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【仕事の裏側】トーチクリニック院長・市山卓彦さん「不妊治療は命をつなぐ医療です」

2022.06.26

気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第11回は、婦人科・不妊治療クリニックの「torch clinic(トーチクリニック)」院長の市山卓彦さん。周産期救急医から生殖医療専門医となった市山さんがクリニックを立ち上げるに至った思いとこれから実現していきたい世界とは。

産婦人科医として、救急の現場で芽生えた違和感

市山さんは内科開業医の次男に生まれ、60年にわたり地域医療に貢献する祖父の背中を見るうちに自然と医者の道を志すようになった。研修医として産婦人科に勤めていた際、子宮頸がんの女性の最期に立ち合ったことがきっかけで内科ではなく産婦人科医としての道を進むことを決めた。

「日本では毎年1,000人以上が子宮頸がんによって子宮摘出の手術をし、2800人の女性が命を落としています。子宮頸がんはワクチンや早期発見で助かるはずの病気なのに、なかなか普及せず、今も多くの女性が苦しんでいます。ワクチンや検診の大切さを伝えたいと思い、産婦人科医になることを決めました」

伊豆半島にある三次救急を行う大学病院に配属となり、時にはドクターヘリにも乗りながら、お産や周産期救急に携わるハードな日々を過ごした。多忙を極める中でも、産婦人科医として自分の生を妊産婦や新しい命に役立てられることに喜びを感じていた。

救急搬送される患者には高齢の妊婦も多く、子宮を摘出しないと救命さえ難しい状況下で「不妊治療を頑張ってやってきた、まだ受精卵が残っているから子宮を取りたくない」と涙する人もいた。「実は産婦人科医でも、不妊治療について専門性を持って正しく理解できている医師はそう多くおりません。当時の私もまさしくその1人で、お産の現場にいるのに、彼女たちの妊娠までの背景を知らないこと、気持ちに寄り添えないことに徐々に違和感を持つようになりました」

市山さんの生殖医療の専門医としての礎を築いたのが、北九州にある不妊治療専門施設のセントマザー産婦人科医院だ。日本では年間約45万件の体外受精が行われているが、そのうちの7000件の治療は、西の“最後の砦”とも称される同施設で医師5人で行われており、1日に300人もの不妊患者が通院している。「野戦病院のようにハードな環境でしたが、世界でも有数の高い技術を学び、男性の不妊治療にも多く携わらせていただきました。今トーチクリニックで掲げている考え方もセントマザーからたくさん影響を受けています」

3年ほど修行を積んだ後は再び大学病院へ。セントマザーでの経験を生かし、同施設の不妊治療センターの治療成績向上に大きく貢献。同時に、地域周産期母子医療センターであった同院で改めて周産期救急の現場に戻り、不妊治療から寄り添ってきた患者の出産に立ち合えた時は何にも代え難い喜びを感じたという。しかし同時に通院の負荷をはじめとした不妊治療に対する社会課題を感じ、患者が仕事と不妊治療を両立できる世界を実現するには、既存の環境を離れ新しく行動するしかないと、2022年5月恵比寿に不妊治療専門クリニック「トーチクリニック」を開院した。

働く女性やカップルが治療に取り組みやすいクリニックを目指して

一般的に不妊治療には不妊症というペインに加え、【金銭的・心身的・社会的】の3つのペインが大きな課題として挙げられる。今年の4月から不妊治療には保険が適用されるようになり、金銭的負担は軽くなる。トーチクリニックでは患者から残りの心身的・社会的ペインをできるだけ取り除けるよう、独自のシステムを取り入れている。

「不妊治療は待ち時間に1−3時間かかることはざらで、しかもひと月に3−5回程度の受診が必要となります。そのため働く女性にとって仕事との両立がとても大変で、不妊治療に取り組む女性の17%が離職しているというデータもあります。トーチクリニックでは、ハイレベルの医療の提供に加え、不妊治療が原因で仕事を辞める人をゼロにしたいという思いから、生殖医療のDX化を進めています」

