前代未聞の買収劇が繰り広げられています。世界一の富豪と言われているテスラのCEOイーロン・マスク氏が、アメリカのSNS大手Twitterを買収して非上場化するというのです。
Twitterとマスク氏は、5兆円を上回る金額で買収することについて合意しています。偽アカウントの数を確認するために買収手続きを一時保留するなど、巨額買収に関わる混乱が続いていますが、今年中に買収は完了すると見られています。
個人が5兆円を超える額で企業を買収するという、マンガの世界さながらの出来事が目の前で繰り広げられています。その狙いについて「言論の自由を実現する」などと取り沙汰されていますが、今一つピンときません。真の目的はどこにあるのでしょうか?
※こちらの記事は2022年5月2o日時点の情報です
TikTokにもユーザー数を抜かれたTwitterの末路
5月3日米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、マスク氏が買収するTwitterについて、3年以内に再上場させる可能性があると報じました。これこそが真意そのもので、マスク氏がTwitterを買収する狙いは再上場によって利ザヤを得ること。これに尽きます。
詳しく説明します。
Twitterのアクティブユーザー数は、2021年12月末時点で2億1,700万。着実に大規模なプラットフォームに成長しています。
■Twitterアクティブユーザー数の推移
しかし、Twitterの業績はパッとしません。2021年12月期は営業赤字に転落しました。
※Twitter Financial informationより筆者作成(営業利益の目盛りは右軸)
比較的好調だった2018年12月期の営業利益率は14.9%ですが、同時期のMeta(旧Facebook)の営業利益率は44.6%。利益率は30%近く水をあけられているのです。
売上高、営業利益、そして成長率ともにTwitterはMetaの足元にも及びません。
※Meta Investor Relationsより筆者作成(営業利益の目盛りは右軸)
2021年12月期のMetaの売上高は1,179億ドル。同時期のTwitterは50億ドルでした。Metaは23倍も多く稼いでいます。しかもMetaは467億ドルもの営業利益を出しています。
Twitterのユーザー数が2億を超えており、数字としては大きいように感じますが、実はSNSの世界では十分ではありません。
Facebookのユーザー数は27億。YouTubeは22億、Instagramは12億です。Twitterは新興SNSのTikTok(約7億)にも抜かれています。
短文で広告効果が薄いと判断されるプラットフォームの在り方
広告を出稿する大手クライアント企業は、効率的に自社のサービスを売り込みたいと考えています。そうなると、当然ユーザー数が多いFacebook(Facebook+Instagram)とGoogle(Google+YouTube)に広告を投下します。投資対効果が大きくなるからです。
また、Twitterは短文形式のSNSであるため、ユーザーが一つの投稿に滞在する時間が極めて短いことがよく知られています。企業がブランド構築目的の広告を作ったとしても、素通りされるだけでは何の効果も得られません。一方、画像を投稿するInstagramは、ビジュアルでユーザーの視線を誘導でき、気に入った画像のユーザー滞在時間が比較的長いため、ブランディングを目的とした広告を出しやすいという特性があります。
平たく表現すると、Twitterはそこそこのユーザーを獲得し、それなりの広告収入を得ている業績がパッとしない会社だということになります。
しかし、アメリカ元大統領トランプ氏やマスク氏のTwitterでの一言が、社会や経済に多大なる影響を与えているのは知っての通りです。マスク氏はTwitterがポテンシャルを持っているにも関わらず、力が十分に発揮されていないと考えているのでしょう。
マスク氏がTwitterを課金制にすると発言した真意
Twitter買収を巡るマスク氏の発言の中で、最も注目に値するのは「企業や政府系のユーザーに対して少額の課金を導入する可能性がある」というものです。5月3日に自身のTwitterにてつぶやきました。
SNS業界は広告収入を基本としてきましたが、マスク氏は一部サブスクリプションを導入することを仄めかしています。
キリンビバレッジやローソン、チキンラーメン、シャープなど、数々の企業が公式Twitterを運用しています。新商品の紹介、キャンペーンの実施、企業の取り組みについての情報を発信するのに欠かせないツールとなりました。また、山本太郎氏など政治家も巧みにTwitterを活用し、自身の考えを世に広めています。
Twitterは他のSNSに比べて拡散力が強いことで知られ、共感者を集めやすい特性があります。広告では使いづらいものの、ファンは作りやすいのです。企業アカウントはすでに数十万から数百万のフォロワーを獲得しており、Twitterが毎月課金することになったからといって簡単にはそれを手放さないでしょう。マスク氏の課金発言は勝算があってのことと考えられます。
ただし、課金制を導入すると、フォロワー数が少ない弱小アカウントが離反するのは確実。ユーザー数が減ることで広告抑制に拍車がかかるかもしれません。そうなると既存株主から反感を買うのは必至。無駄な議論を避けるためにも、株式を非公開化した方が駒を進めやすいのです。
安く買って高く売る株式投資の基本
米金融機関モルガン・スタンレーは、Twitter買収に関わる255億ドル(3兆2,640億円)の貸付計画をまとめたと報じられています。マスク氏が保有するテスラ株を担保として125億ドル(1兆6,000億円)、Twitterへの貸付が130億ドル(1兆6,640億円)というのが、その内訳。ポイントはTwitterへの貸付130億ドルです。
M&Aにおいては被買収企業の信用力を使い、金融機関から借り入れをして買収することがあります。借入金を活用してレバレッジをきかせ、投資効率を高めるのです。これは投資ファンドが好んで使うスキームで、買収する企業よりも投資家のリターンを重視するものです。このストラクチャーを見ても、マスク氏が数年以内に再上場を狙っていることが見て取れます。
また、再上場を狙うという計画は、他の投資家からの資金を呼び込むことにもつながります。投資家の資金が入れば、何としてでもリターンを出さなければなりません。
Twitter買収については様々な情報が飛び交っていますが、マスク氏の根底にあるのは「Twitter株が割安水準であり、もっと値上がりに期待できる」という株式投資の基本的な考え方だと推測されます。
取材・文/不破 聡
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文/DIME編集部