北海道日本ハムファイターズの新球場「ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコンフィールド 以下)」が完成まであと8か月に迫ってきました。
エスコンフィールドは、北海道北広島市で大林組を中心に建設が進む新しい球場です。3万5000人が収容可能。フィールドと観客席の距離が近く臨場感抜群の球場は、重さ1万トンにもなる巨大な開閉式屋根を持ち、しかも天然芝。自然光を採り入れることができる最大高さが70mのガラス壁や、球場内のどこからでも試合観戦ができる360度回遊型コンコースなど、斬新な建造物となっています。
周辺エリアは「北海道ボールパーク F ビレッジ(F ビレッジ 以下)」と呼ばれる32万平方メートルにおよぶ広大な「街」。温泉やサウナ、クラフトビールの醸造所や体験型農園、こども園のほか、ホテルや商業施設などが並びます。
2015年4月の建設計画開始時から事業に関わってきた、北海道日本ハムファイターズの前沢さんは、「球場を核にしたプラットフォーム事業として、77億人のグローバルなマーケットに北海道から切り込みたい」と意気込みを語ります。
株式会社北海道日本ハムファイターズ 取締役 兼 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 取締役 事業統轄本部長 前沢 賢さん
F ビレッジへのアクセス方法も十分検討され、準備が進んでいます。まずは4000台分の駐車スペースが用意されるほか、JR北海道の北広島駅からは一部EVバスによるアクセスが可能です。北広島駅は、札幌駅と新千歳空港駅をつなぐJR千歳線の間にあり、「快足エアポート」を利用すれば、30分圏内と好立地にあり、地元北海道の人はもちろん、北海道外からの観光客も快適に利用できます。
現在、球場建設は86%ほど進み、2023年1月の竣工、2023年3月の球場開業も間近。期待は高まるばかりです。
提供:北海道日本ハムファイターズ ©H.N.F.
開閉式の球場という特殊な環境での照明に挑んだパナソニックの技術
北海道の人だけではなく、日本中、いや、世界中から注目されているエスコンフィールドの開業ですが、そこにはパナソニックの技術が惜しみなく注ぎ込まれることとなっています。
「阪神甲子園球場の照明リニューアルやベルーナドームの照明、国立競技場や大井競馬場など様々なスポーツソリューションに携わらせていただき、磨き上げてきた当社の照明技術に加えて、約600台のサイネージや映像制作ソリューション、『ナチュラルチラー(吸収式冷凍機)』を活用した冷暖房管理など、エスコンフィールドを中心にF ビレッジを長期にわたりサポートさせていただきたい」とパナソニック エレクトリックワークス社の稲継副社長は話します。
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 副社長マーケティング本部 本部長 稲継 哲章さん
水の気化熱を利用した地球環境に優しいノンフロンの空調システム「ナチュラルチラー(吸収式冷凍機)」。同球場には「500RT」が4台設置される
中でも注目は、やはりエスコンフィールドの照明でしょう。エスコンフィールドは重量1万トンもの屋根が開閉する、特別な球場です。しかも、天然芝の養生のためもあり、外野方向の壁面は70mにもおよぶガラスが施されます。また、大型ビジョンも設置。そのため、「照明のエリアがフィールドに入っていて、選手へのまぶしさを抑えながら照明の設置エリアを確保するのにとても苦労した」とパナソニック エレクトリックワークス社 北海道電材営業部 馬杉さんは話します。
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 マーケティング本部 北海道電材営業部 電材営業開発部 担当部長 馬杉 道裕さん
多くの球場の照明は、フィールドを360度取り囲むように設置されることが多いのですが、下の図のように、エスコンフィールドの照明設置位置は内野のスタンド上(固定屋根側)と、外野のスタンド上(ガラスウォール側)の2方向からに制限されます。そんな厳しい環境でも、十分な明るさを確保しなければなりません。
照明の設置位置(競技照明投光器配置図)。大型ビジョン設置の関係もあり、固定屋根側、ガラスウォール側が照明の設置位置となっている。
そこで、パナソニックは昨年秋に発売されたばかりの新型のLED投光器を抜擢。2kw相当のLED投光器を226台、1kW相当のLED投光器を128台投入し、難関に挑みました。
左)2kw相当14万lm Ra90のLED投光器、右)1kw相当6万6400lm Ra90のLED投光器
「通常の球場照明では500〜700台の設置が多いのですが、エスコンフィールドは限られたエリアの中で検討した結果354台というプランになりました。しかも2kwや1kwの照明を設置している球場はほかに例がない。本当に特殊な条件だったんです」(馬杉さん)
そんな厳しい制約の中でも、北海道日本ハムファイターズからの期待は高かったようです。
「プレーヤーファーストを大前提に、観客のみなさんには明るい球場で楽しんでいただきたい。そのために、我々はサービスプロバイダとして、映像・音・光・通信など統合、連動されたシステムでニーズにお応えしたい」(北海道日本ハムファイターズ 前沢さん)
少ない台数の照明で、しかも、設置するエリアが限られるエスコンフィールド。しかしパナソニックの技術陣は、独自の配光設計技術により照射方向を細かく調整。さらに、狭い角度の配光ができる光学レンズを設計するなど、選手や観客がまぶしくない照明の実現を目指しました。
明るさという面では今回、色の見え方に影響する〝演色性〟を高めた照明を採用。Ra90(Ra100が理論上のMAX)という高い演色性の照明が選手やフィールドを色鮮やかに映し出します。また、最先端のDMX制御技術により、照明1台1台を細かくコントロール。まぶしさを抑えると同時に演出面でも活躍が見込まれます。そして、映像の高精細化にもしっかりと対応。4Kのスロー動画再生でもちらつかない〝フリッカレス〟の照明となりました。
提供:北海道日本ハムファイターズ ©H.N.F.
球場を中心とする街づくりのあかり
エスコンフィールドには、最先端のLED照明技術が注ぎ込まれています。しかし、野球事業のみでエンターテインメントは終わりません。
「日本の人口減少により球団経営はターニングポイントを迎えました。今までのプロ野球は過去の成功体験をベースにしていますが、今後は『野球を楽しむ』だけではなく『野球も楽しむ』、非野球事業を積極的に展開していきたい」(北海道日本ハムファイターズ 前沢さん)と話すように、F ビレッジ全体が盛り上がることこそが球団経営の核心と言えます。
球場内のコンコースなど球場内照明約9000台とエントランスなどの外構照明約450台に、パナソニックの照明が採用され、また、駐車場やシャトルバス乗り場、〝沢エリア〟と呼ばれる球場周辺施設周りにも設置を予定。パナソニックが長年培ってきた、明るくそしてエンターテインメント性も加味された外灯技術がここでも活用されていきます。
球場を訪れた人がその行き帰りでも楽しい時間を過ごせるように……球場を核としたあかりの演出に、大いに期待したいところです。
取材・文/中馬幹弘