■連載/ヒット商品開発秘話
マクドナルドが2021年4月、3年ぶりに発売した肉厚ビーフの新レギュラーバーカー『サムライマック』の売れ行きが好調だ。定番の2商品「炙り醤油風タブル肉厚ビーフ」「炙り醤油風ベーコントマト肉厚ビーフ」の累計販売個数が、発売から約1年で8000万個を突破している。
『サムライマック』は、つなぎが入っていないジューシーな100%肉厚ビーフと炙り醤油風ソースを組み合わせた和の味わいが特徴。「炙り醤油風 タブル肉厚ビーフ」は肉そのものの味わいを重視し、肉をがっつり食べた感じが得られるようにした。主に2枚のチェダーチーズ、ソース、2枚のビーフパティで構成。野菜はアクセントとしてオニオンを使用しているぐらいだ。「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」は肉と野菜のバランスを重視。野菜はオニオン、レタス、トマトを使い、チーズはややマイルドなホワイトチェダーチーズ1枚。肉はビーフパティ1枚とベーコン2枚とした。
大人が満足するハンバーガーとは何か?
日本マクドナルドのマーケティング本部メニューマネジメント部 上席部長の若菜重昭氏によれば、『サムライマック』は30代から40代の男性をターゲットに開発したものだという。
企画されたのは2018年秋頃。大人はどういうバーガーに満足感を覚えるのかをリサーチすることにした。若菜氏はこう続ける。
「マクドナルドのブランドを向上する試みで、われわれはよく『LikeからLove』という言葉を使います。この言葉をメニューから考えると、マクドナルドに行って『あれが食べたい』と思っていただける代替がきかない商品になります。目指すところはここなのですが、バーガーであればそれはどういうものなのかを考えることにしました」
普段からよくマクドナルドを利用しているお客様だけではなく、滅多に利用しないお客様の声も聞くことに。マーケティングや消費者調査のチームと一緒になって、目指す商品像を明確にすることにした。
リサーチから明らかになった大人が満足するバーガーは、食べ応えがあるもの、肉と野菜のバランスが取れているものだった。食べ応えがあるものは後に「炙り醤油風 タブル肉厚ビーフ」、肉と野菜のバランスが取れているものは「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」として結実する。
日本マクドナルド
マーケティング本部メニューマネジメント部
上席部長
若菜重昭氏
100種類を超えたソースの試作
つくった試作品は少なくとも100種類。普段、バーガーの新商品を開発するときより多いという。
同様に苦労したのはソースだ。洋風のものなどあらゆるものを検討した結果、こちらもゆうに100種類を超えることになった。和風の炙り醤油の味わいに決まった理由を、若菜氏はこう話す。
「ソースは2つのバーガーに合うことが大前提です。加えて、マクドナルドらしい上にマクドナルの中でも代替がないものを目指して開発しました。レギュラーを目指していましたので、何度食べても食べ飽きず、一口食べたらすぐもう一口食べたくなるものだったのが炙り醤油の味わいでした」
炙り醤油ソースは醤油とオニオンを煮込んでつくったもの。醤油の香ばしさとオニオンの甘味が特徴だ。
ただ社内では、洋風など他の味を支持する層もあったことから、和風の味つけにすることに対し議論になった。意見が割れた状況を一本化することができたのは、美味しかったことはもちろんだが、和風味にした方がメニューポートフォリオの観点からよかったからであった。洋風の味わいが多い中で和風味のバーガーをラインアップすると味のバリエーションが増え、より多くの人の嗜好に対応できることから炙り醤油の味わいに決まった。
主に使うのが醤油とオニオンと身近なものだが、ラボレベルでつくったものと同じものが工場ではなかなかできなかったという。「オニオンを大量に使うので辛みが出てしまいます。甘みを出すために工場で何度も繰り返し試作することになりました」と若菜氏と振り返る。
1秒に4個売れた
お客様の反応を確かめるため、2020年4月に全国の店舗(一部店舗は除く)で期間限定販売を実施した。販売期間は1か月ほどだったが、2品とも490円と他のハンバーガーより高い価格設定ながら、売れ行きは予想以上で、好評のうちに終了。その後、福岡でのテスト販売も好評を得てレギュラー販売へと移行した。
