実感年齢の若い人は幸福度が高い――。そんな気になる結果が、今年2月に発表されたサントリーウエルネスの「実感年齢白書」で判明した。
そしてこのほど、さらにその実感年齢が若い人たちの中の50代から70代の層の生き方を分析。第二弾として6つのタイプに分類し、それぞれのモチベーションスイッチが紹介された。
そこで今回は、「仕事」と実感年齢の若さと幸福度との関係を監修した教授に聞いた。自分のタイプをチェックして、将来、長きにわたってアクティブに仕事に取り組むためのポイントも合わせて確認しておこう。
実感年齢の若い50~70代をタイプ別に分類!簡易診断をしてみよう
実感年齢とは、「実際の年齢とは別に、自分自身で感じる自分の年齢のこと」だ。2022年1月に公表された「実感年齢白書vol.1」では、「実感年齢」の若いグループのほうが生活全般に感じている「幸福度」が高い結果となったことが報告されている。
実感年齢が若いグループの幸福度に関する満足度は63.3%、高いグループは40.0%だった。
この実感年齢白書を監修した京都橘大学健康科学部教授の兒玉隆之氏は、本白書について次のように解説する。
【取材協力】
兒玉 隆之氏
京都橘大学健康科学部 教授
1992年国立療養所福岡東病院附属リハビリテーション学院卒業後、理学療法士として脳神経障害患者のリハビリテーションに従事しながら、久留米大学大学院医学研究科を修了(博士(医学))。現在は、京都橘大学健康科学部教授および久留米大学高次脳疾患研究所研究員を務める。専門である神経生理学およびリハビリテーション科学領域の立場から、脳波解析を主なツールとし人の「脳内機能ネットワーク」や「こころとからだの健康」の解明に取り組んでいる。近年は、応用脳科学の視点から脳波による情動可視化の研究にも取り組んでおり、自動車や化粧品会社などとの企業共同研究も行っている。日本ヘルスプロモーション理学療法学会理事・評議員。著書・共著に『神経・生理心理学』、『Neurological Physical Therapy』などがある
「『実感年齢』は、“こころとからだの相互関係から感じられる年齢”を意味します。自身のこころとからだを内観することは、これからの生き方やQOL(生活の質)を変化させるために必要な“自分自身への気づき”を得るということを意味しています。
今回、『実感年齢白書2022 vol.2実践編』では、実感年齢が若い人はどのような志向性を有しているのかについて分析しました。実感年齢が若い人たちの6つのタイプを基準に、自身がどのタイプに近いかを判断することができるようになっています。『タイプを理解しモチベーションスイッチ入れる』ことは、実感年齢が若い理由の背景と特性を再認識しつつ、それらを自身の価値観へと置き換え上手に伸ばしていくための一つのきっかけ作りとしての提案となっています」
では早速、自分のタイプを診断してみよう。
●簡易診断チャート
6つのタイプの特徴とモチベーションスイッチ
6つのタイプ、あなたはどれに該当しただろうか? 自分のタイプについて、傾向とモチベーションスイッチを確認しておこう。
1. アンテナタイプ(周りから良い刺激をもらう)
世の中のトレンドを積極的にキャッチアップ。周りの人や社会から刺激を受け取り、自分のモチベーションにつなげることが得意なタイプ。
●モチベーションスイッチ「あこがれ像の発見」
若々しく生きるための習慣と言われても、いきなり何かを始めるのは難しいものです。まずは、あなたが直感的に「私もこうなりたい!」と思える人を探してみてはいかがでしょうか。右脳的に想像したゴールイメージが、アンテナタイプの皆さんの行動を後押ししてくれるでしょう。
2.フィーリングタイプ(おしゃれでテンションUP)
おしゃれをしてお出かけした日は、ちょっと新しい自分になれる。周りの目線や期待をうまく自分のエネルギーに変えていくことが得意なタイプ。
●モチベーションスイッチ「ちょっとしたお披露目の場」
周りからの視線が集まる場に、積極的に身を投じてみる。その分「自分はこんな服装も似合うんだ」と嬉しくなるようなチャンスが増えるかもしれません。特別なパーティーに限らず、特に用事がない日でも繁華街へショッピングに出かけるなど「小さなお披露目」も大切なスイッチです。
3.コミュニティタイプ(交流で元気をもらい合う)
自分が笑顔になると周りも笑顔になる。ムードメーカーで、人との交流を元気に変えていくことが得意なタイプ。
●モチベーションスイッチ「あなたから周りへの刺激」
周囲の人から頼りにされているコミュニティタイプ。周りの人に刺激を与えて「ありがとう」と言われれば、あなた自身ももっと元気になれるでしょう。例えば、自分から仲間を誘う用事を増やすことは、良いループのキッカケになるはずです。
4.ルーティンタイプ(毎日コツコツ積み重ね)
どんなことにでもコツコツ取り組める。自分自身に向き合って、地道に成果を積み重ねていくことが得意なタイプ。
●モチベーションスイッチ「自分で自分を褒める工夫」
習慣化し、コツコツと取り組むことが得意なルーティンタイプ。例えば、毎日の行動や成果をちょっとしたメモにしてみるなど「振り返ったときに自分が誇らしくなる」ようなひと工夫をするだけで、習慣の質がさらに高まるかもしれません。
5.アットホームタイプ(くつろぎの時間を満喫)
他人との争いを好まず、穏やかな日常を大切にする。自分の価値観で、マイペースに人生の充足感を高めていくことが得意なタイプ。
●モチベーションスイッチ「お気に入りのものを見返す時間」
日常の幸せを見つけるのが上手なアットホームタイプ。自分の本や音楽のコレクションなど、お気に入りのものに触れる時間が良い意味で「ココロの満足感」をさらに高めていくキッカケになるかもしれません。