注力しているひとつが院内での待ち時間の削減だ。トーチクリニックではオリジナルアプリを開発し、予約から問診、決済までがアプリ内で完了できる。更に決済に関しては後日会計を導入することで当日の待ち時間はゼロ。院内処方を採用しているので薬局での待ち時間もゼロである。

ふたつめはカップルで治療に取り組みやすい仕組みづくり。不妊症の原因は48%男性にある。しかし不妊治療はどちらに原因があっても実際治療に通うのは女性が主体となる。そのため治療が進む間にカップル間でモチベーションや知識の差が生じてしまうことも多い。トーチクリニックは恵比寿駅から徒歩1分と、仕事前後でも通いやすい立地にこだわり、カップルで通えることができるよう夜間や土日も診療している。また診療内容のサマリーを渡すことで、説明が難しい診療内容もパートナーと共有できるように工夫している。この秋にはオンライン診療も導入予定だ。

不妊治療のゴールは、二人が幸せになること

市山さんが大事にしているのが、診察時に行う“カップルの思い”についてのヒアリングだ。医学的に正しい治療方針を示すだけではなく、なぜ子供が欲しいのか、いつまでに何人欲しいのか、といった家族計画や、受診に至った患者の気持ちや背景をを理解するところから始める。

「不妊症は、がん治療などと異なり命を奪う疾患ではありません。不妊治療は命をつなぐ医療で、幸せな家庭を持っていただくことが最大の目的です。では二人が幸せになるためにどんな方法があるのか。2人の家族計画にあった選択肢を理解いただき、納得した上で治療に進んでもらうことを何より大切にしています。

日本の妊孕性(妊娠する力)についての知識は、先進諸国のなかで最低水準とされ、『女性は40代でも30 代と同じくらい妊娠する可能性があるか?』の問いに正確に答えられるのは、男女共に約半数程度とされています。不妊に悩むカップルの中には生殖についての正しい知識をお持ちでいない方も大勢いらっしゃり、そういった人たちに正しい知識と選択肢を提示してあげるのが私たちの役割だと思っています。

私の医療観として、患者様には常に寄り添いたいと思っていますが、当然医師のみで理想を追求することは不可能で、結果待ち時間が増えて患者様を不幸にしてしまうのは本末転倒。そのためトーチクリニックでは同様な医療観を持った助産師や看護師、胚培養士、受付スタッフやカウンセラーを集め、医院にいる医療スタッフが誰でも患者さんに寄り添えるようチームづくりをしています。極力医師は医師のみしか出来ない診察と意思決定に注力する体制。これもセントマザーで学んだ診療のスタイルです」

目指すは不妊治療の業界全体の変革

市山さんが目指すのは、トーチクリニックのみならず業界全体の変革。13000人の産婦人科専門医の中で生殖医療専門医はわずか900人程度、不妊治療にはまだまだ地方間格差もある。今後は、アプリやオンライン診療を用いて周産期クリニックや婦人科クリニックと情報共有しつつ、基本的な検査や治療は患者の自宅近くの院で行い、人工授精や体外受精などの高度生殖医療は不妊治療専門クリニックで行い連携をとり合う仕組みをつくりたいという。

「不妊治療でもっとも聞くのは、『もっと早く知りたかった』という声。就学時・就労時・結婚時など、ライフステージに合わせてもっと適切な教育や情報提供がされるようにならないといけないと思っています。

患者さんにもっと寄り添いたいし、想いをともにする仲間も増やしたい。まだまだ効率化できることや仕組みを変えられることもたくさんあります。もっともっと僕らは患者さんに寄り添える、社会に多くを還元できると思っていて、やりたいことばかりで全然時間が足りません」

【取材協力】

トーチクリニック 院長
日本産科婦人科学会 専門医・指導医 / 日本生殖医学会 専門医
市山 卓彦さん
torch.clinic/doctors/ichiyama

取材・文 / Kikka

ライター/広報。営業、留学カウンセラー、広報の仕事を経て会社員10年目に独立。横浜、湘南を拠点に活動。
http://www.tsunagalo.com


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