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【ヒット商品開発秘話】計画比700%の売り上げを達成したZoff「PROTECT AIR VISOR ULTRA」

2022.04.21

■連載/ヒット商品開発秘話

 スギやヒノキの花粉が飛ぶ季節になると、目に花粉が侵入するのを防ぐために花粉対策メガネを愛用する人がいる。数ある花粉対策メガネの中で高性能から話題になったのが、メガネブランドのZoffから発売された『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA』である。

 2021年1月に発売された『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA』は、まず同名のモデル(以下、AIR VISOR ULTRA)を販売。花粉カット率が約98%(株式会社分析センター調べ。顔の形状によって個人差がある)と高いことから話題を呼び、発売初日に完売店が続出、即完売してしまった。計画比で約700%を記録するほどヒットしている。

 2021年12月に、『AIR VISOR ULTRA』を改良した『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+』(以下、AIR VISOR ULTRA+)を発売(現在販売中)。花粉カット率が約99%(株式会社分析センター調べ。『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+』Lサイズでの測定値。顔の形状によって個人差がある)に向上したほか、それまでのMサイズに加えLサイズを追加し2サイズ展開にした。目元を花粉や飛沫から守る『Zoff PROTECT』全商品の中で、『AIR VISOR ULTRA+』は今シーズン最も売れている。

Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+

スローガンは「目指せ花粉カット率100%」

 Zoffでは2013年から花粉対策メガネを販売。以後、マイナーチェンジを繰り返し実施してきたが、他ブランドの花粉対策メガネと大きく差別化することができなかった。こうした現状が『AIR VISOR ULTRA』開発の背景にあった。

『AIR VISOR ULTRA』の開発が始まったのは2020年4月頃。目指したのは「極限まで花粉をカットできるメガネ」で、スローガンは「目指せ花粉カット率100%」とした。

 どうすれば花粉を極限までカットできるのか?を議論する中で出てきたのが水中ゴーグルであった。Zoffを展開するインターメスティックの伊東晃拓氏(商品戦略本部商品部)は、次のように話す。

「水中ゴーグルは目の周りの密着度が高く、おそらく多くの花粉をカットできるのではないかと考えました。しかし、そのまま外で掛けるわけにはいかないですし、密着度が高いのでレンズが曇ります」

インターメスティック
商品戦略本部商品部 伊東晃拓氏

 水中ゴーグル並みの花粉カットが期待でき、外で掛けることができるデザインとレンズが曇らない対策を施したもの。こうした要件を持たすものとして『AIR VISOR ULTRA』は開発されることになった。

使い慣れないシリコンの成型にチャレンジ

 花粉対策メガネにはフードがあるが、これは基本的にプラスチックでできている。顔へのフィット性を高め花粉のカット率を上げるには、プラスチックより弾力性がある材料を使う必要がある。顔との密着性が高く適切なものとして白羽の矢を立てたのが、シリコンであった。

 ただ、シリコンはメガネで一般的な素材ではない。Zoffでも鼻パッドにしか用いたことがなく使い慣れた素材ではなかった。とはいうものの、試しにシリコンで成型してみたら、商品化できる可能性を感じた。

 問題は、量産したときに同じ品質を維持できるか、耐久性に問題はないか、といったことに移った。加えて、シリコンにはデザインに影響を及ぼす特性があり、生産担当を悩ませた。

「簡単には破れないこと、自然な見た目であることの2つを達成するために、強度がありながら透明になるよう最適なバランスを追求しました」(伊東氏)

 また、くもり止め対策として、くもり止めレンズの結露を抑える目的でシリコンフード側面に通気口を設置した。

 花粉の飛散が本格化するまでに間に合わせなければならなかったので、開発に時間的な余裕はない。慣れないシリコンを使うこともあり、販売が間に合わないと思ったこともあった。「試作検証を進めながら、販売する前提で販促策の立案も並行して行なっていました」と伊東氏は振り返る。

通気口の上にルーフを設置

 顔に張り付くシリコンは人によって好みがはっきり分かれると考えられていた。しかし、即完売が示すように高く評価されたことから、社内では「これはイケるぞ」と期待感が高まる。

 ただ、次の花粉シーズンに同じものを販売しても興味が薄れて関心が集まらない。そこで、『AIR VISOR ULTRA』を進化させた『AIR VISOR ULTRA+』をつくることにした。

 進化の焦点は花粉カット率のアップ。すでに高レベルで花粉がカットできるので改良の余地は多いとはいえず、改良ポイントを見出すのは容易ではなかった。

花粉カットの検証。検証は成人女性(日本人)標準の人頭模型にZoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+ Mサイズを装用し、花粉を模した粉末を吹き付けて行なった。「Zoff(ゾフ)【メガネ】公式チャンネル」(YouTube)内の動画『【Zoff】花粉カット検証動画|目元への飛沫&花粉対策「Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+」』より

