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セガが売却したゲームセンター事業を引き継いだ「GENDA GiGO」が早々に営業黒字を達成した理由

2022.06.26

セガサミーホールディングスが2020年12月に売却したゲームセンター事業GENDA GiGO Entertainment(旧:セガ エンタテインメント、GENDA SEGA Entertainment)が、2022年1月期に31億7,500万円の営業黒字を出しました。

新型コロナウイルス感染拡大で営業活動が制限され、2021年3月期に23億800万円の営業損失を計上してから一転。いまだコロナが消費者に影響を与える中、早くも黒字化を達成しています。

GENDA GiGOに何が起こっているのでしょうか?

減価償却費を極限まで下げることに成功したか

GENDA GiGOの2021年3月期の売上高は前期比29.2%減の287億6,000万円でした。GENDA GiGOは2022年に決算期を1月に移行しているため、10カ月間の業績になっているものの、2022年1月期の売上高は前の期と比較してわずか5.1%の増加に留まっています。

GENDA GiGO Entertainment電子公告より筆者作成(営業利益の目盛りは右軸)

つまり、GENDA GiGOは売上高を大幅に伸張させたのではなく、費用を削減して利益を出す体質へと転換しました。

その様子をよく表しているのが、原価率の推移です。2022年1月期の原価率は76.0%。セガが売却する前の2020年3月期は84.4%でした。8.5ポイントも削減しています。

GENDA GiGO Entertainment電子公告より筆者作成

ゲームセンターは原価が膨らみやすいビジネスモデルです。ゲーム機器を導入する投資額が大きく、減価償却費が重くなりやすいのです。また、最近は通信対戦型のゲームが多く、通信料の負担も大きくなりました。

原価をカットしにくいビジネスモデルですが、GENDA GiGOはどのようにして削減したのでしょうか?

GENDA GiGOで注目したいのが、貸借対照表上の固定資産の金額の変化。2020年3月期は247億7,500万円でしたが、2022年1月期は115億4,100万円まで半減しています。GENDA GiGOは、コロナ禍の2021年3月期に134億5,700万円の減損損失を計上しています。ここがポイントです。

減損損失とは、会社が持つ資産価値が低下し、帳簿上の価格を下回った下落分を損失として計上するもの。例えば、ゲーム機を100で購入して貸借対照表に反映された後、ゲームセンターに人が集まらず、価値が30まで減ったとします。そのとき、70を減損損失として損益計算書に計上することになります。

GENDA GiGOは2019年3月末時点で、「アミューズメント施設機器」を固定資産として109億7,400万円で計上しています。2020年3月期は7億5,500万円。100億円以上減少しています。減損損失は主にこの「アミューズメント施設機器」の価値の見直しだったと考えられます。

GENDA GiGOは減損損失を計上した2020年3月期以降、ゲーム機器の減価償却費を大幅に削減することができ、営業利益を出しやすい体質になったものと予想できます。

株式を底値で拾った投資ファンドの手腕

セガはゲームセンター事業の売却時、構造改革費用として200億円の特別損失を計上しました。これは当時のセガ エンタテインメントが保有していた固定資産などの帳簿価額を、株式譲渡による回収可能額まで減価したため。つまり、セガは売却による利益を得ていません。2021年3月期のセガの有価証券報告書を見ると、セガ エンタテインメントの株式の売却価額は0になっています。

セガサミーホールディングス有価証券報告書より

セガは構造改革を進めており、グループ全体の固定費を中心に150億円削減する計画を立てていました。ゲームセンター事業はその一環であり、コロナ禍で収益性が急悪化したことと市場拡大が見込めないために、保有資産を売り急いだとも見ることができます。

ゲーム事業を買収したのがGENDAです。GENDAは投資ファンドのミダスキャピタルの傘下にある会社。ミダスキャピタルは2019年12月に上場したBuySell Technologiesに出資したことでよく知られています。2022年6月30日に上場予定のAViCにも出資をしています。

GENDAの代表取締役会長を務めるのが片岡尚氏。片岡氏は2013年にイオンのゲームセンター事業であるイオンファンタジーの代表を務めた人物。ゲームセンターのスペシャリストです。2018年5月にGENDAを設立しました。

セガのゲームセンター事業を買収した当時、GENDAの筆頭株主はミダスキャピタルで63.7%の株式を保有しています。片岡氏の出資比率は17.0%です。

GENDAが投資ファンドの傘下にある以上、5年ほどで会社の価値を上げ、売却か上場を狙うはずです。

宝島買収はロールアップ戦略か

投資ファンドらしい動きをしたのが、ゲームセンター運営会社宝島の買収。GENDA GiGOが2022年1月に宝島の全株を取得し、5月に吸収合併しました。宝島は24店舗のゲームセンターを運営する中規模企業。この買収は投資ファンドが得意とするロールアップ戦略の一環と見ることができます。

ロールアップとは、同業他社を次々と買収してシェアを高める手法です。ゲームセンターのように固定費が高い装置産業の場合、規模の経済が働きやすく、店舗数を多くすることで固定費の低減を図れることがあります。

ゲームセンターを運営する中小企業は、コロナで大打撃を受けました。特に繁華街を中心に出店している会社は、家賃負担が重くなります。売却を検討する可能性は高く、GENDA GiGOが今後その受け皿になる可能性は十分に考えられます。

GENDA GiGOは2022年1月にセガが保有していた14.9%の株式を取得し、セガからの経営の独立性を確保しました。「SEGA」ブランドで運営するゲームセンターを「GiGO」に変更しています。規模拡大に向けた土壌は整いました。

斜陽産業だと言われるゲームセンターの運営会社が、上場する日がくるのでしょうか。注目度の高い企業です。

取材・文/不破 聡

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