パラグライダーとバイクの意外な共通点
普段はバイクに乗って道路上を走る筆者にとって、空を自由に飛び回れるパラグライダーは憧れの存在。いつかは挑戦してみたいと思っていたことのひとつであった。
そして前回の記事にて、念願だったパラグライダー タンデムフライトの体験をさせてくれたのが、長野県伊那市にあるアクティビティスポットASOBINA。
今回の記事ではASOBINAオーナー兼プロパラグライダー、そしてプライベートではライダーである呉本圭樹さんに、パラグライダーとバイクについてお話をうかがった。
呉本圭樹さん。アジア大会2018ジャカルタでの金メダルを獲得するなど、世界で活躍するプロパラグライダー。
呉本さんとタンデムフライトで飛んだ伊那の空。アルプスの山々に囲まれる贅沢な景色だ。
パラグライダーは“歩行者”みたいな存在
──まずは素朴な疑問からおうかがいさせてください。ASOBINAであれば毎回決まったテイクオフポイントから離陸しますが、プロとして活動される際は毎回違う…それこそ海外のいろんな場所から飛び立ち、時には国境を越えることもあると思います。素人目から見ると手続きとか許可とかが大変そうなイメージがあるのですが、実際どうなのでしょう?
呉本さん:パラグライダーには当然モーターやエンジンがなく、風だけの力で飛んで人間が操作するものなので、航空法の中での制限が少ないんです。飛行機やドローンとは違って飛行の際の許可や申請は必要ありません。地上で言うと歩行者みたいな扱いですかね。
特にEU圏内を飛ぶ際は国境の移動も自由なので、イタリアから飛び立ってフランスやドイツに降りる、なんてこともできるんです。もちろんいつどこでも飛んで良いってわけではなくて、世界共通で空域のクラス分けがされていたり、天気にかなり左右されたりといった制限はありますけどね。
──バイクや車は運転に免許が必要ですが、パラグライダーにはあるのでしょうか?
呉本さん:パラグライダーは一旦飛んでしまうと、自分はもちろん他人の命にも関わるので、必ずスクールに入ってライセンスを取得します。そのあたりは教習所や運転免許証のシステムに似ているかもしれませんね。
ライセンスは6種類あります。まずは単独フライトの基礎的なものから徐々にステップアップして、6つ目はタンデムフライトができるライセンスです。僕はもちろん、タンデムフライトのライセンスを持っています。
金メダリストがもう一度飛びたい世界の空3選
──15歳からパラグライダーを始められたそうですが、これまで飛ばれた中で印象に残っている場所、もう一度飛びたい場所はありますか?
呉本さん:そうですね。今回飛んで見てもらったように、伊那を始め日本の景色も美しいのですが、海外となると人工物がない自然が大きく広がっていたり、山や湖などのスケールがもっと壮大だったりするんです。
まず印象に残ったところとしては…オーストラリアでしょうか。
オーストラリアには航続距離の世界記録に挑戦した際に訪れたので、山がない平坦な場所で『トーイング』という特殊な離陸をしました。離陸の際に車に引っ張ってもらうのですが、日本では場所がないため、ほとんど行われないんです。
どこまで飛んでもただ真っ平らな土地が続いて地球の丸さを感じました。人生の中でこれだけ平らな土地が続くのを見たのは、あとにも先にもこの時だけですね。観光では絶対に訪れないような景色を見られるのはパラグライダーの特権のひとつかもしれません。
オフの日は海沿いをどこまでも飛び続けて過ごしました。飛べるだけ飛んで、降りたらその場でテントを張ってご飯を食べ、夜を過ごす。印象的な日々でした。
パラグライダーに加え、野宿の装備も準備して出かけたのだそうだ。
呉本さん:景色が美しかったのはフランスです。サヴォワ地方、アヌシー湖周辺からアルベールヴィルやシャモニーという山にかけて、条件さえ良ければどこまででも飛べるような場所です。
適した地形と美しい景色が人気を集め、パラグライダーの聖地とも言えるスポットです。常時200~300機のパラグライダーが飛んでいますよ。
地上に降りた後は湖で泳ぎながらビールを飲む、なんてこともできちゃいます。ただし水が硬水なので、髪がバリバリになるのは困りましたね。
呉本さん:パキスタンのフンザの山脈も印象的でした。登山で有名な場所なのですが、標高3000m近くの場所から飛び立ち、5000~7000m級の山に囲まれた場所を飛ぶことができるんです。神様がいるって言われても信じられるぐらいに神秘的な風景でしたね。
飛ぶまでのハードルも高くて、パキスタンの首都イスラマバードからフンザまで車で24時間、そこからさらに歩いての移動もあるのでかなり大変でした。手間がかかった分ますます美しく見えるのかもしれません。バイクでのツーリングもそうですが、目的地に到達するまでの過程も旅の醍醐味ですよね。
プロパラグライダーとバイクの関係
──プライベートではバイクに乗られているということですが、愛車についても教えてください。
呉本さん:プライベートではスズキのバンディット1250に乗っています。ワンオーナーで状態の良い車両が中古車市場にあったところを知り合いのバイク屋が見つけてくれたんです。
ASOBINAの敷地の管理用にヤマハのセローにも乗っています。
──ASOBINAにはマウンテンバイクやオフロードバギー用のコースがあるので、整備のためのオフロード車は必須ですね。ツーリングはどういった所に行かれているんですか?
呉本さん:このあたりは少し山に入るだけで信号も無いような快走路…ツーリングに最適な道がたくさんあるんです。お気に入りは奈良井川や木曽川沿いをぐるっと回れるコースで、休日はバイクに乗っていることも多いです。ストレスが解消できる良い趣味ですよ。
──ありがとうございます。最後にお聞きしたいのが…先ほど自転車のコースやASOBINAの敷地前で呉本さんの運転を見せていただいたところ、レベルが高過ぎてまるでモトクロス選手のようでした。
パラグライダーとバイクの運転になにか共通点があるのでしょうか?もしも練習法やコツなどがあれば、私たち一般ライダーに教えてもらえませんか?
まるで自分の手足のようにバイクを操る呉本さん。オフロード走行中は敢えて凹凸の多い場所を走って楽しまれているように見えました。
呉本さん:もちろんライディングスクールに通って運転を習うって言うのも良いかもしれませんが、パラグライダーと共通して大切なことと言うと体幹でしょうか。体幹がしっかりしていれば、パラグライダーもバイクもかなり扱いやすくなると思います。
手軽なのはバランスボールを使ったトレーニングです。僕はバランスボールの上でスクワットをしていますよ。
──バランスボールの上でスクワットですか!?それは尋常じゃないですね…。さっそく購入して、まずは手を離して座るところからトレーニングに励みたいと思います。
ラストは呉本さんのフィジカルの強さに思わず絶句してしまいましたが、世界で戦うプロにとってはこのレベルが当たり前なのでしょう。パラグライダー・バイクのどちらにおいても小手先の技術ではなく、まずは身体の基礎的な能力を上げるのが大切なんですね。
帰宅後、実際に筆者はバランスボールを入手して毎日トレーニングしています。少しずつ手を離せる時間が増えてきたかも…!?今後に期待です!
取材協力:ASOBINA(アソビナ)https://asobina.jp/
〒396-0029
長野県伊那市横山9300番地
文/高木はるか
アウトドア系ライター。つよく、しぶとく、たくましくをモットーにバイクとキャンプしてます。 愛車はversys650、クロスカブ110、スーパーカブ90。
高木はるかの記事は下記のサイトから
https://riding-camping-haruka.com
編集/inox.