近年、マーケティング業界ではユーザー像の設定において、ペルソナという言葉がよく使われるようになりました。ペルソナの意味・混同されがちなターゲットの違いから、ペルソナを導入するメリット・注意点まで解説します。
ペルソナとは?
ペルソナはマーケティングの場面でよく使用されますが、もともとは古典劇でかぶる仮面が語源です。心理学者カール・グスタフ・ユングは、この仮面を『人間の外敵側面と内面に潜む自分』に見立て、ペルソナの概念を提唱しました。
マーケティングにおけるペルソナの意味
マーケティングにおけるペルソナとは、商品やサービスを利用する『架空のユーザー像』です。商品やサービスの利用シーンを想定して、ペルソナの具体的な年齢・性別・居住地・職業・家族構成など、リアリティのあるプロフィールを設定します。
ユーザーのパーソナリティを細分化することで、自社の商品やサービスに興味を持つ理想像を絞り込めます。ユーザーの行動パターンや趣味嗜好まで分析するため、マーケティングにおいてペルソナ設定は欠かせないプロセスです。
ターゲットとの違い
ペルソナと似た言葉に『ターゲット』があります。両者はしばしば同じように扱われ混同されますが、ペルソナはターゲット設定の一部です。ペルソナとターゲットとの相違点は、ペルソナの方がより人物像を詳細に設定するという点です。
例えば、ターゲットは『20~30代の男性』といったように人物像に幅を持たせます。一方ペルソナの場合は『27歳の会社員男性』のように、より具体的な人物像まで絞り込むのが大きな違いです。
使い方や使用シーンを混同しないように気を付けましょう。
ペルソナが必要な理由
ターゲットよりも具体的に人物像を定めるペルソナは、設定に時間がかかります。マーケティングにおいて、なぜペルソナが必要なのでしょうか?主な理由を二つ紹介します。
ターゲット設定だけでは不十分
ターゲットとペルソナの大きな違いは具体性です。ペルソナは特定の1人の人物を設定するのに対し、ターゲットは単に同じ属性の集団という大きなくくりを指します。ユーザーにより深く刺さる商品を生み出すためには、ターゲット設定だけでは不十分といえます。
ターゲット設定のもう一つのデメリットは、特定の人物像が描けない点です。担当者間で認識のズレが発生する可能性があり、作業の進め方やスケジュール設定において非効率な状況が生まれます。このような無駄を避けるためにも、ペルソナ設定が必要になってきます。
設定によって訴求力が高まる
ターゲットしか定めなければ設定にかかる手間は省けますが、その分だけアプローチの方向性を定めにくくなるでしょう。そこでペルソナを設定すれば、自社の潜在顧客を具体的な人物像に落とし込めます。
ペルソナが何を好むのかが具体的になると、商品やサービス自体の開発だけでなく、広告の打ち出し方をはじめとした販売戦略まで訴求力を高めることが可能です。
ただ、ペルソナとターゲットは、どちらが優れているという文脈で語るものではありません。ターゲット設定は大まかな方針の決定や事前の市場調査のため、ペルソナは的を絞ったアプローチのためにそれぞれ必要なのです。
ペルソナを設定するメリット
ペルソナを設定するメリットは主に三つです。ターゲット設定からさらに対象範囲を絞れば訴求力も高まるので、精度の高いマーケティング戦略を立案でき、顧客のニーズに沿った商品開発が実現します。
マーケティング戦略を立てやすくなる
ペルソナを設定すれば、商品やサービスを利用するユーザー像がどのような反応を示すか検討できます。精度の高いマーケティング戦略を立てられるようになるでしょう。また、明確なユーザー像を想定していれば、好みの把握にかかる時間やコストを削減できます。
ユーザー像を詳細に思い描けていないと、担当者間のイメージにズレが生じ、会議に時間がかかる点も問題です。明確にユーザー像を想定していれば無駄な時間が省け、マーケティング戦略により注力できます。
