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円安メリットがなくなったというのは本当か?日産の黒字化が意味するもの

2022.07.17

2022年7月15日に1ドル139円台前半まで円安が進行しました。24年ぶりの安値水準です。輸出国である日本経済は、為替の影響を大きく受けます。円安は輸出産業にとって大いに有利になります。

しかし、一部のメディアで円安メリットはなくなったとの主張も見かけるようになりました。その根拠の一つとなっているのが、輸出中心の企業は現地生産を行うようになっており、輸出量が減少していることをあげています。

円安の恩恵が受けられなくなったというのは本当なのでしょうか?日本を代表する自動車産業と、日産をもとに検証します。

急激な円高と円安に翻弄された日本企業

まずは日本の輸出額の推移を見てみましょう。2019年は76兆円で前年比5.6%の減少、2020年は68兆円で前年比11.1%の減少となりました。確かに近年の輸出額は減少していますが、これは新型コロナウイルス感染拡大という突発的な出来事が主要因です。

2018年は81兆円で、過去最高だった2007年の83兆円に近づいていました。

財務省貿易統計より筆者作成

2011年に1ドル75円という空前の円高に見舞われ、多くの日本企業が海外に拠点を移したと言われています。当時の日本銀行総裁だった白川方明氏は、歴史的な円高に苦しみ、為替介入を実施しました。しかし円高の勢いは収まらず、追加の介入を求める声が出ていました。

白川総裁は円安誘導に対して抵抗感を持っていたと言われています。円高が長期化する見込みであれば、海外に拠点を移すという経営判断が下されることは大いにありえます。

しかし、円高は長く続きませんでした。黒田東彦氏が2013年3月に日本銀行総裁に就任すると、異次元緩和と呼ばれる大規模な緩和策を実施。2013年12月には100円台まで円安が進行します。

2013年からは輸出額が増加に転じました。

円高が長期化すれば、拠点を海外に移す動きは加速したものと予想できます。しかし、円安に動いたことでわざわざ移す必要はなくなったのです。

営業利益36.3%増の超絶決算となったトヨタ

日本の主力産業である自動車メーカーが、円安によって業績にどのような影響が出たのかを見てみましょう。

トヨタは2022年3月期の営業利益が前期比36.3%減の2兆9,956億円でした。純利益は同26.9%増の2兆8,501億円です。

営業利益率は9.5%(前期から1.4ポイントのプラス)となりました。

決算短信より筆者作成

トヨタは営業利益が大幅に増加している要因の一つに為替変動の影響を挙げ、6,100億円のプラス効果があったとしています。

2023年3月期の営業利益は前期比19.9%減、純利益は20.7%減を予想しています。しかし、トヨタは1ドル115円の為替レートで業績予想を出しており、利益が押し上げられる可能性もあります。

ホンダは2022年3月期の営業利益が前期比32.0%増の8,712億円、純利益が同7.5%増の7,070億円となりました。

決算短信より筆者作成

2022年3月期ホンダの営業利益率は6.0%となり、前期より1.0ポイント上昇しています。ホンダは営業利益において為替の影響が860億円のプラスに働いたとしています。

2023年3月期の営業利益は前期比7.0%の減少を予想していますが、ホンダは1ドル120円で計算をしています。トヨタと同じく、円安の進行で増益となる可能性もあります。

円安は原価率に悪影響を及ぼすのか?

円安になると、材料や部品などの調達コストが上がり、利益が圧迫される傾向があります。しかし、2022年3月期までのトヨタ、ホンダの原価率をみると、原価率が膨らんでいる様子はありません。

■原価率の推移

※決算短信より筆者作成
トヨタ
ホンダ

急速に円安が進行し、資源高に見舞われた2022年1月から3月までのホンダの原価率を見ても79.5%で、急激な変化は起こっていません。

主力産業である自動車メーカーの業績を見ると、円安メリットが大いに発生していることがわかります。

日産の黒字化に貢献した円安

円安に振れたことで、多大なる恩恵を受けた会社が日産自動車。日産は2022年3月期に2,473億円の営業利益を出しました。日産は2020年3月期に404億円、2021年3月期に1,500億円の営業赤字を計上していました。一転して黒字となったのです。

決算短信より筆者作成

日産は為替の影響で営業利益が634億円のプラスに働いたとしています。2023年3月期は為替で更に500億円の恩恵を受ける予想を出しています。

日産は為替に翻弄された歴史を持ちます。

カルロス・ゴーン氏が指揮を執っていた2011年~2016年度の経営戦略が「日産パワー88」。これは販売台数の拡大を目指し、中国や南米などの新興国を中心に市場占有率を高めるものでした。

日産パワー88より

この戦略の背景にあったのは、過度な円高が進行したために生産設備を海外に移し、新興国で安く組み立て、現地の旺盛な需要を取り込んで販売台数拡大を狙ったことがあると考えられます。

しかし、2013年から急速に円安が進行。日産は販売台数を増やしたことで売上高を伸ばすことができましたが、利益率は低迷してしまいます。そして2020年3月期に赤字へと転落しました。

日産は拡大路線を改め、生産拠点の絞り込みを実施します。インドネシア、バルセロナの工場閉鎖を計画。北米工場もスリム化を進めました。

Nissan NEXTより

原点回帰をした日産は、日本のマーケット強化を打ち出し、市場占有率を上げる取り組みを実施しています。輸出企業としての在り方を見直したと見ることができます。

その取り組みが奏功して黒字化を果たしました。

円安は物価高を引き起こして忌み嫌われるものになっていますが、多くの企業に恩恵を与えています。生産拠点が日本に戻ることで、雇用が促進されるかもしれません。デメリットばかりではないのです。

取材・文/不破 聡

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