飲食店探しの鉄板ツールとして長らく王座に君臨していた「ぐるなび」が、新型コロナウイルス感染拡大以降の大幅な売上減から回復できません。2021年10-12月の売上高は34億5,600万円。この数字はコロナ前の2019年10-12月のわずか4割です。
競合の「食べログ」の同期間の売上高は53億800万円。コロナ前の7割以上まで回復しました。なぜ、ぐるなびはこれほど苦戦しているのでしょうか?
後発の食べログが王者を追い越す
ぐるなびの売上高は、コロナによる急速な商環境の変化により、2021年3-5月に前年同期比76.4%減となる17億8,200万円まで落ち込みました。
※決算説明会資料より
政府による需要喚起策Go To Eatキャンペーンで一時回復したものの、それ以降は失速しています。
ぐるなびの売上高は飲食店の定額掲載料に依存しています。食べログやRettyなど、競合のグルメメディアもこのビジネスモデルで成り立っています。メディア側からすると、一度飲食店と契約をすれば“自動的”に広告費が収入として入ってくるため、手離れが良く(営業コストがかからず)、利益率の高い商いが成立します。
ぐるなびはこの定額掲載料をストック型サービスと呼んでいました。ストック型サービスの売上高は、コロナ後におよそ3割まで縮小。そこから大きく回復することなく、収益基盤は揺らいだままです。ぐるなび全体の売上高が減少した原因はここにあります。
一方、食べログは比較的早い段階で立ち直りました。ぐるなびの売上高は長らく食べログを上回っていましたが、コロナを機に逆転しました。
ぐるなびが食べログに後れをとった理由は2つあると考えられます。1つはぐるなびが宴会場探しのツールとしての側面が強かったこと。もう1つは検索エンジンへの依存度が高かったことです。
忘年会シーズンになると頻繁にぐるなびの広告を目にした理由
ぐるなびの広告戦略は非常にわかりやすいものでした。テレビCMは忘年会、歓送迎会、幹事に焦点を当てた内容に偏っていました。忘年会シーズンは、公共交通機関にも大量の広告を出していました。これはぐるなびが「宴会場探し=ぐるなび」というイメージを醸成していたためです。
一方、食べログが2020年2月ごろに南海キャンディーズを起用して放送していたCMは、お客さんと店員が1対1で会話をする内容でした。食べログは「飲食店探し=食べログ」という地位の獲得を志向しているのです。
ぐるなびが宴会場探しのツールにこだわったことには理由があります。空中階系居酒屋への訴求力が強く、数多くの飲食店にとって手放せない媒体だったからです。
都市部や繁華街に店舗を出店する際、道路に面した路面店か、ビルの2階以上または地下の空中階にするかでオーナーは頭を悩ませます。路面店は集客力がある反面、家賃が高く、物件がなかなか出ません。空中階は集客に苦労しますが、家賃が安く、物件が見つかりやすいのが特徴です。
大手に限らず中小居酒屋チェーンの多くが空中階に好んで出店しました。コストをかけずに手っ取り早く出店できるためです。しかし、集客できなければ意味がありません。空中階はふらりと立ち寄る客に期待ができないため、宴会客が獲得できるぐるなびに広告を出し、顧客を集めていました。居酒屋からすると、組単価が大きい団体客は大歓迎でした。
空中階居酒屋の店舗運営上、ぐるなびは外せない媒体だったのです。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大で宴会需要は消滅します。居酒屋オーナーは集客につながらない広告費は削減します。更に空中階系居酒屋の撤退も相次ぎました。
ぐるなびは長年かけて構築した「宴会場探し=ぐるなび」というイメージが完全に裏目に出てしまったのです。
長年ポータルサイトとしての強みを発揮したぐるなび
1996年に開設されたぐるなびは、グルメメディアという領域において圧倒的な優位性を獲得しました。いわゆる先行者利益です。早い段階で膨大な情報を集めることができたため、検索エンジンで上位表示を維持できました。
消費者の多くは検索エンジンを使って「エリア+〇〇」で飲食店を探します。かつてぐるなびは数多くのキーワードで上位に食い込んでいました。例えば、渋谷や新宿などのエリアキーワードに加えて、「ランチ」「ディナー」「焼肉」「中華」「個室居酒屋」「おいしいお店」などです。これが強力な武器でした。情報元がGoogle一辺倒だった時代、消費者は上位に表示されたページを良いものだと信じて来店していたからです。
飲食店からすれば、SEOに強いぐるなびは集客上外せないツールだと認識します。しかし、グルメメディアが乱立し、アプリやSNSなど、様々な情報が飛び交うようになって飲食店の探し方は様変わりしました。
インターネットの情報分析や市場調査を行うヴァリューズは、2021年11月に「コロナ感染拡大後の飲食店の選び方変化を調査」を発表しています。
その中で食べログ、ぐるなび、ホットペッパーの世代別利用率の調査を行っています。興味深いのは、全世代で食べログの利用率が他を圧倒していること。来店の決定打となる、「メディア情報を重視」している割合も食べログがトップを独走しています。
※ヴァリューズ「コロナ感染拡大後の飲食店の選び方変化を調査」
ぐるなびは現在も強力なSEOを維持しているものの、来店への決定打としての役割を果たせていません。消費者は好んで食べログの情報を取得し、来店していることがわかります。検索エンジンが表示する上位のページを妄信する時代ではなくなりました。
上のデータで、20代女性のホットペッパー利用率が他の世代と比較して突出して高くなっていますが、これはクーポン効果だと考えられます。ホットペッパーはクーポンメディアとしての認知が高く、その効果が表れているのです。
食べログは飲食店探しのツールという地位を固めつつあります。ホットペッパーはクーポンメディアとして若い世代から高い支持を得ています。しかし、ぐるなびは宴会場探し、SEOという2つの牙を抜かれてしまいました。
地図検索機能でローカルビジネスに一石を投じたInstagram
それでは、食べログが安泰かというと、そうでもなさそうです。調査では食べログ、Googleマップ、SNSの3つでも同じ比較をしています。
それによると、Googleマップの利用率が、世代が若くなるに従って高くなる傾向があるのです。
※ヴァリューズ「コロナ感染拡大後の飲食店の選び方変化を調査」
更なる脅威がSNS。20代女性が最重視するものとして、食べログとSNSが並んでいます。20代の女性が使う代表的なSNSがInstagram。Instagramは2021年5月に地図検索機能を実装しました。Googleと同じようにキーワード検索で近くの飲食店が探せるようになったのです。
GoogleマップやSNS検索が定着すると、消費者は気に入った店舗をマップやSNSで見つけ、店舗の公式ホームページでメニュー情報などを確認して来店するようになります。グルメメディアの存在感が薄くなるのは間違いありません。
情報が複雑化するに従い、飲食店の探し方も大きく変化しています。
取材・文/不破 聡