小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

京都発のEVベンチャー「フォロフライ」が挑むラスト1マイルの電動化への道

2022.06.19

【Innovator’s NEWS】ラスト1マイルを変える〝新たな日本車メーカー〟

イノベーターの情報を発信するニュース、今回は電気自動車=EVの市場で起きているイノベーションを紹介したい。エネルギーのコストがガソリンに比べ格段に安く、脱炭素も達成できるEV。しかし日本車は、運送会社が使うEVトラックでも1台1000万円近くと高価だ。この現状を打破し、日本の「運ぶ」を変えようとしているのが“新たな日本車メーカー”と呼ばれる京都のベンチャー企業「フォロフライだった。

新市場への参入障壁は“社内の規則”!?

 人手不足に悩む運送業界に次の危機が忍び寄ろうとしている。恒常的に値下げ圧力との戦いを強いられつつ、環境への負荷の削減も求められつつあるのだ。フォロフライの小間裕康社長が話す。

「ところが、EVを使いたくても“ラスト1マイル”の輸送に適した車は、現状、ガソリン車しかないのです。しかも価格が高い。ガソリン車なら300万円くらいで買える車が、EVだと1000万円近くします。そして、運送業者の方たちが値上げしようとしても、荷主さんは首を縦には振りません」

 この“ラスト1マイル”のEV化は、まだ手をつける者がいない巨大な市場なのだ。ではなぜ、日本の既存メーカーはこの市場に安価なEVを投入しないのか。小間氏によれば「割り切って機能や性能を捨てるのが難しい」らしい。

「例えば外国の車はミラーを畳むとネジ穴が見えたりします。しかし日本メーカーでは“不格好だ、有り得ない!”となり、こういった目立たない穴も綺麗に隠すんですね。また運転席の足下から部品が見えないようにFRP製のカバーをつくって綺麗に隠したり、ボンネットやドアフェンダーなど各種外装部品同士の段差をなくす『チリ合わせ』という作業も非常に高い精度で行います。もちろん自家用車なら必要かもしれませんが、私は配送車には必要ないと感じるのです。

 しかし日本のメーカーは、企業内の規則でこれらの作業や部品を省いた製品をつくることができないのですね」

フォロフライの小間氏(左から3人目)と同社の商用EV『EV VAN F1』

起業のポイントは“怖い物知らず”

 小間氏は『プロ起業家』とでも言うべき存在だ。元々は何と、ピアニスト。人気が出て自分だけでは演奏依頼に応えることができなくなり、ミュージシャン専門の派遣会社を始めた。次に、派遣業繋がりで家電量販店向けの人材派遣会社を設立、その後「私にはビジネスを裏付ける専門知識がないない」と痛感し、京都大学大学院に通い、この時、電気自動車に巡り会った。

 言葉を選ばず言えば、小間氏にはいい意味で“怖い物知らずの素人”だった。実はピアノも独学だった。高校生の頃ピアノを使ったロックバンドに憧れ、楽譜も読めなかったが食事をとる時間も惜しいほど熱中した。その後も演奏を続けると、ピアノを叩くような独特の弾き方がウケ、毎週のように演奏会に呼ばれるようになった。そんな経歴があるからか、日本でまだ「自動車は電気で動くようになる」と言われ始めた頃にこの話を聞くと「面白い!」と技術も何もないのに「EVメーカーをつくる」「スポーツカーをつくりたい」と考え、彼は2010年、京都に自動車メーカー「GLM」を設立した。小間氏が振り返る。

GLMの「GLM-G4」

「今思えば苦笑するほど、自動車のことは全然わかってなかったですね(笑)。人材派遣ビジネスで1億円ほど蓄えがあったので、2億円ほど外部調達し、3億円でチャレンジしました。今思えばさすがに甘く、1年くらいで資金は底をついたのですが……その頃から世の中でも“将来、自動車はEVに変わる”と言われ始め、様々な投資家から運転資金を集めることができました」

