び越え、イノベーションをアーリーマジョリティー以降の人にも届けるには工夫が必要です。広がる溝を乗り越えるために必要な、マーケティングのヒントを紹介します。
イノベーションの現在位置を把握する
自社の商品やサービスがイノベーター理論のどこに位置しているのかを把握しなければ、適切なマーケティング施策を打ち出せません。
初期段階(イノベーターやアーリーアダプターがメインの市場)かアーリーマジョリティーやレイトマジョリティーなどが中心のメインストリーム市場かによって、選択すべきマーケティング施策が異なります。
アーリーアダプターを攻略し終わり、アーリーマジョリティーにアプローチする段階に入っていると分析したなら、両者の間に横たわる溝を意識したマーケティング戦略が必要です。
現在地を把握する際は、イノベーター理論に基づいて考察するのがポイントです。現在位置を正しく理解した上で戦略を立てれば、スムーズに次の段階へ移行できるでしょう。
狭い市場から開拓する
キャズムを攻略する鍵は『ボーリングレーン』であるといわれます。ボーリングレーンとは市場を細分化し、狭く定義された市場を狙い撃ちして攻略し、その勢いのまま他の市場を開拓していく方法です。ある程度の時間はかかるものの、着実にキャズムを越えていける施策とされます。
狭い市場の中で実績を積み重ねれば、他の市場にいるアーリーマジョリティーの意識に『イノベーション導入への安心感』が生まれ、他の市場での普及が進みます。
ボーリングレーン戦略を実行するポイントは、どの市場を最初に狙うかという点です。顕著なニーズを持っている市場をターゲットにすると、キャズムを越えやすくなります。
アーリーマジョリティーを意識してアプローチする
キャズムを越えるには、アーリーマジョリティに響くマーケティング戦略を考える取り組みが必要です。アーリーマジョリティーへのアプローチが効果的に進めば、キャズムを乗り越えやすくなります。
アーリーマジョリティーを意識したマーケティング戦略のポイントは、導入に対するリスクを最小限に抑えることです。
アーリーマジョリティーは、安心感のある商品やサービスを取り入れたいと考えています。導入により損をするリスクを抑えた上で、安心感を効率的にアピールできれば、アーリーマジョリティーに積極的な購買行動を取ってもらえるはずです。
ユーザビリティの向上を図る
ユーザビリティとは『使いやすさ』を表す言葉です。ユーザビリティが向上すると、先端技術に不慣れな市場にも効率的にアピールできます。
イノベーターやアーリーアダプターには最新技術に明るい人が多く、新しい商品やサービスでも難なく使いこなせてしまいます。しかしアーリーマジョリティー以降の人は、そこまで器用に最先端の技術を使いこなせるとは限りません。
ユーザビリティの低い商品やサービスだと、使いにくさを感じて敬遠されるケースが出てくるでしょう。ユーザビリティを高めてアーリーマジョリティー以降の人たちでも使いやすいようにアップデートすれば、キャズムを乗り越えられる可能性が高まります。
インフルエンサーを活用する
信頼度の高いインフルエンサーをマーケティングに活用するのも、キャズムを乗り越える方法として有効です。アーリーマジョリティーが抱く『イノベーションの導入に対する不安』を和らげる効果が期待できます。
インフルエンサーに影響を受けてイノベーションを導入した一部のアーリーマジョリティーから普及が進めば、着実にキャズムを乗り越えられるでしょう。
特に若者をターゲットにした商品やサービスのマーケティングには、インフルエンサーの活用が効果的です。若者層には、インフルエンサーが推薦している商品を参考に消費行動を起こす人が一定数存在します。
キャズムを越えて成功した事例
具体的な事例を確認すれば、キャズムへの理解が一層深まるでしょう。キャズムを乗り越えて成功を収めた企業の事例を三つ紹介します。
ネスレ日本
ネスレ日本が2012年9月より展開しているマーケティング手法が『ネスカフェ アンバサダー』です。2009年に販売をスタートしたコーヒーマシン『ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ』をPRするために考え出されました。
ネスカフェ アンバサダーでは『アンバサダー』と呼ばれる、宣伝大使のようなポジションの人を募集し、職場でコーヒーマシンを無料で使える特典を与えました。
PRの目新しさと無料でコーヒーマシンを使えるメリットの大きさが功を奏し、ネスカフェ アンバサダーは大成功を収めます。コーヒー豆の代金のみで上質なコーヒーを体験できたアンバサダーたちの口コミにより、商品が広がり続けてキャズムを乗り越えるに至りました。
参考:ネスカフェ アンバサダー募集 | 【公式】 ネスレ通販オンラインショップ
セールスフォース
セールスフォース(旧:セールスフォースドットコム)は、アメリカに本社を置くIT企業です。顧客関係管理ソリューションに関するクラウドサービスを提供しています。
セールスフォースは自社のサービスを普及させるため、営業担当者とアメリカ企業にのみアプローチするマーケティング戦略を選択し、キャズムを乗り越えました。アプローチを営業部門に絞ったのは、部門間の意見の相違を回避して積極的に自社製品を導入してもらうためです。
また、アメリカでは転職するのが一般的なので、セールスフォースのよさを知ってくれた営業担当者が他社に移れば、その人がインフルエンサーとなって自社製品のよさを広めてくれると考えました。
メルカリ
スマホ1台で不用品を売り買いできるフリマアプリとして多くの人に愛されているのが、メルカリです。
アプリのリリース当初からユーザビリティの向上に尽力し、ユーザーが使いやすいプラットフォームを目指して改善を重ねてきました。アーリーマジョリティー以降の人が求める使い勝手のよさを実装し、キャズムを乗り越えるための土壌を整えていきます。
アプリのダウンロード数が200万を超えたタイミングで大々的にCMを展開し、全国的な知名度を一気に上昇させます。CMを展開することでアーリーマジョリティーにアプローチできる信頼感を手に入れ、キャズムを乗り越えるに至りました。
構成/編集部