『サムライマック』は、期間限定販売や福岡でのテスト販売で好評だった味わいをそのままにレギュラー販売に移行。予想を超える売れ行きで、2品は発売から12週間、1秒に4個のペースで売れていった。
イメージキャラクターに俳優の堺雅人さんを起用したテレビCMで商品の認知拡大とイメージ定着を図る一方で、Twitterキャンペーンも実施。マクドナルド公式Twitterアカウントから投稿された所定のツイートをフォロワーが所定のハッシュタグをつけてリプライし、その中から抽選で選ばれた当選者にマックカードをプレゼントするというものを断続的に実施している。
Twitterキャンペーンの際、マクドナルド公式Twitterアカウントから投稿されたツイート例。写真は2022年4月11日に実施された「リプライで当たる!『夢のサムライマック』キャンペーン」(すでに終了)でのもの。マクドナルド公式Twitterアカウントをフォローの上、このツイートにハッシュタグ「#夢のサムライマック」をつけてリプライすることでキャンペーンへの応募が完了する
このTwitterキャンペーンのユニークな点は、応募期間が短いこと。ワクワク感を感じてもらうため、気軽に参加できる短期間のキャンペーンをいくつも実施するようにした。「消費者にはいろんな選択肢がありますので、マクドナルドを思い出していただくには発信し続けることが大切です」と若菜氏は言う。
期間限定品も随時発売
『サムライマック』は「炙り醤油風 タブル肉厚ビーフ」「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」以外に、期間限定メニューも販売している。
まずは発売したのが、ドリンクの「コーク(R) 辛口ジンジャー」と「同 辛口ジンジャーフロート」の2品。2021年4月から5月下旬まで販売された。
ドリンク2品をつくったのは、セットで購入する人向けにピッタリなものを提供したいという考えから。炙り醤油との相性を追求し、辛口のレモンジンジャーをコーラにプラスした爽やかな味わいに仕上げた。
夕方5時からのディナー時間帯専用の期間限定品、「炙り醤油風 トリプル肉厚ビーフ」も開発。これまで2021年4月と8月、2022年4月と3回発売している。『サムライマック』のボリュームや美味しさを訴求する意味合いから開発したが、初回販売で想定の2倍以上の売り上げがあったことら、機会を見てディナー時間帯に期間限定販売を実施している。
2022年1月には「旨辛 ダブル肉厚ビーフ」と「燻製風マヨ トリプルベーコン肉厚ビーフ」の2品を1か月近く販売する。「旨辛 ダブル肉厚ビーフ」は熟成させた唐辛子ソースとスパイシーチーズを使い辛く、「燻製風マヨ トリプルベーコン肉厚ビーフ」は燻製風マヨソースを使い香ばしい味わいにした。
「期間限定品はレギュラー品を盛り上げるために発売しています。レギュラーの美味しさをもう1回味わっていただく機会を、期間限定品の発売でつくっています」と若菜氏。位置づけが明確だ。
取材からわかった『サムライマック』のヒット要因3
1.大人の満足を追求
食の経験が豊富な大人が、何かのついでに買うではなく「コレが食べたい」という強い来店動機を持つものを開発。大人が満足するバーガーの要件を求め、掘り下げた結果が販売実績に表れた。
2.また食べたくなる味わい
食べ物にとって最初の一口が美味しいことは必須条件といってもいいが、リピートしたくなる味わいでなければ人気が出ても一過性で終わってしまいかねない。その意味から言えば、香ばしさのある炙り醤油とオニオンの甘みを引き出したソースなどが飽きのこない美味しさにつながった。
3.期間限定品で盛り上げる
注目してもらうために、期間限定品を適宜販売。定番2品を盛り上げるために活用した。これに応募期間が短いTwitterキャンペーンも絡めたことも盛り上げに貢献した。
マクドナルドによれば、『サムライマック』の味の評価は全商品の中でトップといってもいいほど高い評価を獲得しているとのこと。購入者は全体的に見ると、10代、20代の若い世代も多いが、当初ターゲットとした30代、40代男性に多く購入されているという。ターゲット層の獲得は成功しているといえそうだ。
文/大沢裕司