日本フードサービス協会によると、2022年3月の飲食店の売上高は前年比105.9%となりました。昨年の水準は超えているものの、コロナ前の2019年比では86.3%に留まっています。日本国内は少しずつ日常を取り戻しつつあるものの、完全回復にはほど遠い状況です。
飲食店の中でも明暗がくっきりと分かれたのがカフェ業界。一人勝ちとなったのがコメダ珈琲です。なぜ、コメダは他社を圧倒することができたのでしょうか。
唯一営業利益を出したコメダのFC型ビジネスモデル
コメダホールディングスの2022年2月期の売上高に当たる売上収益は前期比15.5%増の333億1,700万円。営業利益は同32.6%増の73億500万円となりました。コロナという状況下において、営業利益をきっちりと出しています。
コメダはドトール、サンマルク、ルノアールの中で唯一営業利益を出している会社です。
※サンマルクとルノアールは2022年3月期の通期予想
※決算短信より筆者作成
コメダホールディングス
ドトール・日レスホールディングス
サンマルクホールディングス
ルノアール
コメダが利益を出しているのは、ビジネスモデルの違いです。コメダはフランチャイズ加盟店が主軸となっています。総店舗数956(2022年2月末時点)のうち、直営店はわずか54店舗。94.3%がFC店です。ドトールは1,278店舗(2022年3月末時点)ありますが、FC店は904店舗で、FC比率は70.7%。サンマルクに至ってはFC比率が3.7%に留まっています。
サンマルクは27億円の営業赤字を予想しており、コロナ禍の影響を大きく受けているのがわかります。
■カフェ企業業績比較(単位:百万円)
※決算短信より筆者作成
コメダホールディングス
ドトール・日レスホールディングス
サンマルクホールディングス
ルノアール
直営店は家賃や人件費の負担が重くなるため、客数減少の影響を大きく受けます。
一方、フランチャイズ主体のビジネスは、加盟店への卸売りがメイン。家賃や店舗運営スタッフの負担はほとんどありません。変動費主体のため、損益分岐点が低いのです。
郊外型の固定客が多い店が強みを発揮
ドトールカフェ事業の営業損失は2021年2月期の27億6,300万円から7億6,500万円となり、赤字幅は縮小しています。ドトールもFC比率が比較的高いために立ち直りは早く、2023年2月期は黒字化する見込みです。今期は会社全体で21億5,300万円の営業利益を予想しています。
しかし、ドトールとコメダの業績は、今後大きく開く可能性があります。コロナ禍で2つのブランドは集客力に大きな差が生じました。コメダはコロナ前の水準を取り戻しつつあるのです。
下のグラフはドトールとコメダの全店月次売上高(コメダは卸売売上)の推移です。コロナ前との差を%で表しています。
※月次情報より筆者作成
コメダホールディングス
ドトール・日レスホールディングス
コメダは2021年10月、11月、12月に100%を超えました。
ドトールは繁華街への出店が多く、新規客が主体の店舗展開をしていました。通勤や買い物客が減った影響を真正面から受けたのです。コメダはロードサイドなどの郊外型の店舗が多く、固定客中心の店舗運営をしていたため、客数の減少を抑えることができました。
客数が激減しましたが、ドトールやサンマルクの経営方針や戦略に大きな変化はありません。これはハンバーガーショップを出店した鳥貴族や、焼肉店への転換に舵を切ったワタミなどの居酒屋企業とはまるで違います。
カフェの需要がいずれ回復すると見ているのでしょう。
そのような中、妙手を打ったのがルノアール。2022年3月に洋菓子のシャトレーゼとフランチャイズ契約を締結したのです。ルノアールがシャトレーゼのFC加盟店となりました。
目的は薄利でも店舗運営を継続することか?
コロナ前のルノアールが、受取保証金で稼いでいたことはよく知られています。受取保証金とは出店するビルの取り壊しなどにより、退去を求められる際に受け取るものです。
下の表は本業(カフェ事業)で出した営業利益と、退去で得られた受取保証金の推移です。
■ルノアール営業利益と受取保証金の推移(単位:百万円)
※決算短信より筆者作成
https://www.ginza-renoir.co.jp/ir/tanshin.html
2015年3月期は営業利益とほぼ同額の受取保証金を得ています。
ルノアールは築年数の経過した物件に多く出店する傾向がありますが、それによって特別な利益が得られていることになります。非常にユニークな不動産活用をしているのです。
しかし、これができるのも営業利益が出ていればこそ。不採算店が出てしまえば、自己都合で退去せざるを得ず、受取保証金は発生しません。むしろ退去費用を支払う必要があります。これまでのビジネスモデルが大きく揺らいでしまうのです。
シャトレーゼとのフランチャイズ契約の締結は、一種の不動産活用だと考えられます。ルノアールの立退料ビジネスをベースに考えると、既存の店舗は利益がどれだけ薄くても店舗運営を継続させなければなりません。古いビルに出店していたルノアールは、一定の確率で受取保証金を得られる可能性が高いからです。
ルノアールは「カフェ・ミヤマ」や「ニューヨーカーズ・カフェ」などのブランドがありますが、新業態を積極的に開発してきたわけではありません。別業態に転換する術を持たないのです。
そこで人気店であるシャトレーゼに目をつけたのでしょう。シャトレーゼは郊外型のイメージがありますが、近年は自由が丘や銀座、白金台などに「YATSUDOKI」というプレミアムブランドの新店舗を出店しています。
ルノアールは不採算となった店舗を「YATSUDOKI」などに転換し、黒字化を狙っているものと考えられます。フランチャイズ加盟店は加盟料などで利益が薄くなる傾向がありますが、受取保証金によってその分を取り返せる可能性があるのです。
取材・文/不破 聡
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