接客の80%が消滅する未来で、生き残る接客とは?
2030年には、接客の80%は消滅するという。
現状、スーパー、コンビニ、プチプラショップといった店の会計が、どんどん自動化されているのはご存知のとおり。
今後は、より広い範囲で無人化が加速。大半は「いずれなくなるでしょう」と言うのは、(株)SIS 代表取締役で顧客育成コンサルタントの齋藤孝太さんだ。
業界ごとの法規制やAI・機械の導入コストによって早い遅いはあるが、10年足らずで人による接客は8割方なくなると予測している。
■残るのは「人に幸福感を与える接客」
歴史をさかのぼれば、店舗での接客が始まったのは、江戸時代の初期。越後屋呉服店や浅草の茶屋が、そのさきがけという。
以来、350年の歴史を有する接客が急速に消えていくのは、エポックメーキングな出来事だが、それでも生き残る接客はあると齋藤さんは説く。
“今行なわれている接客の内、20%の接客は、人による接客の必要性が高く、ずっと残ると考えられています。それが「いる接客=ずっと残る接客」です。
「いる接客=ずっと残る接客」は、「人を幸せにする接客」「人に幸福感を与える接客」で、それは人間にしかできない。それがコロナ禍で「接客」について、いろいろと考えた私の結論でした。”
このように、齋藤さんは著書『いる接客、いらない接客』(クロスメディア・パブリッシング)の中で述べている。
齋藤さんによれば、接客には「情報を届けてくれる」「案内・会計をしてくれる」「幸福感を与えてくれる」の大きく3つの役割があるという。
最初の2つについては今後AI・IT・ロボットとの代替が進むが、3つめは「圧倒的に人が得意」な領域。接客業に携わる人にとって、これにかかわるスキルを身に付けることが、今後重要なポイントとなる。これについて齋藤さんは、「共感接客」「共振接客」「共有接客」という3つのワードで解説する。
■傾聴によって共感を積み重ねる
「共感」という言葉は、辞書的には「他人の考え・意見や感情にその通りだと感じること」という意味になる。
しかし、共感接客の場合、少しニュアンスが異なる。齋藤さんは、これを“お客様が言葉で言い表せないことも、「本当は〇〇な気持ちを持っているんだろうなあ」と、なんとなくわかる状態”と説明している。
例えば、化粧品売り場で「いいファンデーションは、ないかしら?」と言うお客様に対し、「いい商品がたくさんあるから、迷っちゃいますよね」と受けるのが共感接客。
そうでなく、「それでしたら、この商品なんていかがですか?」とすぐに商品紹介に入ってしまうのは、お客様が商品選びに迷っていることへの共感がないことになる。
また、共感も質的な面はもとより「量」の多さも重要。その量を積み重ねるには、お客様からの傾聴(ヒアリング)がカギになるとも。
その傾聴の仕方は、“「〇〇のある生活」と「時間軸」を掛け合わせる”ことで、お客様のニーズを引き出しやすくなるという。齋藤さんは、家電店の冷蔵庫売り場での想定例を挙げる。
(過去)「今使っている冷蔵庫は、いつ頃買いましたか?」
(現在)「今、冷蔵庫の使い心地は、いかがですか?」
「気に入っているところ、困っているところ、教えてもらっていいですか?」
(未来)「これからの家族構成は、どんな感じになりそうですか?」
「具体的に、こんな冷蔵庫が欲しいとか、ありますか?」
接客する側として留意したいのは、いきなり未来のことは聞かない。過去にどんな冷蔵庫を買って、今は何に困っていて、これから買う冷蔵庫にどんな希望があるかという道筋を立てた接客が、傾聴と共感を深める。
共感接客は、対面でないと成立しない印象があるが、オンラインでの接客で成功した事例もあるという。
その1つが、中古ブランド販売の「コメ兵」。スマホのLINEやFaceTimeアプリを活用し、スタッフは画面越しに商品を見せながら、解説したり着こなしを提案する。リアル対面での接客もしており、共感を増やしやすい仕組みづくりがされている。
■お客様の未来を伝えてココロを動かせるか
一方、共振接客については、齋藤さんは次のように定義づけている。
“スタッフが身近な専門家としての考え方・捉え方、お客様の未来を伝えて、『なるほど、そういう見方があるんだ』『私にそんな未来が訪れるのか』と、お客様のココロが動く接客です。”
