普段、人のプレゼンを聞いているとき、つまらなくてつい眠くなってしまったり、わかりにくくてボーっとなってしまうことはないだろうか。聞く必要があるプレゼンなのに、聞き続けるのがしんどい…そんなとき、聞くプロはどうしているのだろうか。
プレゼンを「聞く側」として、何を意識すると良いのか、具体的なテクニックを一般社団法人日本プレゼンテーション教育協会の代表理事で、プレゼン・トレーナーの西原猛氏に話を聞いた。
人のプレゼンを聞くときの基本姿勢
まずは、人のプレゼンを聞くときの基本を確認しておこう。プレゼンのプロは、どのような点をポイントに置いているのだろうか?
【取材協力】
西原 猛氏
一般社団法人日本プレゼンテーション教育協会
代表理事/プレゼン・トレーナー
一般社団法人日本プレゼンテーション教育協会は全国の企業や団体、大学向けに対面・オンライン・eラーニングでプレゼンテーションとコミュニケーションを教えている。著書「ぐるっと!プレゼン」(すばる舎)等
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「みなさんもご経験あるかと思いますが、自分がプレゼンする時はとにかく緊張します。それなのに聞き手が、怖い顔で腕をがっしり組んで、圧迫面接のような雰囲気を作ってしまうと、プレゼンターはさらに緊張し、頭が真っ白になり、上手く話せません。
聞く側としてはプレゼンターから良い話や情報を聞き出したいわけですから、できるだけ相手が話しやすい雰囲気を作ることが重要です。
忘れてはならないのは、プレゼンは『お互いのコミュニケーションの場』だということです。そこで、話の聞き方の三大ルールを守りましょう。まず『1.うなずく・あいづちを打つ』。これはあなたの話を聞いていますよと反応することです。無反応はプレゼンターを不安にさせます。
次に『2.プレゼンターを見る』。手元の資料ばかり見ず、プレゼンターの顔を見ましょう。つまらないと感じたとしても、スマホなどをいじりながら聞くのは失礼です。
そして『3.否定しない』。『この人、現場のことをわかってないな…』なんて否定的に聞いていると無意識に態度に出ます。それを敏感に感じ取ったプレゼンターは萎縮したり、熱意を失ったりしてしまいます。そういう考えやものの見方があるのか、と頭から否定せずに聞きましょう」
つまらないプレゼンを聞くときのポイント
人のプレゼンを聞くとき、良いプレゼンもあれば、つまらないプレゼンもあるだろう。つまらないプレゼンや、わかりにくいプレゼンを聞く必要がある場合、どのようなことに気を付けて聞けばいいだろうか。
「まず、良いプレゼンかつまらないかの判断を下すのは、最初の3分間を聞き終わるまで待ってください。なぜなら、たいていのプレゼンターは、開始直後は緊張MAXだからです。その緊張も解けてきて、本来のパフォーマンスを発揮し始めるのが最初の3分間です。ですから、最初だけは温かく聞いてあげてください。3分後も、『ダメだこりゃ…』となった場合は、相手に合わせて聞き方を変えましょう」
1.相手が緊張している場合「〇〇さん、めちゃくちゃ緊張されてます?」の一言を
「プレゼンターがよく知っている取引先の人や部下、自分より年下の人で、明らかに緊張しまくっているなら、こちらがリラックスさせてあげましょう。私が研修で受講者の方がガチガチに緊張されている場合によく使うのが『もしかして〇〇さん、めちゃくちゃ緊張されてます?』とあえて訊くことです。そうするとプレゼンターは『そうなんですよ、震えが止まらないんです』と緊張を分かってもらえた安心感で少しホッとします。そのおかげで緊張が緩むので、その後のプレゼンがすごく良くなります。ぜひ試してみてください」
2.「なぜこんなにつまらないプレゼンになるのか?」と反面教師にする
「相手が目上の方や、上司の場合は1の方法は使えません。人間関係にヒビが入ります。とはいえ、つまらないプレゼンに耐え続けるのは精神衛生上良くありません。そこで、反面教師とするのをおすすめします。なぜこんなにつまらないプレゼンになるのか、自分ならどうするか、と分析しながら聞くことで、自分のプレゼンのレベルアップに役立ちます。『はあ、早く終わってくれないかな…』と、悶々と時間を過ごすよりも、悪い見本として、かえって参考にしようと思えば、あっという間に時間が過ぎますよ」
