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パナソニックがスポーツ施設と街をつなぐ「リカーリングビジネス」を推し進める理由

2022.07.14

松下幸之助氏の創業以来、「松下電工」や「松下電器産業」の名で親しまれてきたパナソニックは、創業90周年の節目となった2008年10月1日に、全世界でブランドをPanasonic(パナソニック)に統一しました。

そして、2022年4月から、持ち株会社「パナソニック ホールディングス株式会社」が誕生。創業100年を超す企業は次の100年に向けて新たな船出をしました。

パナソニック ホールディングスはグループ内に「パナソニック株式会社」を有し、ライティング事業やエナジーシステム、スマートエネルギーシステムを「エレクトリックワークス社」が事業を受け持ちます。

エレクトリックワークス社は自社のコアビジネスとするべく、「スポーツビジネス推進部」を設立。2022年4月1日に発足した、持ち株会社内でサッカーやラグビー、バレーボールなどの興行やスポーツ運営の受託などを行う「パナソニック スポーツ株式会社」と連携し、スポーツビジネスの成長を期しています。

なぜパナソニックはスポーツビジネスを推すのか

スポーツに関する市場規模が拡大しています。スポーツ庁、経済産業省の「スポーツ未来開拓会議」の2016年資料によると、日本のスポーツ産業は2020年では10兆円規模ですが、2025年には15兆2000億円規模になると見込まれています。

【参考】スポーツ未来開拓会議中間報告

パナソニックでも日本のスポーツビジネスでのシェアを進展させる意向はありますが、エレクトリックワークス社の既存の営業機能では、「運営会社」(構想・事業運営)のフィールドでは市場を確保できていないのが実状です。

そこで、スポーツビジネス推進部を中心に、エレクトリックワーク社全社で全方位にアプローチして、アリーナやスタジアム構想に助力。プロ・アマチュアを問わず、「リカーリングビジネス」を提案していく構想となっています。

パナソニックが考えるスポーツ市場でのリカーリングビジネスとは?

リカーリングビジネスとは、循環的なビジネスを意味します。商品やサービスを一度提供すれば終わってしまうビジネスではなく、継続的な価値を提供し、長期的な収益を得るビジネスモデルです。

パナソニックが考えるスポーツ市場でのリカーリングビジネスは、スポーツ施設と街のにぎわいを結びつけるビジネスモデルを意味するものです。

例えば、運営の省オペレーション化やUXのアップグレード、カメラAIによるデータ解析や施設UX評価の可視化などに加えて、デジタルマーケティングや物販エンジニアリングまでを一貫してサポートすることで、スポーツ施設と街のにぎわいをリンクさせるのです。

そして、その先駆けとなるビジネスモデルが、埼玉県熊谷市の熊谷スポーツ文化公園内にある多目的スポーツ施設「さくらオーバルフォート」なのです。

埼玉県+熊谷市+パナソニックの地域振興などに関する協定で「さくらオーバルフォート」が誕生

「さくらオーバルフォート」は、ラグビーリーグ「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」に参加する「埼玉パナソニック ワイルドナイツ」が利用する管理棟や屋内練習場、宿泊棟の施設です。

埼玉パナソニック ワイルドナイツが本拠地を、2万5000人弱の収容人数を誇る球技専門の「熊谷スポーツ文化公園熊谷ラグビー場」へ移転するにあたり、埼玉県、熊谷市とパナソニック株式会社がラグビーフットボールを通じた地域振興などについての協定書を締結。埼玉県ラグビーフットボール協会からグループ会社の「パナソニック ホームズ株式会社」が工事を請負い、2021年8月31日に、「さくらオーバルフォート」として竣工しました。

熊谷ラグビー場と隣接した約3万388平方メートル(9201.5坪)の敷地内に、延床面積が1996.51平方メートル(604.5坪)となる、埼玉パナソニック ワイルドナイツの管理棟・クラブハウスを建設。さらに、延床面積が6027.74平方メートル(1825.2坪)の宿泊棟、屋内練習場などが整備されています。