 花粉カット率をアップするために実施した最大の改良が、通気口の上にルーフをつけること。花粉が通気口上部から侵入するのを防ぐことができるようにした。

 問題は、小さな立ち上がりを持つ形状に変わるためシリコン成型の難易度が上がることだった。「同業他社では絶対できないだろう」(伊東氏)と思われるほど難しい。最適なルーフ形状の見極めの意味も含め、この部分に関しては通常のメガネよりも多くの試作を実施した。

『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA』の通気口(上)と『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+』の通気口(下)

 このほか、『AIR VISOR ULTRA+』ではレンズをより曇りにくくするため鼻パッドも見直された。『AIR VISOR ULTRA』のものより形状を変更し、サイズをやや拡大。マスクをつけて装用しときにマスク上部から漏れ出た息でレンズが結露しないよう、鼻に隙間なくぴったりフィットするようにした。

 鼻パッドを見直したのは、以前から改善の余地があると認識していたからであった。伊東氏は次のように話す。

「開発では温度や湿度といった条件を変えて細かく検証していきますが、『AIR VISOR ULTRA』は普通に掛けていたら曇らないようにはできていたものの、シチュエーションによってはレンズが曇りやすいことがありました。改善の余地があったので『AIR VISOR ULTRA+』の開発に際して見直すことにしました」

『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA』の鼻パッド(上)と『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+』の鼻パッド(下)

Zoffの花粉対策メガネで一番売れる

『AIR VISOR ULTRA』を発売したときは、プレスリリースの反響が大きく、テレビでの関東キー局のほぼ全局で取り上げられたのをはじめ多くのメディアで話題にのぼった。加えて、2021年は花粉の飛散量が多く新型コロナウイルスによる感染症対策の意味から飛沫対策商品への需要が高く、目元への飛沫対策もできる花粉対策メガネの需要が高かったことも重なった。その結果が即完売につながった。

『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+』の飛沫可視化シミュレーション。飛沫を仮想的に発生させ、発生直後(0~2秒後)に人頭模型の目の位置に飛んできた飛沫(粒径0.3um以上)の個数を検証し、最大約99%カットできることを確認した。飛沫シミュレーションの監修は日本医科大学付属病院 耳鼻咽喉科の大久保公裕医師、作成は株式会社テックレボリューションが行なっている。「Zoff(ゾフ)【メガネ】公式チャンネル」(YouTube)内の動画『【Zoff】飛沫可視化シミュレーション|目元への飛沫&花粉対策「Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA+」』より

『AIR VISOR ULTRA+』も、発売時にプレスリリースを発表したほか、花粉シーズンの本格的な到来を目前にしたタイミングでプレスリリースを発表するなどしたが、花粉の飛散が3月にずれ込んだことの影響を受けた。

 花粉の飛散が遅れたことでメディアでも話題になることが少なく、飛沫対策のニーズも落ち着いた感があった。2022年は花粉対策メガネを求める人が少なくなり販売環境が厳しいが、Zoffの花粉対策メガネで一番売れているのは花粉カット率が約99%と高機能の『AIR VISOR ULTRA+』だということに関しては、社内的に評価が高いという。

取材からわかった『Zoff PROTECT AIR VISOR ULTRA』シリーズのヒット要因3

1.高い花粉カット率

『AIR VISOR ULTRA+』で約99%とシリーズ通して高い花粉カット率を実現。驚異的といってもいい花粉カット率は、花粉の侵入を徹底的に避けたい人たちから歓迎された。

2.普段使いできるデザイン

 普通のメガネと違い目に花粉が侵入するのを防ぐシリコンフードを持つが、デザイン面で大きな違和感がない。いくら花粉カット率が高くてもデザインが良くなければ現在ほど支持は集められないであろう。

3.装用感の向上

 これはとくに『AIR VISOR ULTRA+』で顕著なポイント。鼻パッドの見直しでレンズがより結露しにくくしたほか、テンプルとモダンを見直しフィット感を高めている。機能性だけではなく快適性が向上した点はユーザーから見て印象がいい。

 2022年は例年より花粉の飛散が遅く始まったこともあり盛り上がりに欠けたきらいがあるが、花粉自体は1年中飛んでいる。今後は秋の花粉シーズンに向けて備えるほか、法人向けに仕事で目を覆う人たちへの提供も視野に入れ検討していきたい考えだ。

製品情報
https://www.zoff.co.jp/shop/contents/protect.aspx

文/大沢裕司

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