6.パッションタイプ(ライバルと切磋琢磨)
競い合える相手がいると、やる気が湧いてくる。周りの人との切磋琢磨を通じて自分のモチベーションを高めていくことが得意なタイプ。
●モチベーションスイッチ「心の中でのライバル探し」
ライバルが新たに登場すると、さらに新鮮なモチベーションが湧いてくるはず。例えば、周りの人の近況をチェックすることは、自分自身が目標を立てるときの刺激材料に。そんなことも良いキッカケになりそうです。
タイプ別の仕事のモチベーションスイッチ
では、「仕事」に限定したときに、モチベーションスイッチはそれぞれのタイプについて、どこにあるのだろうか。兒玉氏に解説してもらった。
1.「アンテナタイプ」の仕事のモチベーションスイッチ
「自分を捉えつつ、周りからの情報を取り入れることが得意なタイプですので、仕事においては、まずは『あこがれ像』としての人物や成果をベンチマークとして設定し、そこからさらに独自の価値観を取り入れた目標づくりが良いかもしれません」
2.「フィーリングタイプ」の仕事のモチベーションスイッチ
「他者の視線や期待をエネルギーに変えることが得意なタイプですので、仕事においては、積極的な行動とそれに対する評価をしてもらえる『お披露目の場』の経験値を増やすことが能力向上には有効かもしれません」
3.「コミュニティタイプ」の仕事のモチベーションスイッチ
「他者や社会との交流によってエネルギーを高めていき、またコツコツと取り組むことも得意なタイプですので、仕事においては、仲間と信頼を築き、『周りへの刺激』を意識したこまめな成果の発信(ディスカッション形式がよい)が能力を高めていくかもしれません」
4.「ルーティンタイプ」の仕事のモチベーションスイッチ
「毎日、努力しながら成果を積み重ねていくことが得意なタイプですので、仕事においては、具体的な短期的・長期的目標を設定し、その成果は『自分を褒める』自己評価だけでなく、周りからの評価も取り入れながら洗練させると良いかもしれません」
5.「アットホームタイプ」の仕事のモチベーションスイッチ
「自身の価値観を重視しマイペースに取り組むタイプですので、仕事においては、まずは自分のペースを確保することが効率を高める一つの要素です。また、『お気に入り』の息抜きや小さな目標を多く設定し到達を実感(満足感)することも効果的かもしれません」
6.「パッションタイプ」の仕事のモチベーションスイッチ
「他者との切磋琢磨でエネルギーを高めていくタイプですので、仕事においては、ライバルや目標とする人を意識することは重要ですが、同時に具体的な目標を設定することも大切です。他者だけでなく、『心の中でのライバル』として自分自身の価値観や目標を意識することで、より大きな変化が生まれてくるかもしれません」
なぜ実感年齢が若いと仕事の満足度が高いのか
ところで、「実感年齢白書vol.1」では「仕事への満足度」について、こんな結果が出ていた。実感年齢が若いグループは44.7%だったが、高いグループは24.3%だった。なぜ実感年齢が若いと仕事に満足しやすいのだろうか。兒玉氏に意見を聞いた。
「実感年齢を若く保つために必要となる“こころ”のあり方ですが、これは自己効力感や幸福感といった主観的な心の状態を意味します。自己効力感とは、目標達成のための遂行可能性を認知している感覚を意味し、この自己効力感が低下したり欠如してしまったりすると、運動や仕事を積極的に行うことを避けるようになってしまいます。また、こころとからだのどちらか一方でも不具合を感じると「やりたくない」「やりたいことができない」という感覚が生じ、自己効力感へ影響を及ぼしてしまいます。
実感年齢が若い人の特徴として抽出された6つのタイプからも分かるように、自分自身の価値観や満足感を高めるための方法に、気づきのある人や他者と協応的に接していける人は、仕事においても自己効力感や幸福感を高めることができる人なのではないでしょうか」
仕事にいつまでもアクティブに取り組むには?
人生100年時代、会社員は定年後の第二の人生が長いといわれる。新たに仕事を始める人も多いだろう。仕事に対していつまでも積極的かつアクティブに取り組むには、どんなことを意識すればいいか。
「いきいきとした毎日、充実した仕事を展開するためには、これまでお話しした“こころとからだ”が大切であることがお分かりいただけたと思います。こころとからだは分離できるものではなく、両者を融合し充実させていくことが、若くあるためには重要なのではないかと考えています。
楽しさやつらさを伴う仕事に対して、アクティブに取り組めるためのポイントの一つに、『成功体験』があります。この成功体験は、先の自己効力感に大きな影響を及ぼす要因の一つともいわれています。仕事の中で成功体験を得るために必要なことは、必ずしも何か大きな成果を成し遂げるということではなく、むしろ小さな、自身が体現しやすい目標を打ち立てることが重要です。1日もしくは1週間といった時間の中での目標をいくつか立て、達成できたことで自信になります。達成できなかったとしても、なぜできなかったかを考える自己内観プロセスがこころを安定させ、次へと進むエネルギーとなります。
このような自信と積み重ねが、仕事に対する価値観を向上させるのではないでしょうか。人は喜びややりがいを感じると、動きや行動が変わってくるものなのです」
実感年齢は、実年齢よりも実は大事なのかもしれない。今のモチベーションを高めることはもちろんのこと、将来の計画にも活用することができそうだ。
取材・文/石原亜香利