グラウンド

管理棟・クラブハウス

宿泊棟「熊谷スポーツホテル PARK WING」

クラブハウスと隣接する屋内練習場

さらに、熊谷市スマートシティ ウェルネス事業の一環として、整形外科、リハビリ科などを擁する「ワイルドナイツクリニック」も建設され、埼玉パナソニック ワイルドナイツ選手の健康管理・リハビリテーションはもちろん、一般も利用できる、スポーツドクターによる診療と最新機器による診断が可能な病棟となっています。

リハビリ施設も充実する「ワイルドナイツ クリニック」

リカーリングビジネスとして機能する、「熊谷スポーツホテル PARK WING」「ワイルドナイツサイクルステーション&カフェ」

「熊谷スポーツホテル PARK WING」は、熊谷スポーツ文化公園を利用するアスリートの宿泊・研修施設を主な目的とし、さらには熊谷に訪れたビジネスパーソンや地元のみなさんが利用できるものです。

客室は4階建て204室となっており、最大264名が宿泊可能となっています。

部屋の種類は、全20床の「プレミアム」、全117床の「ボックスベッド」、全9室の「シングルルーム」に全55室の「ツインルーム」、「スウィートルーム」はバルコニースウィートが1室、バルコニージュニアスウィートが2室用意されています。

全117床の「ボックスベッド」は、1泊素泊まりが3025円から。試合当日の準備などでも重宝しそうなデイユースは1980円からとリーズナブルな料金設定とされ、プロ・社会人・学生を問わずアスリートの試合・合宿などに便利です。

また、全20床の「プレミアム」は、合宿引率の先生や父兄にも好評です。1泊素泊まりが4235円からとこちらも利用しやすい価格です。

「シングルルーム」(1泊素泊まり5445円から)は全室グラウンド側に用意。「ツインルーム」(1泊素泊まり7744円から)はグラウンドと公園側に、最上階からグラウンドを見渡せる「スウィートルーム」(1泊素泊まり3万2991円から)は、最大4名で1室が利用でき、バルコニーではBBQを楽しめる部屋も用意されます。

「スウィートルーム」

「スウィートルーム」のバルコニー

「スウィートルーム」のベッド

さらにホテル2階には大浴場が。また、ミーティングや展示会などにも利用できるオープンスペースなども完備します。

この「熊谷スポーツホテル PARK WING」の利用者のうち、43%がラグビー関係者ですが、陸上関係やサッカー関係の利用者も増えており、また、スポーツ以外での利用客も増えているとのこと。地域振興に役立つことが立証されています。

そして、ヨーロッパのクラブチームのメンバーが集うパブのような「ワイルドナイツカフェ」やレンタルサイクルも利用可能な「ワイルドナイツサイクルステーション」も近隣に建設され、多くの利用者を集めています。

「ワイルドナイツカフェ」

「ワイルドナイツサイクルステーション」

パナソニックが目指すスポーツビジネス。その未来

スポーツのリカーリングビジネス以外にも、アリーナの照明演出など、パナソニックのスポーツ事業の躍進は著しいものとなっています。

例えば、青森県・八戸市の「FLAT HACHINOHE」は、アイスホッケーやフィギュアスケート、スピードスケート、カーリングに加え、バスケットボールなどにも利用できる多目的アリーナです。

こちらのアリーナ照明をパナソニックが手がけ、海外プロホッケーリーグやバスケットリーグのようにエキサイティングな演出が可能となっています。

また、阪神甲子園球場の照明設備のLED化や、関西学院大学のナイター照明のLED化など、プロ・アマを問わずパナソニックの照明技術が各スポーツ施設で利用されています。

阪神甲子園球場

関西学院大学のナイター照明

スポーツビジネス推進部では、

1.リカーリングビジネス
2.プロスポーツ アリーナ・スタジアムへのアプローチ
3.アマチュア・学生スポーツのLED化推進

を3本柱として、さらに2029年度は約150億円、周辺を含めて300億円の売上を目標としています。

パナソニックグループの2021年度の売上高は7兆3888億円となっており、そこから見るとスポーツビジネス推進部の売上高は、決して大きなシェアとは言えません。

しかし、事業の成長性を考えると、大変重要な事業であることは間違いありません。

スポーツの〝リカーリングビジネス〟化を進めるパナソニック。これからのスポーツビジネスのあり方を変えるかもしれない、その進展に注目したいと思います。

取材・文/中馬幹弘

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