男も女も黙って亀!
冷蔵ケースのガラスは結露していて、中がよくは見えなかったんだけど、どう見ても妖しい深緑色したヤツが入った小鉢がある。ネタバレしてるんでサッサと書きますが、ひょっとしてこれ、出逢いを待ち焦がれていた亀の手じゃないか?と思ってよく見てもやっばり亀の手!念の為、店員さんに、
「これって亀の手?」
って聞いてみたらそうだってんだよ!!思わず「これください!」っつったら、「自分でとってください!」っていわれて、あ、この冷蔵ケースのツマミもセルフなのねと、取り出し、ジックリと近くで見つめて見ると、やっぱり亀の手!それが小鉢に15手くらい盛ってある!
小走りしながらテーブルに戻り、まずはチューハイ一杯呑んで心落ち着かせ、その亀の手の殻を剥く! 中にはオレンジ色がかった可食が鎮座しておりまして、それを煮汁ごとすする!
30年の想いもあるから、これは旨いよ! 味でいうとムール貝に近いんだけど、アレをシンプルにスッキリさせた感じ。そしてこんな珍しい食材が一鉢の価格、わずか300円!!もう最高。男ってなんだかんだいっても、己の肉体に“亀”を持ってるから、どうしても亀好きだよね。
で、1杯目を呑み終える頃、店員さんが「お通しです」って、盛ってきたのが、有頭海老の鬼殻焼き!
最初はアルゼンチン赤海老かな?と思ったんだけど、コレがよく見ると車海老!車海老はアルゼンチン赤海老よりも足というか手が短めなのだ。
いいのか、こんな豪華な食材?ひょっとして500円くらいお通しで取られるんじゃないか?と心配したが、もう今日は念願の亀の手にも出会えたし、どうでもいいや!ってな気分にある。ちなみに後で計算してみたら、お通し料金は300円くらいでした。車海老でこれは安いよな~。なんでビールだけ高いんだろ。
そんなこんなに軽く30分ほど呑んで喰ってたんすが、例の気取ったビジネスマンの話。川崎だの蒲田だのの立ち呑み屋だと、うらぶれたオヤジくらいしかいないんだけど、神保町ともあると、立ち呑み屋にもいるのね、呑み屋でエラソーにビジネス話してるヤツ。それも回りに自分の話を聞かせたいんだろうね、大きな声でしゃべってんだよ。
「何億の決算なんて何回もしたけどさ…」
そんな話はキャバクラでやってろ、バカ!と思いつつ、ついつい聞こえるんで聞いてたら、ついに出ました、このセリフ!!
「お金は稼ぐよりも、使う方が何倍も難しいと思うよ」
資本主義が登場して以来、一億万回言いつくされたダサゼリフ!それを聞いて「うんうん」うなづく取り巻き連中…オマエら全員一回死んだ方がいい。
文・イラスト/カーツさとう
コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。