2022年5月、宿泊業界の新しい決済サービス「tripla Pay」が、tripla(トリプラ社)からリリースされた。コロナ禍で影響を受けたホテル/旅館の利益向上に貢献するサービスであり、面倒なフロントでの支払いがなくなるなど、顧客体験の向上にもつながる興味深い取り組みだ。
決済ルートを換えてホテル/旅館の利益改善
ホテル/旅館の宿泊料は、50%以上がフロントでのクレジットカード決済で支払われている。「tripla Pay」はホテルや旅館が負担する決済手数料を、安価に抑える仕組みだ。初期導入費用・月額固定費用は無料で、3.5%程度かかる決済手数料を大幅に抑えることができる。
宿泊客が決済に利用するのは、ふだんと変わらないクレジットカード。QRコード決済を利用する一般的な「〇〇ペイ」と異なり、tripla Payに会員登録したり、事前にチャージする必要はない。ではなぜ、決済手数料を下げられるのか?
ホテル/旅館に代わってトリプラ社が決済主体となり、カード会社との取引を行うからだ。
宿泊施設ごとの取引では決済件数のボリュームが小さく、どうしても手数料が高くなってしまう。トリプラ社に複数のホテル/旅館の宿泊料をまとめると、主体あたりの決済件数が増えるので、低い決済手数料率が適応される。
実際の流れは、まずホテル側が支払情報を入力すると、QRコードが発行される。宿泊客がQRコードを読み込むと、tripla Payの決済画面にアクセス。クレジットカード情報を入力して支払えば、宿泊客⇔カード会社⇔トリプラ社の間で取引が成立する。
トリプラ社の利益を差し引いても、ホテル/旅館の負担は大幅に軽減する。「1泊1万円×100室のビジネスホテルや、1室5万円×20室の旅館が導入した場合、月々約20万円程度の利益改善につながる(トリプラ社代表 高橋和久氏)」。
宿泊客の利便性も高まる。QRコードを客室のテレビやタブレットに表示したり、紙をドアにかけたりすれば、ユーザーは自分の部屋で支払いを完了できる。チェックアウト時の混雑したフロントに並ぶ、などのストレスがなくなるわけだ。
代理店から集客する業界の常識は崩れつつある
トリプラ社が取り組むのは宿泊業のDX。近年、ホテル/旅館の宿泊予約で拡大してきたのはOTA(オンライン・トラベル・エージェント)と呼ばれる、店舗を持たない旅行代理店。エクスペディア、Booking.com、楽天トラベルなどだ。
そして、次に主流となるのはホテル/旅館の「公式サイト経由の直予約」だと高橋氏は言う。2019年、日本発のクラウド型予約管理システム「tripla Book」を開発。さらに、多言語のAIチャットボット「tripla Bot」、宿泊施設向けのCRM「tripla connect」をリリースした。前述のtripla Payを含め、いずれもホテル/旅館の自社集客を支援するものだ。
コロナ禍で宿泊業界は大きなダメージを受け、ピーク時は70〜80%に達していた平均客室稼働率は10%まで落ち込んだ。しかし、公式サイト経由の直予約(tripla Bookによる)は一時を除き、いち早く回復しコロナ禍以前の水準を超えている。
宿泊業界では長年旅行代理店が力を持っており、ホテル/旅館も「お客様を誰かが連れてきてくれる、という意識が強かった(高橋氏)」。しかし、コロナ禍で顧客管理の重要性に気づき、「自社でお客様を形成する」意識が高まっているという。
そのために重要性を増しているのがブランド構築。高橋氏は、新しい施設だとしても、SNSなども利用しながら情報発信を巧みに行い、ブランド構築から予約につなげる仕組みができている施設は、コロナ禍でも着実に予約が増えているという。
さまざまなビジネスで、アイデアとデジタルを駆使して、自社でブランドを構築し独自に集客できる時代。従来の代理店販売や下請け関係の仕組みは変わりつつあり、そこには新たなビジネスチャンスがうまれている。
自社の独立性を高めるか、あるいは、他者の自立を助けるサービスを提供できないか。皆さんの業界でも、検討してみてはいかがだろうか。
●プレスリリース
コロナ禍で苦境に立つ宿泊業界の利益向上を支援する現地決済サービス「tripla Pay」の提供開始
取材・文/ソルバ!
人や企業の課題解決ストーリーを図解、インフォグラフィックで、わかりやすく伝えるプロジェクト。ビジネスの大小にかかわらず、仕事脳を刺激するビジネスアイデアをお届けします。
https://solver-story.com/