つまりは、スタッフの提案によって、お客様が何かを感じれば共振接客になる。もちろん、単なる商品説明では“共振”は起こりにくい。スタッフには、お客様の「未来」を想像する力が問われ、普通のマニュアルに沿った接客では難しいという特徴がある。
齋藤さんは、メガネ店のスタッフのトーク例を挙げている。
“今よりもお客様にとって、見やすい状況、ストレスが少ない状況を作れます。メガネはフレームが注目されがちですが、レンズがとても大事です。年々進化を遂げています。
お客様の目・置かれた環境にあったレンズにすることで、オフィスでパソコン・書類を見るときに、見えづらいなあと感じることがほぼなくなって、夜、車を運転するとき、まぶしくなく安心できる毎日を、メガネで作ることができます。”
メガネという商品では、お客様の「未来」は新しいメガネを装用しはじめてからになる。これが、ANA(全日空)の機内サービスだと、新人スタッフには「まず5秒先」を想像することが求められ、パソコンの販売だと耐用年数を見据えて想像することになる。
ちなみに共振接客は、「1対多のライブコマース」にも向いているという。その成功例の1つが、ビームスが2020年3月に行なった紳士服の販売。
このときは、ライブ配信アプリのサービスを導入し、その場で購入できるようにした。結果、6千人以上が視聴し、1時間で100万円弱に売上になったそうだ。
お客様の未来を想像し伝える接客が求められる
■感情の分かち合いを目指す共有接客
齋藤さんが唱える、将来あるべき接客の3つめは「共有接客」だが、「共有」するのは感情を指す。説明する前に、例を挙げたほうがわかりやすいかもしれない。
板前さん:ウチは、毎朝、豊洲に行って仕入れているので、新鮮な魚なんですよ。
お客様:そうなんだ。毎日、大変だね。
板前さん:お客様に、美味しいお魚を食べて、笑顔になってもらいたいんで、大変だとは思わないんですよ(笑)
お客様:素晴らしいなあ。そんな想いを聞いちゃうと、今夜来てよかったなあと、あらためて思ったよ。
板前さん:そう言っていただけると、私も嬉しいです。ありがとうございました!来月は、ハモが美味しい季節ですから、またいらしてください。
お客様:また来るねー。
この例では、おいしい寿司を食べたことによる感動が、板前さんとお客様とで共有されている。齋藤さんは「分かち合う」という言葉も使っているが、商品・サービスを享受したことから生まれる感情を、スタッフと分かち合うのが、この接客の肝となる。
リッツカールトンホテルでは、スタッフの採用条件として「お客様の喜びを自分の喜びにできる人かどうか」が掲げられている。これなど、「共有接客」を重視していることのあらわれだろう。
この「共有接客」も、インターネットと親和性が高いという。シンプルなやり方としては、購入者にLINEなどで「共有メッセージ」を送るが、その内容は「お客様が購入した商品を使って、ココロから望んでいることが実現することを願った」ものとする。
誰でも閲覧できる公式SNSの場合は、「ココロから望んでいることが実現したお客様に登場」してもらう。例えば家具店なら、購入した家具が自宅内に置かれた写真を送ってもらい、それをお客様の声と共に投稿するなどが考えられる。
コロナ禍もあって、「接客はむしろ要らない」と考えている人も少なくないかもしれない。
しかし、極限まで無人化が進んだ未来図は、「どこか幸せを感じられない・味がないと思いませんか」と、齋藤さんは警鐘を鳴らす。
それに同感するのは、人が幸せを感じるのはたいてい「人と何かを共にしたとき」だからだろう。その意味では、2030年の接客は、これまでよりも人生体験をもっと豊かにするものに違いない。
齋藤孝太さん プロフィール
株式会社SIS 代表取締役。顧客育成コンサルタント・ファンを育てる専門家。企業の持続的な成長のために、「ファンを育てること」が肝になるという考えから、人を中心とした、ファン育成戦略の立案、仕組み・組織づくり、接客・営業の改善提案、人材教育(講演、研修など)を行ない、ブランド・企業、販売員・営業社員のファンづくりを支えている。
文/鈴木拓也(フリーライター)