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日本電産は車載用モーターの業績を回復し後継者問題を解決できるか?

2022.06.05

日本を代表する精密モーター企業、日本電産が4月21日に驚きの発表をしました。後継者の最有力候補と目されていた関潤氏を最高経営責任者から外し、最高執行責任者へと降格。創業者である永守重信会長を再び最高経営責任者へと戻したのです。

永守氏は1944年8月生まれの77歳。現役で経営の第一線を走っているとはいえ、後継者選びが避けられない年齢です。

日本電産は、これまで何度も後継者に相応しい人物を招聘してきました。それもことごとく失敗しています。

しかし、今回の人事が今までと違うのは、関氏が成長期待の高い車載用モーター事業の立て直しを任され、再び最高経営責任者の座に就くことが暗に示唆されていること。この試練を乗り越えることができるのでしょうか。

自衛隊から日産の幹部へと出世

関潤氏はパイロットを目指して防衛大学に入学したものの、在学中に視力が低下してその道を絶たれたという異色の経営者。大学卒業後は陸上自衛隊に入隊しますが、すぐに除隊して日産自動車に入社します。入社後は生産分野やマネジメントで頭角を現し、2012年に執行役員、2014年に中国事業の最高責任者を務めています。

現場の意見を尊重し、海外でも活躍した関氏は日産時代から極めて人望が厚かったことで知られています。日産はカルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反容疑で逮捕された後、当時の内田誠最高経営責任者、ルノー出身のアシュワニ・グプタ最高執行責任者、そして関潤副最高執行責任者というトロイカ体制が発足しました。

日産の人事指名委員会は、関氏のためにわざわざ副最高執行責任者という役職を設け、関氏をトロイカ体制の中に組み入れたと言われています。関氏が会社の中で最も人望が厚く、組織を動かす力を持っていると評されていたからです。

しかし、日産の株式43%超を保有する筆頭株主、ルノーは“ツーカー”だったカルロス・ゴーン氏が追放され、日産のプロパーである関氏が経営に強い力を持たれると、日産を思うように動かせなくなります。そのことに焦燥感を抱いていました。

“大人の事情”に巻き込まれて日本電産への移籍を決意

トロイカ体制が発足した記者会見で、関氏は「当社は売る現場と経営陣の間に大きな隔たりがある」と語りました。日産の筆頭株主であるルノー。ルノーの筆頭株主であるフランス政府。フランス政府はルノーと日産の経営統合を目論む一方で、日産は何としてでも経営の独立を堅持しようとしています。日産は非常に複雑な対立関係に引き裂かれており、経営も一筋縄ではいきません。

関氏はルノーとの関係をめぐり、内田誠最高経営責任者と対立するようになりました。関氏は次期社長とも期待されていましたが、西川廣人元社長の後任が内田氏に決まってしまいます。

絶好の機会だと日本電産の永守氏が声をかけました。関氏が人望に厚いという噂は社外にも広がっていたのです。

関氏は2020年1月に日本電産の特別顧問、2020年4月に社長執行役員、最高執行責任者に就任します。そして2021年6月に最高経営責任者を永守氏から引き継ぎました。

就任会見で関氏は「私の方が馬力がある」としたうえで、「30年後に連結売上高10兆円に向けて進めていく」と語りました。

競合と比較して100万円低い日本電産の年収

永守氏が人望の厚い人物をヘッドハンティングしたことは、自らが作り出した会社の課題に気づいていることの証左です。

永守氏は音響機器を製造するティアックを退社後、28歳で日本電産を創業。およそ50年で売上高2兆円、世界一の精密モーター会社に育て上げました。日本電産は日本有数の巨大企業に成長しましたが、創業者である永守氏一人が強力なカリスマ性で会社をけん引する姿は、中小オーナー企業を彷彿とさせます。

日本電産には永守式のマイクロマネジメントが徹底しています。その一例が「1円稟議」。コスト削減を徹底させるため、1円以上のものを購入する際は稟議書を書かせるといいます。永守氏自ら社内決済の伝票をチェックし、社員はその必要経費について説明責任を果たさなければなりません。

日本電産は永守氏の監視のもと、徹底的にコストを切り詰めて成長してきました。

それは給与にも表れています。2021年3月期の日本電産の(子会社を含まない単体での)平均年収は587万円、勤続年数は10.3年です。会社の規模は異なるものの、小型モーターを製造するマブチモーターの2021年12月期の平均年収は686万円。勤続年数は18.3年です。