チームでの業務がスムーズになる
ペルソナを設定すると、どのような人に対してアプローチするのかが明確になります。メンバー間で認識のズレがなくなり、チームで進める業務が円滑になるのは大きなメリットです。
ターゲットの設定だけでは具体的なイメージをつかみにくく、担当者間で意見の食い違いが起こる可能性があるでしょう。会議で衝突が発生して時間のロスが生まれます。
チーム内で業務を円滑に進めるには、意見の衝突をできるだけ回避するのがポイントです。ペルソナを設定して具体的なイメージを想定していれば、簡単に詳細な人物像を共有できます。
自社の商品・サービスに対する認識のズレも低減されるため、円滑にプロジェクトが進行するでしょう。
顧客のニーズに沿った商品開発ができる
ペルソナを設定すると、ユーザー視点で商品やサービスにスポットを当てられます。顧客のニーズに沿った商品開発が可能です。ユーザー像を絞ることで、自社の顧客となり得る人が本当に欲しいと思える(刺さる)製品・サービスを開発できるでしょう。
ターゲット層だけ幅広く設定するだけだと、多くの人に認知はされるものの、誰にも刺さらない商品しか生み出せないという結果になりかねません。
商品やサービスを作る目的は、知ってもらうことではなく買ってもらうことです。適切なターゲット設定は大前提として、さらにペルソナまで落とし込み、架空の顧客を軸に商品開発を進めましょう。
ペルソナを設定する際の注意点
ペルソナは、企業が商品開発やマーケティングを進める軸となります。そもそもペルソナが適切に設定できていないと、売上は伸びないでしょう。設定時は何に注意すればよいのでしょうか?
先入観を反映させない
ペルソナ設定は、企業側の先入観を反映させてはいけません。企業側の理想像を押し付けると、現実味のないユーザー像になってしまうからです。自社の希望的観測ではなく、データに基づいて設定しましょう。
企業の先入観を避ける具体的な方法は、アンケートやSNSなどから消費者の情報を集めることです。ユーザーのリアルな声であれば、自社の先入観から生まれた偏ったユーザー像にはなりません。データを数値化することで、客観的な現状分析ができるというメリットもあります。
設定する条件を絞り込む
ペルソナを設定するときは、条件を絞り込んで具体的なユーザー像まで落とし込む必要があります。とはいえ、設定の項目が広すぎると不要な情報も含まれてしまうため、ユーザー像がかえって不明確になりかねません。
商品やサービス・宣伝の方法に関係しそうな要素に絞って、項目を決めるのが賢明です。例えば、BtoCで個人の生活に合わせて何かを売るには、パートナーの有無や朝方・夜型といった暮らし方が不可欠でしょう。
一方、BtoBで企業担当者をペルソナとする場合、個人としてのライフスタイルを詳しく設定する必要はありません。あくまでも企業やチームが抱える課題が重要になるためです。
売る商品とターゲット層の性質をよく考え、購買行動に関係しそうな要素に絞ってペルソナの設定項目を決めましょう。
定期的な見直しを行う
ペルソナは一度作って終わりではなく、定期的な見直しが必要です。具体的な人物像を想定するため、時間の経過とともにペルソナの置かれた状況や環境が変わり、それに伴って悩みや行動も変化するからです。
消費者の動向をSNSをはじめとする媒体で小まめにチェックし、ペルソナに類似する人たちの状況が、設定した当初とどう変わっているのかをよく調べましょう。
ペルソナとした人物像が適切でない可能性があるのも、定期的な見直しが必要な理由です。十分に自社商品に魅力を感じてもらえると思って設定しても、運用を始めてみるとズレていたというケースも珍しくありません。
もちろん、事前の市場調査から精度を高める取り組みは必要です。とはいえ、うまく成果が上がらなかったときは柔軟に変えていく意識は持っておきましょう。
構成/編集部