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オンキヨーが破産してDENONやMarantzが生き残った理由

2022.05.29

オンキヨーホームエンターテイメントが5月13日に大阪地方裁判所から破産手続き開始決定を受けました。負債総額は31億円です。

オンキヨーといえば、日本を代表するオーディオメーカー。現在のパナソニックである松下電器産業の技術者が独立して立ち上げた会社で、音質やデザイン性には定評がありました。小型かつ高級仕様のINTECシリーズは「ハイコンポ」と呼ばれてオーディオブームをけん引したモデルの1つです。

オンキヨーはなぜ倒産したのか。それは「迷走したから」の一言に尽きます。

オーディオ機器が売れなくなったのは本当か?

オンキヨーの倒産についてよく語られるのが、消費者の音楽の聴き方の変化に対応できなかったというもの。確かに、プリアンプとパワーアンプ、巨大なスピーカーの前にソファを置き、音楽を聴くというスタイルは古くなりました。スマートフォンやPCに音楽配信サービスを入れ、どこでも気軽に音楽を楽しむスタイルが主流です。

ライフスタイルの変化とともにオーディオセットが売れなくなり、音響機器メーカーがジリ貧になっているというのは、感覚的にも何となく納得ができそうです。しかし、オンキヨーと同じく国内のオーディオメーカーである、デノン(DENON)とマランツ(Marantz)の親会社ディーアンドエムホールディングスの業績は極めて好調です。

※官報決算公告より筆者作成(営業利益の目盛りは右軸)

2021年3月期の営業利益率は11.6%。この数字は快進撃を続けているソニーと肩を並べるものです。

オーディオは世界中にマニアが存在し、品質の高い製品は高値で売れる傾向があります。音へのこだわりが強い日本のブランドは信頼度が高く、ファンを多く抱えています。オーディオメーカーは決して衰退しているわけではありません。むしろ、ブランドを築くことによって息の長い経営を続けているのです。

斜陽産業だと事業の幅を広げたことが仇に

オンキヨーの迷走が目立ち始めたのが、パソコンメーカーソーテックの買収。2007年7月にTOBを実施して株式の一部を取得し、2008年に追加取得して完全子会社化しました。

この買収の背景には、オーディオ産業がやがて衰退するだろうという危機感がありました。デジタル時代の製品ラインナップを持とうとしたのです。

しかし、2009年3月期に一時的に売上高は膨らんだものの、その影響は長く続きませんでした。むしろ業績は低迷します。

決算短信より筆者作成(営業利益の目盛りは右軸)

オンキヨーは2008年1月に完全子会社化した自動車部品の製造会社テクノエイトを、2009年5月にトヨタ自動車と豊田鉄工に売却しています。2010年3月期に大きく売上高が縮小している要因の一つがこの子会社の売却です。

売却の理由として世界金融危機による急速な景気悪化を挙げています。主力事業との相乗効果が薄い自動車部品メーカーを買収して即座に狼狽売りしているところも、オンキヨーの迷走ぶりを如実に物語っています。

やがてキャッシュが回らなくなる綱渡り経営に

会社が迷走を始めた後も、主力のオーディオビジュアル事業の業績はさほど悪いものではありませんでした。2015年3月期に12億5,600万円の大赤字を出すまでは、事業利益率は6.2%~10.1%の間で推移しています。

決算短信より筆者作成(事業利益の目盛りは右軸)

しかし、このときのオンキヨーを苦しめていたものがあります。

キャッシュフローの悪化です。2011年3月期を境に4期連続で営業キャッシュフローがマイナスになります。

■営業キャッシュフローと現金残高(単位:百万円)

決算短信より筆者作成

営業キャッシュフローとは、本業でどれだけの現金を稼いだかを示すものです。マイナスに陥っているということは、入るお金よりも出て行くお金の方が多いことを表しています。

オンキヨーはソーテックを買収した後の2009年3月期から仕入債務の減少が目立つようになります。仕入債務の支払期間が短くなったり、現金払いが多くなることで、入るお金と出るお金のバランスが崩れることがあります。企業にとって債務の支払いは遅い方が有利ですが、オンキヨーは仕入債務の支払いが早まり、現金が目減りするようになりました。

オンキヨーは2012年3月期から2015年3月期まで、営業キャッシュフローがマイナスになるという綱渡り経営を続けます。

わずか3か月のズレが破産への導火線に

起死回生の一手として仕掛けたのが、2015年3月パイオニアのオーディオビジュアル事業である、パイオニアホームエレクトロニクスの買収。オンキヨーは新株を発行してパイオニアに割り当て、調達した16億7,900万円でパイオニアホームエレクトロニクスを完全子会社化しました。

しかし、パイオニアホームエレクトロニクスは震えるほど利益が出ていない会社でした。2014年3月期は21億9,800万円の営業損失を出しています。

■パイオニアホームエレクトロニクスの業績

※「パイオニア株式会社との資本業務提携契約の締結、第三者割当による新株式の発行、主要株主の異動、特定子会社の異動、および当社AV事業分割に関するお知らせ」より

オンキヨーは買収後の2016年3月期に20億2,900万円の営業損失、11億2,600万円の純損失を計上します。しかし、課題だった営業キャッシュフローは2016年3月期に10億4,600万円のプラスとなります。

この時期から仕入債務が増加しています。先ほどとは逆です。仕入債務の支払いタイミングが遅くなり、営業キャッシュフローが出やすい状態ができました。すなわち、キャッシュフローの改善はできたのです。

しかしながら、買収後は赤字を出し続けます。2018年10月に子会社Pioneer & Onkyo Europeの欧州販売事業をドイツのAQIPAに売却しました。この事業売却時に、欧州での販売の機会損失が発生して2019年3月期の売上高が著しく減少。営業キャッシュフローが68億2,300万円のマイナスとなり、現金残高が前年同期末の71億6,300万円から14億7,800万円まで急減してしまいます。

そして2020年3月期に終焉を告げる鐘が鳴ります。98億8,000万円の巨額損失を計上し、33億5,500万円の債務超過に転落しました。

新型コロナウイルス感染拡大によって、マレーシアの生産工場の操業が止まり、AVレシーバーの出荷が大幅に遅延。キャッシュが回らずに取引先への支払いに遅れが生じ、生産の縮小・停止へと追い込まれます。

このときの現金はわずか7億1,800万円しかありませんでした。

オンキヨーは主力のオーディオビジュアル事業をシャープとVOXXの合弁会社オンキヨーテクノロジーに譲渡することを決めます。33億円での売却が決まったものの、手続きが遅延して2021年6月の予定が9月にずれ込みました。わずか3か月の遅れが命取りとなり、債務の支払いができなくなりました。オンキヨーは倒産してしまいます。

経営に「たられば」はありませんが、もし、オンキヨーがオーディオビジュアル事業に特化していたら、DENONやMarantzのようにファンから愛されるメーカーになっていたのでは。そう思わずにはいられません。

取材・文/不破 聡

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