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アップサイクル食品は日本市場で存在感を示すことができるのか?

2022.08.08

本来廃棄されるところだった食材を利用して、おいしい食品に加工し、市場価値をアップさせた食品がアップサイクル食品。食品ロスへの注目、SDGsの高まりもあって注目を集めている。アップサイクル食品は日本の市場でも存在感を示すことができるだろうか? 日本総研のシニアマネージャー和田美野さんに聞いた。

その1はこちら

日本総研リサーチコンサルティング部門シニアマネージャー。食農を中心とした事業開発・業態変革、や、食品ロス削減など社会課題解決ビジネスの創出に力を注いでいる。

日本企業は昔から“もったいない”からリサイクルしていた

加工工程で出るブロッコリーの茎、ナスのヘタ。バナナの皮。食品ロスというより食べられない部分を使ったスナック。売れ残りのパンや、切り落とされる食パンの耳を使ったビール。アップサイクル食品の成功例だ。

——-アップサイクル食品への注目が一気に高まってきました。どんな背景があるのでしょうか。

和田 アップサイクルについては、私はちょっと冷めた見方をしています。というのも、日本には“もったいない”概念が根を貼っていますから、食品業界は昔からコツコツ、再利用できるものはしてきたのです。それが、最近アメリカにおいて“アップサイクル”と言語化され概念が明確になった。今まで「リサイクル」とひとくくりにされていたものが「アップサイクル」というカッコイイ名前を得て、一気に活性化した側面が強いと見ています。

——日本ではすでにアップサイクルしていた?

和田 日本ではエコフィードとして、食品残滓を飼料にしているメーカーが存在します。捨てれば価値がゼロ、むしろ廃棄料金がかかるものを飼料として商品化するわけですから、これもアップサイクルです。ただ、そういうカッコイイ言葉で説明されなかっただけで。

——アップサイクル食品もアメリカが先行しているのですか?

和田 今、アメリカではSDGsと環境対策に取り組まない企業はやっていけません。食品ロス削減に取り組まなかったら、資金調達の面でものすごいインパクトを受けてしまいます。先日も大手小売りの人の話を聞いたとき、もはや食品ロス削減に取り組む・取り組まないという議論ではなく、取り組むという選択肢しかないと言っていました。日本の企業とは、だいぶ肌感が違うと感じました。

一方、日本ではすでに食品ロス削減に取り組んできたわけです。

わざわざアップサイクルする理由は?

和田 最近、大手の食材宅配会社が廃棄食品から作ったスナックや、廃棄パンで作ったビールなどがアップサイクル食品として注目されていますが、飼料に加工することも食品ロス削減の意味では十分役割を果たせているわけです。日本の食品製造業のリサイクル率はすでに95%とか96%、中には100%リサイクルしている会社もあります。

—–日本の食品メーカーがアップサイクル食品をつくる意味は特にない?

和田 食品製造業だからこその難しさがあると思います。メーカーがつくる以上、原料は量、質ともに安定供給されるものを望みます。となると、廃棄食材の供給元は同じように食品製造業になるでしょう。しかし先述のとおり、すでに95%はリサイクル済みなのです。

—–特にアップサイクル食品にするメリットはないということ?

和田 食品製造業とすれば、正直、リサイクル業者に渡して肥料化・飼料化するのがいちばんラクでしょう。廃棄物をすべてリサイクル業者に渡せば「うちはリサイクル100%」と言うこともできます。

とはいえ、アップサイクルにはイメージ的なカッコよさがありますから、これを企業広報として利用するメリットは十分にあると思います。リサイクル業者に渡してリサイクル100%と言っても、消費者には響きませんが、アップサイクル食品が市場に並べばインパクトが生まれます。企業イメージの向上、環境やSDGs意識の高い消費者たちの共感につなげていけると思います。

ここもフードテックを上手に利用するといいだろうなと思います。賞味期限の切れた商品をおいしくアップサイクルする技術など、自社で開発しているよりも、スタートアップや他の食品製造業と組んだりして、コラボ商品に仕上げていく手もあります。組む相手によっては、商品のイメージアップにつながります。食品に限りませんが、他業種と組んで、お互い持っているものを持ち寄る、そういう商品作りの流れは今後も広がると思います。

——日本のアップサイクル食品市場についてはどのように見ていますか?

和田 代替食と似たものがあって、売れるかどうかの指標は味、価格、安心安全の3要素です。おいしいことは当たり前ですが、日本で市場を形成できるかどうかは、やはり価格なのかな、と思います。

モノがあふれる中、消費者はストーリーを求めています。同じようなモノが同じような価格で並んでいるとき、「私はこれをこういう理由でこれを選んだ」と納得できるストーリーが欲しいからです。嗜好品なら多少高くてもいいのですが、食品はほとんどが日常使いするものですから、高くては困るわけです。ちょっとこの情況に似ていると思うのは、フェアトレード食品です。非常に高いエシカルな価値とストーリーを持った製品ですが、日本ではいまひとつ根づいていない。その障壁はやはり価格にあると思います。つまり高い。コーヒー、砂糖、日常的に食べるものが高いと根づかないわけです。

—–食品ロスを減らそうとう機運は高まってきているけれど、価格が落ちてこないとむずかしいと?

和田 必ずしも安くなればいいというものでもありません。たとえ、多少高くても、消費者が納得して買えるストーリーをいかに付与できるか。代替食の場合、「健康」という価値観が重要な役割を担うと思いますが、アップサイクルにも、単に食品ロス軽減や社会貢献につながるよといった価値だけではなく、消費者が身近に感じられる価値観をセットで提供できるかどうか。この点にも企業の工夫が求められていると思います。

——アップサイクル食品を通して見えてくるユーザーの消費行動、企業のメリット。双方の思惑がカチッとはまれば、食品ロス削減にもエシカル消費にも商品が生まれるのだろう。価格差を克服する画期的な何かとは? 一消費者としては当面、おいしそうなアップサイクル食品を探して食べていきたいと思う。

取材・文/佐藤恵菜

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