〝弓道には「一射一射」という言葉があります。
前の成功を忘れ、いつも新しい気持ちで射る──
という意味ですが、これはビジネスにつながる考え方です〟
ゴディバ ジャパン
ジェローム・シュシャン社長×弓道
Profile
フランス・パリで生まれ、1983年に初来日。LVMHグループのディレクターなどを経て2010年より現職。弓道錬士五段取得。2010年から国際弓道連盟理事も務める。
「矢もビジネスも的に当てることだけを考えているうちは当たりません」というシュシャン社長。弓道のソロ活でつかんだビジネス成功術の極意を語った。
自分を映す鏡となる弓道は心が見えるマインドフルネス
シュシャン社長が弓道を始めたのは約30年前のこと。ビジネスパーソンにとってターニングポイントとなる29歳の時だった。
「当時の私は仕事で思うような成果が出せず大きなストレスを抱えていました。何か〝道〟を学ぶことで、自分が変わると思い、門をたたいたのが、興味のあった、日本の伝統的な武道『弓道』でした」
わびさびを感じる空間で個と向き合う弓道場は、オフィスとは別世界で、弓道の教えとビジネスに多くの共通点を見いだす。過去にとらわれずに新しい気持ちで矢を射る「一射一射」、そして座右の銘というべき「正射必中」は、経営術に大きな影響を与えた。
「弓道には『射法八節』という、弓を構え、矢を放つまでの8つの基本的プロセスがあります。『正射必中』は、正しい射法で矢を射れば必ず的に当たるという考え方です。私たちのビジネスで正しい射法とは何か。的に当てようと結果だけに気を取られず、商品、店舗作り、販売・接客、商品アピールの4つのプロセスを丁寧に行なうことだと気づきました。大事なことはお客様にとって何が正しいかを考え、行動することです」
この〝正射に集中する〟ことで、的(=ターゲット)となるユーザーを満足させる数多くのヒット商品を生み出すことになった。
「弓道は己を映す鏡といわれ、心の乱れが、射法の崩れや的を外すといった結果に表われる〝心の状態が見えるマインドフルネス〟でもあります。射を楽しみ精神も鍛えられる究極のソロ活だと思います」
シュシャン社長は常に練習を怠らず弓道場に通い続ける。ゴディバ ジャパンの社長就任から7年で売上高を3倍に伸ばしたブランドミッションは、「私たちはお客様に記憶に残る幸せな時をお届けする」だ。
凜とした空気が漂う弓道場。弓や矢は主に竹、かけ(弓を引くためのグローブ)は鹿の革などの天然素材で作られており、自然との一体感を得られるという。
常に新しい気持ちで矢を射る「一射一射」の教え。「悪い射は捨て新しい射を育てる」理念は、経営学にしっかりと根を下ろしている。
【ソロ活×ビジネスの流儀】
弓道は何歳からでも始められ、続けるほどビジネスヒントになる教えを吸収できる。20年、30年先にその教えが、人生を成功に導く宝物になる。
取材・文/安藤政弘