■連載/阿部純子のトレンド探検隊
創業50周年を迎えたタカラレーベンがホテル事業に本格参入
新築分譲マンションの累計供給戸数3万4871戸(2021年3月現在)と、マンション事業を中心に建替・再開発事業、海外事業、エネルギー事業、アセットマネジメント事業等を展開する不動産総合デベロッパーのタカラレーベン。
2022年に創業50周年を迎えた同社が、中核のマンション事業で培った開発や空間提案の知見、関連会社の間接的なホテル運営、管理の知見を活かしホテル運営に参入することになった。ホテルブランド「HOTEL THE LEBEN」の立ち上げに伴い、新会社のレーベンホテルズを設立。タカラレーベングループ創業50周年記念ホテルとして第1号店「HOTEL THE LEBEN OSAKA」が3月24日に開業した。
タカラレーベン中期経営計画(2022年3月期~2025年3月期)において7本柱のひとつとして、事業ポートフォリオの最適化がある。ホテルの運営は、新築マンション分野だけに依存しない事業展開の構築として流動化事業の役割を担う。
新会社レーベンホテルズは、全国で9000室を超えるホテル宿泊等の運営を行うソラーレホテルズ&リゾーツと共同出資して設立。ソラーレとはタカラレーベンが所有している物件をリブランドしてオープンさせた「チサン スタンダード 京都堀川五条」との取り組みを通じて協力関係を築いてきた。ソラーレの持つホテルオペレーションノウハウを学びながら、パートナーとしてHOTEL THE LEBENを支援してもらう形となる。
合弁会社を設立した狙いとして、ソラーレホテルズは全国 60ヶ所以上で、宿泊特化型からリゾート、フルサービスまで多様なホテルの運営実績があり、そのノウハウを活かせば、自社のホテル事業のレベルを高められるという点がある。着実に運営ノウハウを蓄積しながら組織の強化を図る必要があったことから、効率的にノウハウを継承、蓄積する受け皿として新会社設立する運びとなった。
新型コロナの影響で、ホテル・観光需要が大きく落ち込む中、不動産デベロッパーのタカラレーベンが、この時期にホテル運営に本格参入した理由について、タカラレーベン 取締役 兼 常務執行役員で、レーベンホテルズ 取締役の秋澤昭一氏はこう語る。
「ホテルの事業化を始動したのはインバウンド需要が増加していた時期でしたが、With コロナの時代へ突入しホテルの開業を決断しました。確かにホテル業界は元気のない状態ですが、ソラーレと弊社にはホテル業界の発展に少しでも貢献したいという共通の想いがあり、協力体制を築くことができました。
第1号店が位置する大阪エリアは 2025年の大阪万博や、IR(統合型リゾート)の計画もあり、将来的にインバウンドを含め大きな需要を見込める地域であると捉えています。
弊社は分譲マンションがコアな事業です。お客様の志向性やライフスタイルの変化に伴い進化してきた住空間の構築に努めてきました。最新の住宅事情、高まるリビングルームの重要性は、終の棲家としてご購入いただくお客様と日々接している我々だからこそできるプランニング。そこで得られた知見をもとに、自宅でくつろぐようなリビング体験できるホテル空間を提供できることがデペロッパーならではの最大の利点と考えています。
現在マンション価格が高騰し続けていますが、タカラレーベンの分譲マンションは一次取得者向けにこだわっています。8000万円以上の億ションと言われるような高額価格帯の物件ではなく、初めて家を購入される方に向けた価格帯の物件を提供していきたいという強い想いがあります。
他社も含めてデベロッパーがホテルに参入するケースは多々ありますが、お客様が望む空間や、富裕層でないゾーンを知り尽くしている我々としては、そこで得られたノウハウが他社と比べて強みであると言えます。
第1号店の大阪で学んだ結果をもとに運営のレベルを上げていき、外部の建物ホルダーから運営業務を任せたいと思っていただけるようにレベルの底上げを図るのが肝要。その先に直接開発・自社保有、あるいはそれをリートに組み入れるような複合展開が見えてくるので、マーケットでタカラレーベンのホテル運営が評価いただけるように努力していきたいと思います。