 人材は「超一流が集まった」らしい。さすがに部下の評価が高すぎるのでは? と感じたが、小間氏によれば理由があった。

「自動車メーカーに務める方たちの多くは“自分のクルマをつくりたい”という想いがあるのです。しかし大手だと、チーフエンジニアになるまで何十年もかかるのが普通なんですね……」

 技術者の多くは、子どもの頃から「自分が設計したクルマを、自分が納得行く技術を使い、自分が求める性能を実現したい」と夢見てきたに違いない。しかし大手メーカーに入社するとクルマは組織でつくるものと気付かされる。仕事は細分化され、「あのクルマは僕がつくった!」と言える充実感がほしい技術者は心のどこかで子どもの頃の夢をくすぶらせ続ける――。

 そんな人間たちが、一流メーカーの技術者という立場を投げ打ち、小間氏の夢に賭けたのだ。もしかしたら派遣業で1億円貯めた彼の実績にも安心感があったかもしれない。ちなみにGLMのスタッフはその後も40名を超えることはなかったという。こうして「少数精鋭」が実現した。

 そんな彼らがつくったクルマが、日本初のEVスポーツカー、「GLM-G4」だった。

GLM-G4を前にプレゼンを行う小間氏

 小間氏の紹介が幾分長くなったので、ここからは先を急ぎたい。彼はその後、GLMを香港市場で上場させバイアウトし、ここで得た資金でベンチャー向けのファンドを運営していた。

 しかし、冒頭で伝えた問題に直面し、再び1億円の私財をなげうち、2021年8月、フォロフライを設立したのだった。

優位性は“ファブレス”と“サブスク”

 自動車は巨大な産業構造の上に生まれる。ギア、外装パーツ、それらの素材と精密加工、ガラス、電子部品等々、大手自動車メーカーは多くの協力会社に支えられ自動車を製造している。そんな中、小間氏はなぜ彼らに並び、勝てると踏んだのか?

 その焦点が「ファブレス生産」だった。

「工場は持たず、世界で最も生産に向いた地域で製造するんです。米国のAppleがiPhoneをつくるのと同じですね。

 そんな中、私が選んだのは中国でした。実は今、中国政府はEVやバッテリーの生産に対し、非常に手厚い補助金を出しているんです。これをもらっている工場だと安く生産できます」

 自動車の開発は、ボディとシャーシ(ボディを載せる骨組み)や、サスペンション。コイルバネを含む足まわりの設計に膨大な労力がかかる。これを生産するラインも構築にも巨額の費用が必要だ。そこで小間氏は、中国メーカーが販売している車のボディ、シャーシ等を流用し、そこにフォロフライの技術陣が、安全性の強化を中心として100箇所を超える様々な設計を加え、日本市場にも受け入れられる車を完成させた。小間氏が話す。

「今は工業製品に関するアイデアがあったら、ファブレス生産にする方がいい場合が多いと思います。生産委託先の工場では様々な部品を使っています。共同購入という形でこの部品を使えば、スケールメリット(大量に仕入れることで1個あたりの単価を下げられる)によって部品の単価を下げられます。安全性に関わる部品だけ日本製を使うこともできます。それに、他国の方がいい製品を安価で生産できるようであれば委託先を変えることもできます」

 彼らは安全対策と、走行可能距離に影響する軽量化には徹底的にこだわったが、それ以外は極力そぎ落とした。

「このカバーは必要ないね、と使わないことにしたら、メンテナンスする時にいちいち外さずすむようになるなど、メリットも多かったですよ。

 たまに“フォロフライの車は中国品質”と誤解されますが、設計も日本で、今後は、日本製の部品の採用も進んでいきます。今後、フォロフライの車が売れていけば日本の部品メーカーも潤うはずですよ」

 彼は“ファブレス生産”に加え、“サブスク化”も果たした。少し前「消費者はモノでなく“コト”がほしいのだ」と言われた。例えば「高級ホテルに泊まりたいのではなく、家族やパートナーの笑顔が見たいのだ」といった考え方だ。小間氏はこれを自分のビジネスにも適用した。

