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再編は起こるのか?正念場を迎える大手書店チェーンの生き残り戦略

2022.04.03

書店チェーンの文教堂が、2022年8月期第1四半期に4,300万円の純損失(前年同期間は5,700万円の純利益)を計上しました。2021年8月末に10.2%だった自己資本比率は2021年11月末時点で9.7%に悪化。危険水域と言われる10.0%を下回りました。

2021年8月期は「鬼滅の刃」のスマッシュヒットによって、コロナ禍にも関わらず黒字化を果たしていました。事業再生ADRの申請によって債務超過を脱し、上場廃止を回避した文教堂。再び危機に瀕しています。

売上高の減少が固定費を抑えきれない

第1四半期の売上推移を見ると、2桁減のペースで減少を続けています。文教堂は計画的に退店を進めており、薄氷を踏むような経営管理を行っています。2022年8月期第1四半期は肝心の利益が出なくなりました。

決算短信より筆者作成(営業利益の目盛は右軸)

文教堂は、販管費は計画通りに進捗しているものの、売上総利益が減少して赤字になったと説明しています。一見すると、固定費中心の販管費は変わらなかった一方、変動費中心の原価率が一時的に上がり、赤字になったように受け取れます。しかし実際は、原価率はほとんど変わりなく、販管費が2.3ポイント上昇しています。つまり、単純に売上高が減少して固定費中心の販管費を吸収できなかったのです。

■文教堂の原価と販管費(単位:千円)

決算短信より筆者作成(営業利益の目盛は右軸)

文教堂は2021年8月期に3億6,500万円の営業利益を出しました。このときは巣ごもりと「鬼滅の刃」特需に支えられていましたが、その反動減に苦しんでいるのです。

2022年8月期通期の売上高を175億2,000万円、営業利益を3億円と予想しています。今のところ業績予想の修正は発表していませんが、売上予想に手が届くかどうかは難しいところです。

文教堂はコロナ特需に支えられる前において、1Qごとの売上高に大きな変動はありませんでした。出店を控えて不採算店を閉店しているためです。仮に今回の第1四半期の売上規模で推移した場合、通期の売上高は160億円程度となる試算です。原価率と販管費率が変わらなかったと仮定すると、1億9,000万円の営業赤字となります。

再生に向けて歩みを進めているとアピールしたか?

2022年8月期の業績予想は、やや野心的なものでした。

文教堂は2018年8月期において2億3,000万円の債務超過となり、上場廃止危機に見舞われました。2019年9月に事業再生ADRを申請し、金融機関の債務の一部を株式化して借入金を4割削減するなど、再建計画を進めました。2020年8月期に債務超過を解消。上場廃止を回避しました。

2019年9月27日に提出した事業再生計画では、退店によって売上高が毎期少しずつ減少するものの、着実に利益が出る青写真を描いています。

「事業再生計画の東京証券取引所への提出について」より筆者作成

計画において2022年8月期の売上高は171億4,200万円、営業利益は2億6,900万円としていました。文教堂が今期掲げた目標はこれを上回るものとなります。しかも、この計画を出したのは新型コロナウイルス感染拡大前。コロナでEC化が進み、インターネットでの購入や電子書籍の利用が目立つようになっています。その中での目標達成は難易度が高いものと予想されます。

書店の大規模な再編は起こるのか?

日販によると、2020年の書店数は前年比4.7%減の9,242。2016年の10,855から14.9%減少しています。書店は典型的な斜陽産業です。文教堂は店舗オペレーションを改善することで利益を出せる体制を構築するとしていますが、客離れが深刻化する中で経費を削るのも限界があります。文教堂は本質的な組織改革、経営改善が必要とされています。

「丸善」と「ジュンク堂書店」を運営する業界トップの丸善CHIホールディングスは、2022年1月期の売上高が前期比1.6%増の1,743億5,500万円、営業利益が同41.7%増の40億8,400万円と好調です。しかし、書店事業の事業利益は3億円ほどしかなく、利益率は0.4%程度と極めて低いのが特徴です。

利益貢献が大きいのが、図書館のデータベースサービスである文教市場と、図書館の運営受託。文教市場の事業利益は37億円、図書館の運営受託は25億円です。この2つの事業は独自に育てたわけではなく、M&Aによって得られました。仕掛けたのは大日本印刷です。

大日本印刷は連結子会社だった丸善と図書館流通センターを2008年12月に経営統合させました。丸善CHIホールディングスはその恩恵を受けているのです。大日本印刷は現在も53.51%の株式を保有する筆頭株主です。

実は文教堂の大株主も大日本印刷。2021年8月末時点で8.15%の株式を保有しています。文教堂は事業再生ADRによってみずほ銀行などの金融機関に株式が分散されました。大日本印刷主導で再編へと動くのは難しいですが、株主は業績が低迷して自己資本比率が下がる様を指をくわえて見ていることもできないでしょう。その動向が注目されます。

取材・文/不破 聡

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