経営陣に待遇改善を訴えられない社員たち

年収、勤続年数の違いを生んでいる主要因に、労働組合の有無があります。日本電産には労働組合がありません(買収した一部子会社を除く)。他の製造業の会社と比べて手当が薄いと言われる理由も組合がないことが関係しています。

労働組合がないため、社員は経営陣と交渉する力がほとんどありません。永守氏が率先してハードワークをこなす背中を見て、社員も同じように働くほかない会社だと言えます。組織が一丸となって走ってこられたのは、ひとえに創業者のカリスマ性があったからです。

日本電産は永守氏の影響力が強すぎたため、生え抜きの社員が経営幹部として育っていないと言われています。永守氏の後継者は、自らが作り上げた特異な組織風土を承継できる人物でなければなりません。人望の厚さに定評のある関氏は、そのポジションに最適だと永守氏の目に映ったのでしょう。

営業利益率8.9%では成績が悪いと評価される厳しい経営環境

永守氏は関氏について「元いた会社(日産)と日本電産は経営のスピードが違う。それに慣れるのにはあと3年はかかる」と語りました。これまで、後継者候補だと言われて日産から招聘された吉本浩之氏や、元シャープの社長で日本電産に移籍した片山幹雄は会社に残っていません。

1か0かで人物を判断する永守氏は、見限った幹部候補を会社に残すことはしませんでした。しかし、今回は関氏を引き留めつつ様子見をしています。今までにない動きです。

永守氏が満足できなかったのは、最高経営責任者を任せた後の会社の業績。永守氏が再び経営に関与して業績を伸ばし、数年後に再び関氏を最高経営責任者に戻す青写真を描いている可能性があります。

業績に満足していないと言いますが、日本電産の決算は決して悪いものではありません。

2022年3月期の売上高は前年同期比18.5%増の1兆9,181億円、営業利益は同7.1%増の1,714億円でした。営業利益率は8.9%。営業利益率は前年同期と比べて1.0ポイント下がっていますが、製造業の平均は大企業・中小企業ともに4.0%であり、大幅に上回っています。

決算短信より筆者作成(営業利益率の目盛りは右軸)

日本電産は過去の中期戦略にて営業利益率15.0%を目指すなど、利益ある成長にこだわってきました。マイクロマネジメントを徹底し、コスト削減を追求してきた永守氏にとって、利益率を落とすなどということは我慢のできないことだったに違いありません。

業績の足を引っ張っているのが、会社の中で最も成長を期待されている車載製品グループ。電気自動車用の駆動モーターです。日本電産はグループの技術を結集して電気自動車の心臓部となる「E-Axle」を開発し、2019年4月から量産しました。

車載事業の2022年3月期の売上高は前期比16.6%増の4,176億円でしたが、営業利益は同45.3%減となる106億円。この事業の営業利益率は5.5%から2.6%に半減しました。開発費や原材料費などのコスト高を吸収できないのがその原因です。

主力の精密小型モーター事業の営業利益率は10.0%、家庭用事業が9.9%、機械装置事業が19.6%であり、車載事業は見劣りします。

中国の電気自動車市場は計画通りに伸びるのか

関氏に任されたのが、車載事業の業績改善。関氏は、値段の上がっているレアアースを大幅に削減した第2世代となる製品を、前倒しして市場に投入する計画を発表しました。もともと2023年4月を予定していましたが、2023年3月期下期に販売を開始します。

2022年3月期決算説明資料より

更に電気自動車の需要が旺盛な中国でシェアを拡大し、価格交渉力を高めてモーターを高値で販売できる体制を整えるとしています。

2022年3月期決算説明資料より

ここで懸念されるのは、中国景気の不透明さ。習近平政権はゼロコロナ政策に基づき、厳しい感染防止対策がとられています。ロックダウンは6月1日に事実上解除されたものの、サプライチェーンへの影響は長期化する見込みです。

シンクタンクの日本総合研究所は、中国の個人消費と工業生産は伸び悩み、景気低迷は続くと予想しています。中国の2022年1~3月の実質GDP成長率は+5.3%。前年同期間の+6.1%から鈍化しました。

自動車産業ポータルMARKLINESより抜粋

中国汽車工業協会が発表した中国の自動車生産台数は、ゼロコロナ対策の影響を受けて2022年4月は過去10年来の最低水準を記録。2022年の累計でも前年同期比10.5%の減少となっています。

ゼロコロナによって中国市場に製品を供給しづらい中、計画通りにモーターを販売することができるのか。関氏は正念場を迎えました。後継者としてふさわしいのか試される一年となります。

取材・文/不破 聡

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