「企業はEV化により、脱炭素を果たしたいのと同時に、ランニングコストを安く抑えたいはずです。そこで『EVを買いませんか?』という営業でなく『年間これくらい安くなりますよ』と提案する営業をしています。EVを動かすには数十万円の充電器が必要です、運用するクルマが10台を超えれば電気の容量を上げる必要があり、夜間電力で充電するには専用の機械が必要で、それぞれ100万円を超える費用がかかります。単純に『ガソリン車に比べ“燃料”のコストは3分の1程度になりますよ』という話ではないのです。そこで私は『投資にこれだけ必要で、月額これくらい安くします』と話し、コストダウンを提案しているのです」

営業は「一緒につくる未来を伝える」

 小間氏の話を聞くと、人間はいま目の前に見える景色を信じすぎてしまうのではないか、と感じた。自動車は大手メーカーがつくるもの。メーカーは自動車をつくる会社――。そんな景色を信じるか疑うかが、人生を分けるのではないか?

 そして、こんな“イノベーター魂”を応援する企業は、実を言うとたくさんある。運送大手・SBSホールディングスはフォロフライの車を1万台導入すると発表、大手商社もフォロフライへの出資を始め、小間氏が1億円で設立した企業は1年を待たず事業価値が100億円を超えるまでになるという。

「GLMを起業したばかりの頃、元ソニー社長の出井伸之さんと出会って可愛がってもらいました。出井さんは大手企業の方に、GLMをこうご紹介されました。 “日本という村に新たに生まれた子供だ。周囲の大人が立派に成長させよう!”と――

 日本の企業社会は、実績もあり、真剣さも感じさせる人物を助ける度量があるのだ。小間氏いわく、現在進行中の商談でも、そんな文化に助けられているという。

「当社はメンテナンスに関し、まだ大手のメーカーさんのように自社だけでやりきることができません。そこで全国展開される自動車メンテナンスの会社と提携し、物流会社さんが当社の車両を導入されたら、その導入エリアの対象拠点から一つずつ当社の車両がメンテナンスできるように対応をしていただきます。そんな状況でもよいでしょうか? と訊ねると、ある企業の社長は『いえ、むしろできないことはできないと言ってほしいのです』と言ってくれました。この言葉は、今も心に染みています。有り難かったですね」

フォロフライの『EV VAN F1』と小間氏(写真左)。1トンクラスの宅配用電気自動車のナンバーの交付を受け、物流大手、SBSホールディングスに納入した。

 大企業にまだ実績がないものを売り込む、それは不利な盤面のオセロに似ているだろう。普通にやっても勝てない、ただし“ここに置けばパタパタと裏返せる”場所もある。小間氏が話を継ぐ。

私が営業の相手と話す時に気にしているのは、一緒につくるべき未来を伝えられているかどうかなんです。この事業がうまくいくと、こんなに素晴らしい未来が見られますよ、従業員の方はこんなに喜び、荷主さんにも選んでもらえますよ、といった具体的なゴールの風景伝えるんですね。

 エンジニアの募集も同じです、例えばAmazonのクルマが自宅前に着いて、子供が“お父さんがつくったクルマで荷物が届いたよ! ”と言っている、そんなシーンを描きながら話すと、皆がワクワクしてくれます

 このワクワク感こそ、ベンチャーが売るべきものなのだろう。あと、小間氏の実績も大きいのでは?

「そうかもしれません。私は“お金は嘘をつかない”と考えています。優秀そうに振る舞うこと得意な方や、プレゼンが上手な方はいらっしゃるでしょう。しかし、本当にお金を稼げているかどうかは嘘をつけません。

 だから私も、お取引をいただいた方にはソンをさせませんよ(笑)」

 読者諸氏の玄関先に、彼の車はいつ頃来るだろう? 今後が楽しみだ。

取材・文/夏目幸明

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2024年11月15日(金) 発売

DIME最新号は「2024年ヒットの新法則!」、永尾柚乃、小田凱人、こっちのけんと他豪華インタビュー満載!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。