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世界各国で活発化する測位衛星ビジネス、日本企業に勝機はあるか?

2022.06.09

私たちが、日常生活において知らずに利用している測位衛星。測位衛星とは言わずGPSと言ったほうが、読者のみなさんはピンとくるかもしれない。この測位衛星は、政府が開発し、調達した人工衛星のことで、宇宙へと打ち上げられている。そして、この測位衛星から、自国民を主な対象として、例えばカーナビゲーションなど公共的なサービスを提供している。

これまでのカーナビゲーションは、政府の測位衛星からの信号をカーナビゲーションでビジネスを手がける民間企業が利用する、というモデルが一般的だった。しかし、近年になって、民間企業が自社で開発した衛星を打ち上げて、同様の公共的なサービスを開始したり、自社ビジネスのために利用したりと、これまでの測位衛星の”通説”や”常識”が変化する時代へと突入している。では、今回は、このような時代になってきた背景について触れたいと思う。

測位衛星サービスとは?

測位衛星サービスとは、測位衛星という人工衛星を宇宙へと打ち上げ、その人工衛星が宇宙から地球に向けて送っている信号(測位信号)を利用して、地球上の位置に関する情報を提供するサービスのこと。この測位衛星は、主に世界の宇宙先進国が整備している。例えば、米国のGPSは有名だろう。GPS衛星は、地球の周りの宇宙空間を30機以上の人工衛星が飛行している。そして、地球上の世界全土で、この測位信号を受信できるため、地球上のどこでも我々は位置情報を把握することができるのだ。

例えば、自動車に搭載しているカーナビゲーションシステムが挙げられる。目的地を入力することで、わたしたちが運転する自動車の位置、目的地までの経路、到着予想時刻などを表示してくれる。他にもスマートフォンでも活用されている。カーナビゲーションと似ているが、例えば、あるレストランまでの経路と自分の所在をスマートフォンの地図上に表示してナビゲーションしてくれる。他にも、コロナ禍においてよく利用されていたが、どの地域にどれくらいの人がいたかなどの統計情報も、スマートフォンでの位置情報を活用することで把握することができるのだ。

米国のGPSのみならず、ロシアのGLONASS、EUのGalileo、中国のBeiDouという測位衛星もある。これらも世界のどこでも位置を把握することができるGPSと類似性を持った測位衛星サービスを提供している。

カーナビゲーションのイメージ

そして、もちろん、日本でも測位衛星を政府が運用している。その測位衛星とは、準天頂衛星だ。もう少し詳しくいうと、内閣府がPFI事業として実施し、日本及びアジア太平洋地域に測位衛星サービスを提供している。これは、人工衛星の軌道上の特性から、世界全土へ測位信号を配信することはできず、日本及びアジア太平洋地域と限定的になるのだが、インドもNAVICという測位衛星を保有し、日本と類似性のある限定したサービス範囲で運用を実施している。

測位衛星サービスのなかで、重要なものの一つは、高い精度で位置情報を提供するということだ。それはなぜかというと、例えば、自動車、ドローン、農機などの自動運転制御は、このような高い精度の位置情報が求められており、次世代ビジネスとして鍵となっているからだ。GPSでも軍事利用であれば高い精度で位置情報を把握できるのだが、わたしたちは利用できない。日本の測位衛星である準天頂衛星では、センチメータ級測位補強サービスというcm級の高い精度で位置情報を把握することができるサービスがある。いま政府でもこの高い精度で位置情報を提供できるユースケースを数多く開発しようと民間企業と協力しながら進めているのが現状だ。

測位衛星を運用する民間企業とは?

