ソニーは2021年3月期に売上高が前期比9.0%増の8兆9,993億円、純利益が前期比101.3%増の1兆1,717億円となりました。純利益率は13.0%。前期の7.0%から6.0ポイントも上昇しています。2022年3月期の純利益は26.6%減の8,600億円を予想していますが、利益率は8.7%と堅調です。
一時は倒産まで囁かれたソニーが大復活を遂げました。ソニーの好決算を支えている要因はどこにあるのでしょうか。
売上高、営業利益ともに3割を占めるゲーム事業
ソニーの事業は大きく6つに分かれています。ゲーム、音楽、映画、家電、半導体、金融です。
好業績への貢献度が最も高いのがゲーム。2021年3月期ゲーム事業の売上高は2兆6,563億円となりました。前期比で34.3%の増加です。
新型コロナウイルス感染拡大、巣ごもり特需によって売上高が大幅に引き上げられました。この勢いは衰えることなく、2022年3月期の売上高は更に押し上げられて2兆9,000億円となる見込みです。
ゲーム事業単体で3兆円が見えてきました。
※決算短信・業績説明会資料より筆者作成
ゲームは売上高全体の3割を占めています。この事業の稼ぎ頭と言えばプレイステーションです。
プレイステーション4は累計販売台数が1億1,690万台。プレイステーション2に次ぐメガヒット商品となりました。
※ソニー「ビジネス経緯」より
競合が少ないゲーム機は値下げをする必要があまりありません。しかも、長年かけて育てたプレイステーションブランドに対するファンの信頼は厚く、ブランドそのものが付加価値となって高値でも販売できます。
ゲーム事業の2021年3月期の営業利益は3,422億円。営業利益全体の32.4%を占めています。
※決算短信・業績説明会資料より筆者作成
ソニーの売上高への貢献度が高い第2の事業が家電です。2021年3月期の家電事業の売上高は2兆665億円でした。売上高全体の22.7%を占めています。しかし、利益面での貢献度は下がります。家電事業営業利益の構成比率はゲーム、音楽、金融、半導体に次いで5番目となる12.7%。
コモディティ化が進む家電は価格競争が進み、薄利です。
※決算短信・業績説明会資料より筆者作成
営業利益率を見ると、ゲーム、音楽、半導体など独自性の強い事業の強さが目立ちます。
しかし、家電事業の営業利益率は、2020年3月期は4.4%でしたが、2021年3月期に6.5%まで2.1ポイント上昇しました。
これこそ、ソニーの家電が底力を見せつけた証です。
キヤノンとニコンの牙城、デジカメ市場に殴り込みをかける
スマートフォンの登場とともに“オワコン”と呼ばれるようになったデジタルカメラ。確かに、一般消費者向けの安価かつ小型のカメラは姿を消そうとしています。しかし、ソニーは報道関係者などのプロ向けの機材に磨きを掛けました。その成果が表れます。
2020年7月アメリカの通信社AP通信が、ジャーナリストが使用するカメラやレンズなどをすべてソニー製にすると発表。2年間の独占契約を結んだのです。AP通信は世界100カ国の約250地域で活動し、毎日3,000枚の写真を配信している超大手の通信社です。
プロ向けのデジタルカメラは長らくキヤノンとニコンがしのぎを削っていた市場です。そこにソニーが食い込みました。
AP通信との契約は絶妙なタイミングでした。2021年に東京オリンピック、2022年に北京オリンピックが控えていたからです。ソニーは東京オリンピックにおいて、報道カメラマンの拠点となるメインプレスセンター内にメンテナンスブースを初めて開設しました。これまでブースを構えていたのはキヤノンとニコン2社だけでした。ソニーはプロ向け需要の獲得と満足度向上に本腰を入れたのです。
コンシューマー向けの商品は早い段階で価格競争に陥りがちです。しかし、プロ向けの機材はそれがありません。
ただし、高い技術力が要求されますが、それはソニーの本懐といったところでしょう。
ソニーの家電事業は高付加価値市場を選択することにより、利益率の改善を図っています。
株や債券の運用で収益は25%増加
業績を下支えているのが金融事業です。2021年3月期の売上高は1兆6,689億円、営業利益は1,646億円でした。売上高は家電に次いで3番目に比率の大きな事業です。
金融事業はソニー銀行やソニー生命などが集まった事業体です。中核をなす連結子会社ソニーフィナンシャルホールディングスによると、2021年3月期は生命保険事業、損害保険事業、銀行事業おすべての事業において経常収益が増加し、全体で23.9%増になったとしています。
ソニーフィナンシャルの経常収益は、生命保険が全体の9割を占める主力事業です。
■ソニーフィナンシャルグループ業績
ソニーフィナンシャルは、2021年3月期において保険料収入自体は減少したと発表しています。前期と比べて25.6%も経常収益が増加しているのは、運用成果によるもの。生命保険は顧客から預かった資金を株や債券、不動産などに形を変えて運用を行います。その投資成果が出たというのです。
アメリカの株式市場の代表的な指数である、S&P500指数は2019年から2021年までの3年間でおよそ90%上昇しています。これは主要国が行っていた金融緩和によって金利が下がり、企業が稼ぐ力を取り戻したためです。それが株価に反映され、主要銘柄を中心に株価は上昇しました。
世界中を驚かせたEVへの参入
ソニーフィナンシャルは新型コロナウイルス感染拡大によって保険の営業活動が制限され、保険料の獲得がしづらかったものと予想できます。しかし、世界的な好景気に支えられて運用益を出すことができました。
しかし、2022年に入って潮目は大きく変わります。FRBは急速に進行するインフレを懸念して、量的緩和策を縮小。更に政策金利の引き上げも示唆しました。株式市場は冷や水を浴びせられています。
また、ソニーの主力事業であるゲームにも陰りが見え始めました。ソニーは2020年11日にプレイステーション5をリリースしました。販売から15カ月の累計販売台数は1,730万台。プレイステーション4は15カ月間で2,020万台を売っています。1年3カ月経過した時点で、販売台数は14.4%の遅れをとっています。
ソニーの稼ぎ頭プレイステーションの販売台数が縮小し、業績の下支えをしている金融事業が崩れると、会社の業績が再悪化する可能性があります。
そのような事業環境の中、ソニーは衝撃の発表を行います。2022年1月ラスベガスの家電見本市において電気自動車市場に参入するとしたのです。ホンダと提携し、2025年の発売を目指しています。
ソニーの新たな挑戦が始まりました。
取材・文/不破 聡