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吉野家、丸亀製麺、大手企業が続々導入する「モバイルオーダー」を成功させるヒント

2022.08.10

コロナ禍で一気に加速したモバイルオーダー。事前にユーザー自身のスマートフォンからオーダーし、店舗ですぐにピックアップできるテイクアウトのモバイルオーダーと、店内飲食の際に自身のスマートフォンからメニューにアクセスし、注文まで済ませることができるイートインのモバイルオーダーの、2つを総称してモバイルオーダーと呼ぶ。

スマートフォンの扱いが苦にならない人なら、いずれもゆっくり注文を済ませることができ、商品の受け取りやサーブまでの流れがスマートになるとあって、今や大型チェーン飲食店から個人経営の飲食店まで、モバイルオーダーシステムの導入店舗は確実に増えている。

そんな私たちの生活になじみつつあるモバイルオーダーだが、実は吉野家や丸亀製麺など、大手企業が導入しているシステムは、ひとつのベンチャー企業が提供していることをご存じだろうか。

そのベンチャー企業は株式会社Showcase Gig(以下、ショーケース・ギグ)。2012年に創立されたこの企業が、わずか10年の間にモバイルオーダーという新しいジャンルで、大手企業からの信用を勝ち得るまでにどんな道を辿ってきたのか。ショーケース・ギグの創業者であり、現在取締役を務める新田剛史氏に、日本におけるモバイルオーダーの発展の歴史と共に話を聞いた。

前編はこちら

オンラインだけのサービスでは海外に勝てない

2000年代前半から、IT関連ベンチャー企業に勤めていた新田氏。その中のひとつが株式会社ミクシィだ。

「唯一、国産SNSでは成功したと思われたmixiでしたが、結局、海外SNSには勝てなかった。起業する際に意識したのは、海外勢が入ってこれない領域のサービスで勝負しようということ。オンラインとオフラインを繋ぐようなサービスは、将来的に需要があり、いつか誰かがやるんだろうな、と考えていました」と新田氏。

そんなとき、飲食店の行列を見て、新田氏は考えた。「行列は店舗側のブランディング的にはいいとしても、消費者にとっては待ち時間なんてメリットがない。それを解消するサービスがあれば、ネットリテラシーがある程度高い層はそっちに流れるはずだ」。

そう考えた新田氏は、ショーケース・ギグでモバイルオーダーのシステムを提供することを決意。2013年7月に「おそらく当時、世界でも初」のモバイルオーダープラットフォーム「O:der」をリリースする。当時の日本におけるスマホの普及率は30~40%で、「スマホでこんなことやらない」という反応もあり、知り合いのカフェに導入してもらったものの、普及に苦労することになる。

POSレジとの連携が必須だと気づく

「O:der」をリリースするときには、ユーザーのスマホから注文し、店舗でその注文を受けるシステムは「それだけならそんなに難易度の高い開発ではない」と思っていた、という新田氏。
しかし「O:der」をリリースして飲食店を回るうちに、大きな壁に当たった。

「POSレジと連携していないとお店が困る」

POSとは「Point Of Sales」の略で、いつどこで、何がいくらで売られたかという情報のことをいう。これらの情報を集約、分析するシステムをPOSシステムといい、POSレジとはこのPOSシステムが搭載されたレジのことをいう。

売上や在庫をリアルタイムに一括管理できるなどのメリットから、大手企業は以前より、近ごろはタブレット型のPOSレジも登場したことから、小規模の企業にも導入されていることが多い。

つまり「O:der」で注文を受け、決済をしてもらうまではいいが、その注文情報や売上がPOSレジと連携していないと、お店のスタッフがそのデータを別途POSレジに反映する必要が出てくる。

特に大手チェーン企業と取引をしたいなら、「O:der」とPOSレジがシームレスに連携できることは必要条件であると新田氏が悟ったのは、2014年のことだ。

そこからPOSレジを提供する大手メーカーと交渉を重ね、2017年に業界最大手の東芝テックと資本提携することに成功した。

「最大手の東芝テックからしたら、いちベンチャー企業と資本提携するなんて、異例の決断だったと思います。話をするうちに、酔狂なことやってるね、って応援してくれて実現しました」と新田氏。

今でこそ、大手企業がベンチャー企業と資本提携を結ぶことは珍しくないが、当時はそんなにメジャーな流れではなかったのだ。

マックもスタバもモバイルオーダー導入

東芝テックとの提携から話は一気に広がっていった。時を同じくして、マクドナルドは自社のモバイルオーダーシステムを、スターバックスコーヒーはアメリカのモバイルオーダーシステムを導入し、飲食業界全体に、モバイルオーダーの認知が上がってきたのもこのころだ。

JRグループなどとの資本提携も経て、「O:der」の導入店舗は次々と増えていった。そして最大のインパクトを与えたのが、2020年2月の、全国の吉野家への「O:der」導入である。

吉野家の店舗数は1000を超えるため、2018年から開発を始め、ようやくこぎつけた2020年の全店舗導入。当時は新型コロナウイルスの話題は出ていたが、緊急事態宣言が出る直前のことだった。これに続き、丸亀製麺やかつやも「O:der」を導入。

