牛丼チェーン松屋がひとり負けの様相を呈しています。2022年3月期第3四半期に25億100万円の営業損失を計上しました。競合吉野家の牛丼事業は51億8,700万円のセグメント利益を出しています。吉野家の利益率は6.6%と新型コロナウイルス感染拡大前の2020年2月期第3四半期の5.4%を上回りました。
松屋は2021年9月28日に牛めし並盛を320円から380円へと60円値上げしました。松屋は値上げをする他に道がなかったのですが、それが売上増に結びついていません。
2021年の売上高が国内初の緊急事態宣言となった2020年を割り込む
新型コロナウイルス感染拡大以降、松屋は売上高の減少に苦しんでいます。2021年3月期の売上高は前期比11.4%減の944億1,000万円。ゼンショーの牛丼事業であるすき家の2021年3月期の売上高は前期比1.6%減の2,162億4,300万円、吉野家の牛丼事業2021年2月期の売上高は前期比5.4%減の1,056億1,600万円でした。
松屋だけが2桁減となったのです。
なお、松屋は牛丼店の他にとんかつ業態や鮨業態を展開していますが、牛丼セグメント単体での業績を公開しておらず、2022年1月末時点での総店舗数1,207のうち牛丼店が974(80.6%)を占めているため、牛丼店が業績に大きく影響しているものと仮定しています。
※決算短信より筆者作成(松屋とゼンショーは3月、吉野家は2月決算)
松屋
吉野家
ゼンショー
松屋は2022年3月期の売上高を961億円と予想しています。前期比1.8%の微増です。しかし、松屋はこの微増となる売上高達成にも黄色信号が灯ってきました。
2022年3月期第3四半期の売上高は前期比1.1%減の703億4,500万円と、コロナ真っ只中の前年同期間の売上高を割り込んだのです。
すき家の2022年3月期第3四半期の売上高は前期比7.5%増、吉野家の2022年2月期第3四半期の売上高は0.1%増となりました。
※決算短信より筆者作成(松屋とゼンショーは3月、吉野家は2月決算)
松屋
吉野家
ゼンショー
驚くべきことに、すき家は売上高がコロナ前の水準を上回っています。極めて好調です。
ロードサイドの出店形態とメニュー開発が決め手となったすき家
すき家はロードサイド型の出店形態が多く、都市部を中心に出店していた松屋、吉野家よりも立地面で有利に立てました。下のグラフは2021年1月から2022年2月までの既存店客数の推移です。2020年は各社振れ幅が大きかったため、比較的安定していた2019年との比較です。
すき家は90%以上をキープしており、2019年を上回っている月もあります。
すき家は、2021年12月に客数が2019年比で110.8%という驚異的な集客力を発揮しました。12月1日にすき家が販売を開始したのが「ほろほろチキンカレー」です。美味しいという評判が瞬く間に広がり、完売する店が続出するほどの売れ行きを見せました。
マーケティング戦略も巧みであり、石原さとみさんを起用したCM効果も大きかったと考えられます。
すき家は立地、メニュー開発、販促活動が見事にかみ合う店舗運営をしています。
2社に大きく引き離されているのが松屋。2019年比で90%の水準に一度を届いていません。この客数の減少が最も頭の痛い問題です。
通常の飲食店の原価率は3割程度で、それほど大きな違いは生じません。ポイントは家賃などの販管費です。
■松屋の原価率と販管費率(単位:百万円)
※決算短信より筆者作成
松屋
松屋はコロナに襲われた初年度の2021年3月期第3四半期に販管費率が67.5%となりましたが、2022年3月期第3四半期はそこから更に膨らみました。
吉野家(連結)は2022年2月期第3四半期に販管費率を1.5ポイント抑制しました。
■吉野家の原価率と販管費率(単位:百万円)
※決算短信より筆者作成
吉野家
各社が人件費などの経費を抑えて利益を出そうと努力をしているのは同じです。客数が戻らない松屋は、固定費を吸収できていないと考えられます。
最終手段の値上げを敢行したが…
2021年9月松屋は競合に先駆けて値上げに動きました。客数が戻らず、客単価の上昇によって売上高を底上げしようとしたのです。しかし、値上げ後の売上も低調です。これは予想外だったでしょう。
値上げ前の松屋の売上高は2019年比で85.9%。値上げ後は89.3%です。3.4ポイントしか変わっていません。吉野家は2021年10月29日、すき家は2021年12月23日にそれぞれ値上げをしています。
すき家は値上げ前と後とで8.3ポイント、吉野家は5.9ポイント上昇しました。
客単価の推移を見ると、すき家、吉野家は値上げ後に客単価が2019年比で上昇していますが、松屋は大きな変化がありません。
値上げが上手く機能せず、売上への貢献度が低かったのです。こうなると有効な一手が打てなくなります。
松屋は難しい舵取りを迫られています。
取材・文/不破 聡