【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第52回:業績絶好調のテスラが主力車種を120万円も値上げした理由
ジョークを解説できるAIが登場
Googleは年次開発者会議「Google I/O 2022」で、ジョークやユーモアがわかるAIを発表しました。ジョークやユーモアについては、実はアリストテレスやプラトンの時代から長く研究が行われてきており、近年ではコンピュータにユーモアを理解させる研究も長く行われてきました。
しかし、どのような条件を満たすとユーモアになるのでしょうか。百科事典的知識と、面白さを生じさせるメカニズムが複雑で、難しい問題とされてきました。多くのSF映画に登場するAIも「流ちょうに会話できても、ジョークは理解できない」という設定のものが大半だったように思います。
しかし近年の、Googleによる言語モデルの進化は目覚ましく、「Pathways Language Model(PaLM)」という言語モデルでは、ユーモアやジョークの理論から構築する方法によらずに、ジョークの意味を正しく理解し、解説できたとされます。
インターネットに公開されている例は次のようなものです。
【原文】
Joke:Did you see that Google just hired an eloquent whale for their TPU team? It showed them how to communicate between two different pods!
これは、日本語訳すると、
グーグルが雄弁なクジラをTPUチームに採用したの知ってる?そのクジラは、二つの異なるpodの間でコミュニケーションできたんだよ。
といった意味だと思います。私たちにはこの意味がさっぱりわかりませんが、PaLMはこれをジョークとして理解し、次のように解説したと掲載されています。原文は英語ですが、日本語にするとこういった解説をしたものと思われます。
TPUはGoogleがディープラーニングに使っているコンピュータチップの一種です。「pod」というのは、TPUの集合(ユニット)です。「pod」はクジラの群れでもあります(筆者追記:クジラの群れをpod of whalesと言ったりします)。これは、クジラが二つのクジラの群れの間でコミュニケーションできることと、クジラが二つのTPUの間でコミュニケーションできる、ということをかけているジョークです。
コンピュータに関する知識も必要だし、なかなか難しいジョークですが、これをジョークとして理解ができるのはすごいことです。以前なら、「グーグルがクジラを採用した」という段階で、選択制限違反、つまり、クジラは動物だから、会社が採用できるものではない、というところで、理解不能になっていたと思います。
国産AIが出す、大喜利の答えとは……!?
従来のユーモア研究で言われてきたユーモアの条件として、ユーモアには期待と現実のずれが必要とされてきました。先ほどの例より簡単な例を紹介します。
結婚相手を探している若い男が、コンピュータ・システムの結婚相談所を訪れた.彼は申込書の相手の希望欄にこう書いた。「大勢といるのが好きで,ウォータースポーツをやり、フォーマルな装いが好みの、できればやや小柄なタイプ」すると、紹介されたのはペンギンであった。(Zip, A. 1984: Personality and Sense of Humor, Springer Pub)
今度は笑いやすかったのではないでしょうか?
「人間の女性が紹介される」という期待や予測を持つことができることで、「ペンギンが紹介される」という落ちの「ずれ」に気づくことができて、かつペンギンがどういうものかを私たちは知っているので「なるほど面白い」と理解できる――ということでジョークとして成立します。
従来のユーモア研究では、期待と予測に対する「ずれ」、その「ずれ」の認識、共通する点の認識、がユーモアやジョークが成立するための重要な点としています。
さて、日本では「AI大喜利」が面白いと少し前に話題になりました。LINEの友達追加もできますが、今回の話題にかけて、少し試してみました。
「Googleとかけてユーモアととく。その心は?」
の答えは何か予測できますか?
「AI大喜利」の答えは、「あったかい方がいい」、でした。
わたしには難しかったのですが、Googleについての知識とユーモアとはどういうものかについての知識次第では、ずれと共通点を認識できて、面白いと思える人もいるのかもしれませんね。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。