「結果的には、テイクアウトのニーズが増えるタイミングで導入できたんですね」と新田氏に投げかけた。

「うーん、結果的にはよかったと思うのですが、コロナ禍は想定していなかったので、4月の緊急事態宣言が出てからは大変なことになりました」と新田氏。

テイクアウトだけでなく、デリバリーの需要も一気に増えたため、吉野家だけでなく、全国の飲食店舗の現場では出前館やUber eatsなどの注文が入り乱れ、めちゃくちゃな状態になっていたそうだ。注文が入りすぎて、時間帯では注文を止めた店舗もあったそうだ。

「もっと売上を上げるためには、ということばかり考えていたけれど、売れすぎて困るという事態は想定していませんでした。売上が上がって喜んでいただけるかと思いきや、エッセンシャルワーカーといわれる方たちは死にそうな状況になっている。自分たちが提供しているプラットフォームもエッセンシャルなものなので、この事態には愕然としました」。

現在では、他社のデリバリーシステムなども連携して「O:der」でひとまとめにできるオプションも開発し、あくまでも現場のオペレーションはスマートになることを優先している。

イートインのモバイルオーダーは実店舗で実践

ここまではテイクアウトの話をしてきたが、ショーケース・ギグはイートインのテーブルでの注文のモバイルオーダーも手掛けている。

「テーブルの注文をモバイル化する構想は2014年くらいからありましたが、テイクアウトだけにしておこうと思っていました。

2015、6年あたりに中国で一気にアリペイやWeChatがブレイクし始め、2017年あたりにいけるのでは?と思い始めました。ちょうど2018年あたりからキャッシュレスブームとインバウンドの波もきていたので、踏み切ろうと決意し、まず最初に、自社で出資した焼き肉屋に導入しました。

テイクアウトの場合もそうなのですが、最初に必ず自社で実際にやってみることにしています。テストというより、ちゃんと熱量をもって、システムのデリケートさや導入へどういうハードルがあるか、接客をどう変えるかなど、メリットと課題を認識しました。

その後、コロナ禍に突入して、日本では店内オーダーとか言っている場合はなくなったのですが、海外ではこの2年間で驚くほど広がっていましたね。日本でも今は、過去最高くらいに導入していただいています。

まだまだテーブルオーダーに関しては、日本はあまり多くないですが、まだまだ未開拓市場だと思うので、動画を入れたり、メニュー表現の幅は広がっていくと思います」。

成功の秘訣は「覚悟と気合い」

テイクアウトに関しては「個人経営店舗などは、リクルートさんが提供するエアレジなどもありますが、大規模なチェーン店舗を展開されている領域は難度が高く、競合が少ない」と話す新田氏。ここまで成功できた秘訣について聞いてみた。

会社の10年の間で、モバイルオーダーで収益化できなかった時代が長く続いたので、何度もやめようかと思いましたが、サービスに関わってくださった方が、いいサービスだと言ってくれたから、頑張れたのだと思います。

自社で実際に店舗を運営してサービスを使ってみるのも、あまりシステム会社はやらないですよね。リスクもありますし。

でも飲食業界って、門外漢に対してきつい部分があると思います。すごいシステムを作ってますよ、と言ったところで、ただのシステム屋さんだと思われると飲食をやっている人とは仲良くなれない。実際に店舗でどれだけ売上げられているのか、で初めて認めてもらえる部分がある。

そういう点では、自社で店舗を運営してみたりと必ずしも効率よくやってきたとはいえないと思うのですが、最終的には覚悟と気合いで、ここまで来られたのかなと思います。

モバイルオーダーで生き残れて、浸透の芽までは見られた気がするので、やりきれた感じはあります」(新田氏)

さらなるリアルとの融合を求め、ショーケース・ギグで新田氏が新たに手掛けたのは、フルーツオレ専門店「The Label Fruit(ラベルフルーツ)」だ。

モバイルオーダーから事前に注文と決済を完了させ、店舗に設置されたロッカーから注文したドリンクを受け取る仕組み。

店頭に並ぶ必要がないのはもちろん、フルーツオレの味をカスタマイズできるほか、ラベルもカスタマイズして、オリジナルのボトルを楽しむことができる。このラベルのデザインや文字をカスタマイズできる点も、プレゼントや推し活のアイテムとしてZ世代に刺さっている

新田氏が次に注目する「オンラインとオフラインを繋ぐ」サービスはどのジャンルに向かっていくのか。次の「覚悟と気合い」を注ぐ先から目が離せない。

【新田剛史さん・プロフィール】

上智大学卒業後、出版社、ファッションイベントのプロデューサーを経て、2009年、株式会社ミクシィ入社。新規事業の責任者として「ソーシャルギフトサービス」などヒットを生み出す。2012年、株式会社Showcase Gigを設立し、モバイルオーダープラットフォーム、“O:der(オーダー)”プロダクトシリーズを開発。同発明における特許も取得。飲食、リテール、鉄道領域のOMO/デジタルサービス・店舗開発も多数手掛ける。

・株式会社Showcase Gig https://www.showcase-gig.com/

取材・文/安念美和子

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