3.「資料を読んでから質問させてもらいます」と早めに質疑応答に移るべきケースも
「あまりにも分かりにくいプレゼンの場合は、最後まで聞くだけ時間の無駄となってしまうことも。特にあなたが社長であるなど、1秒たりとも時間を無駄にできない立場の場合は、早めに切り上げるというのも手です。その場合は『まず資料を読ませてもらって、それから質問させてもらいます』と一旦プレゼンを止めてみて、ざっと目を通してから確認したいこと、わからないことを質問してみましょう。つまり、さっさと質疑応答に移る、ということです。もし自分がプレゼンしているときにこれをされてしまったら、相当、反省しないといけないですね」
わかりにくいプレゼンのプレゼンターへの質問のコツ
もしわかりにくいプレゼンだった場合、質疑応答の時間にはプレゼンターに質問することになるだろう。プレゼンターへの質問はどのようなものにすればいいだろうか。
「わかりにくいプレゼンの特徴は、主に『要点がまとまっていない』『説明が抽象的』『理由や根拠が不十分』の3つが挙げられます。そこで、次の3つの質問が考えられます」
1.『つまり、〇〇ということですか?』――相手の言いたいことを確認するための質問
「わかりにくいプレゼンをしてしまう人は、そもそも話の要点をまとめることが苦手です。例えば『えー、弊社ではですねー、多くのお客様のPRイベントの企画・制作を、そのー、支援させていただいておりまして、えー……』という、わかりにくい話し方になってしまいます。プレゼンター自身が何を言いたいのかよくわかっていないことが多いので、こちらから要点をまとめてあげましょう。
『つまり、リアルよりオンラインイベントの方が集客は増え、コストは下がる、ということですか?』と確認するために質問しましょう」
2.『どのくらいか?』――より詳しく聞き出すための質問
「わかりにくいプレゼンをしてしまう人は、説明が抽象的です。特に金額や時間、数量などの数字が抜けています。また『かなり』とか『わずか』『多くの』など、人によって捉え方が異なる曖昧な言葉を連発するのも特徴です。例えば『このシステムを導入すれば、作業時間をかなり短縮できると思います』の『かなり』とは、具体的にどの程度短縮できるのか、数字で言うとどのくらいか、10分なのか1時間なのかがわかりません。そこで『具体的にどのくらい短縮できるのか?』と質問することで、誤解や思い違いを防ぐことができます」
3.『なぜ?』――理由や根拠を聞き出すための質問
「わかりにくいプレゼンになってしまうのは、理由や根拠が不十分だからです。例えば『先日発売した新商品の売れ行きがあまり良くないので、値下げが必要だと思います』という場合、一見、わかりやすそうな説明ですが、なぜ値下げという考えに至ったのかという『理由』が抜け落ちています。また、推測や憶測、個人の意見でしかない可能性もあります。そこで『なぜ値下げという考えに至ったのか?』と理由や根拠を聞き出す質問をしましょう。
しっかり考えているプレゼンターなら、『売れ行きが良くない→なぜなら競合がより高性能な新商品を同価格帯でぶつけてきたから→だから値下げする必要がある』と値下げという考えに至った理由を説明できるはずです。しかし、理由を聞いても『いや、ですから、先ほどご説明したように売れ行きが良くないからですが…』などの答えになっていない答えが返ってきたら、十分考えていない証拠です。もう一度しっかり考えてきてもらいましょう。
本来、プレゼンターは聞き手に理解してもらい、納得してもらい、そして動いてもらうために、どうすればわかりやすくなるかをしっかりと考えているはずです。しっかり考えていれば、緊張して伝えるべきことをド忘れしたとしても、質問によって伝えるべきことを思い出し、答えられるはずです。しかし、明確な回答が返ってこなかったり、曖昧な回答をされたりした場合は、そのプレゼンターは考えが足りない、信用できない、と判断して良いでしょう」
人のプレゼンを聞くときには、「三大ルール」を実践しつつも、つまらない、わかりにくいと感じたときには、今回紹介されたテクニックを使ってみよう。そして何より忘れてはならないのは、自分自身もつまらない、わかりにくいプレゼンをしていないか、今一度チェックすることかもしれない。
取材・文/石原亜香利