開業初年度はまずホテルの認知度を上げるのが目標。人々の流れが起きないことには事業計画の策定も難しいため、初年度の稼働率も敢えて設定していません。現在はルームチャージで1泊1万5000円程度を想定していますが、コロナが落ち着き、国内需要やインバウンドが見込める通常期に戻れば、おそらく30~40%高いレートがつくと予測されターゲットレベルも上方修正の可能性もあります。将来的にはレーベンホテルズをタカラレーベンの100%子会社とし、コロナの収束が予想される2025年には事業を加速させていきたいと考えています」
まるで自宅のリビングのよう?全室30 ㎡ 以上の広い客室
「HOTEL THE LEBEN OSAKA」は、シンプルだがゆったりとした広い空間に新たな価値を見出しており、一番のポイントとなるのが部屋の広さ。日本の平均的な宿泊特化型ホテルでイメージされるのは15~20 ㎡ だが、同ホテルでは全室30 ㎡ 以上のゆとりのある広い空間をスタンダードにしている。
総部屋数は107室で、下記の画像はボリューム帯である「スタンダードツイン」(右)30㎡(全50室)、「スーペリアツイン」(左)40~41 ㎡(全25室)で、定員はいずれも4名。グレーを基調としたシンプルな設えのインテリアで、自宅のリビングを彷彿とさせる客室となっている。
さらに日本特有の習慣である「部屋で靴を脱ぐ」という過ごし方を提案することで、旅先でも自宅にいるような感覚でくつろぎ、海外のゲストには日本の文化に触れる機会にする。
「インバウンド招致において、日本のホテルの狭さが業界で問題視されている中、不動産総合デベロッパーだからこそできる、広くゆとりある客室にポテンシャルを感じています。タカラレーベンならではの日本人の日常の生活に寄り添った造りという特徴も、海外の人の興味を引くポイントになり得るのではないでしょうか」(秋澤氏)
日本では多くのホテルが人数により宿泊料金が変わる人数チャージ制を導入しているが、HOTEL THE LEBENでは世界の基準でもある統一料金となるルームチャージ制を導入。多人数で宿泊すればコストパフォーマンスが良くなる。
また、レストランの朝食ではある程度身なりを整える必要があるが、朝のひと時こそ、人目を気にすることなく部屋でゆっくりと朝食を楽しんでもらいたいという想いから、スタッフが玄関先へ朝食を届けるスタイルを採用。ルームサービス形式ではなく、玄関で受け渡しを行う。朝食は船場エリアで大人気の「船場トースト Dali」とのコラボによるオリジナルモーニングBOXを提供する。
アメニティステーションやプラスチック約30%削減のアメニティ導入(mugikara)、オールインワンプロダクトの導入(JamLabel)などSDGs の取り組みや社会貢献も重視。
HOTEL THE LEBEN OSAKAでは非常防災備蓄と避難所機能としてホテルを活用するため、地下1階の備蓄庫に防災機器や保存食等を備蓄し、各階には保存水を常備。災害時には宿泊客、ホテル従業員だけでなく周辺住民にも避難所として開放し、近隣住民や企業に密着したホテル運営を目指す。
また、防災知識を学び家族で話し合うきっかけ作りを提供する、非常防災体験「防災体験Mission プラン」を通年実施。災害による非常時を想定し、ブレーカーを落とした照明のつかない客室で1日を過ごして、設置された防災グッズを使用したり、非常食を食べるなどの体験を通じて、有事に備えて疑似体験を行い、家族で楽しみながら防災について学ぶことができる。
【AJの読み】広い部屋でくつろげるが1名利用のビジネス客には不向き
部屋に入ったら靴を脱いでスリッパに履き替え、家のリビングのようなゆとりのある広い空間でくつろぐ。バスルーム、トイレもセパレート式で、タオル類は肌触りの良い今治タオル。朝食は部屋ですっぴん、パジャマ姿のままで食べられる。分譲マンションを中心とした住宅を数多く供給しているタカラレーベンならではのコンセプトといえよう。
一般的な宿泊特化型のホテルに比べ部屋が広くルームチャージ制ということもあり、ターゲットは3~4名のグループやファミリー層。大阪メトロ堺筋線・長堀鶴見緑地線「長堀橋駅」より徒歩3分の立地で心斎橋も近く、ビジネス利用も多い場所だが、1名のビジネスユーザーの利用では割高になるのは否めない。
文/阿部純子