測位衛星を民間企業が整備・運用する計画がとうとう出てきた。Xona Space Systemsというアメリカのスタートアップだ。彼らは、「XonaPulser」というPNT(Position,Navigation and Timing)サービスを提供するビジネスを実施する予定だ。打ち上げる衛星は、政府が打ち上げる大型の衛星ではなく小型衛星。小型衛星のサイズ、重量などの詳細は不明だが、2022年5月に実証用のHuginnという小型衛星を打ち上げ、見事、軌道投入に成功している。そして、このXonaPulserというサービスは、地球上のどこでも10cm未満の誤差という高い精度が出せるという。

他にも、Onewebがある。SpaceXのStarlink計画と同様に衛星インターネット計画を進めている企業だ。実は、Onewebは日本ではご存知のかたも多いことだろう。ソフトバンクが出資していたことでも有名だ。しかし、2020年3月に経営破綻してしまう。しかし、イギリス政府やインドのBharti Globalに買収され再建。再度ソフトバンクも出資し、現在、衛星インターネット計画を推進している。しかし、Onewebは、この衛星インターネット計画だけではない測位衛星サービスの検討も進めている。その背景には、イギリス政府がある。イギリス政府は、EUを離脱。そのため、EUのGalileoを活用することができなくなり、自国の測位衛星が必要となったのだ。

Onewebの衛星

では、この測位衛星を運用する民間企業は、何を目指しているのだろうか。それは、政府が提供している測位衛星サービスと大きくは変わらない。例えば、自動車のカーナビゲーションも対象に入るし、航空機や船舶のナビゲーションにも活用されることだろう。加えて、少し位置情報の精度の向上が必要なサービスへの参入を目指していることも推測される。例えば、スマート農業へのサービス提供が挙げられる。スマート農業の一つに農機の自動運転がある。この農機の自動運転制御のための位置情報に活用するのだ。また、ドローンの自動運転、そして自動車の自動運転も挙げられる。さきほど、XonaPulserは、地球上のどこでも10cm未満の誤差という高い精度が出せると紹介した。この高い位置精度が自動運転などを可能にするのだ。

自社ビジネスに測位衛星を打ち上げるGeely Auto

Geely Autoとは、中国の浙江吉利控股集団。中国の自動車メーカーだ。2022年6月2日に、9機の小型衛星の打ち上げに成功している。2025年までに72機をそして最終的には、720機の小型衛星を軌道上に投入するという。衛星を開発、製造したのは、Geely Autoの子会社GeeSpace。ちなみに今回GeeSAT-1という衛星だという。

Geely Autoが打ち上げるGeeSpace

もちろん、Xona Space SystemsやOnewebと同様の公共的なサービスも提供するだろうが、自社が販売する自動車の自動運転制御や関連するロジスティクスの自動制御に活用していくという。GeeSpaceが開発、製造する小型の測位衛星のGeeSAT-1の詳細は、不明だが、考えられることは、やはり位置精度が高いことだろう。

ちなみに、自社で衛星を保有、運用はしていないが、世界の政府が運用する測位衛星を活用することで高精度測位サービスを提供する企業は存在する。例えば、日本ではソフトバンクのichimillや、NTTのdocomo IoT高精度GNSS位置情報サービスなどだ。彼らの手法は、RTK(リアルタイムキネマティック)という技術を活用し、自社の携帯基地局や電子基準点を活用したりすることで、おおよそ2、3cmの高精度を出すことができるという。

このように、測位衛星サービスは、政府のみならず民間企業が自社で衛星を打ち上げてビジネスへ参入する時代に突入してきている。これは、自然な流れだ。例えば、宇宙ビジネスにおいて、リモートセンシング市場においても、政府衛星と民間企業がある意味うまく協業しあう時代に既に突入している。測位衛星サービスでも同じことがきると考えられる。

政府でも民間企業でもサービスの内容には大きく変化がないにしても、高い位置精度を有料サービス化することで、ビジネスを実施したり、自社ビジネスに活用したりする時代に突入したことには間違いない。ただ、この高精度の位置情報を出すための受信機などが高額であったり、大型で高重量であったりという課題もある。この辺りの海外企業の解決策についての詳細は不明だが、上記で紹介した国内外の民間企業がビジネスを実施する上での差別化の要因になってくることは間違いない。おそらく近い将来に日本でもこのような衛星を保有し運用しながら測位衛星サービスを提供するスタートアップが登場することは十分予想される。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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