
NHKが2022年度の事業計画を公表しました。事業収入6,890億円に対して事業支出が6,890億円となり、差し引きゼロとなりました。2021年度は事業収入が6,900億円、事業支出が7,130億円で230億円の支出超過。2020年度も149億円の支出超過となっていました。2022年度は37億円の交付金収入(国の要請で放送する選挙放送の交付金など)を得ての、ギリギリのところで収支バランスをとっています。純粋な受信料と事業支出額でみると、4年連続の支出超過となっており、NHKは体質改善が求められています。
受信料の引き下げで支出超過額は3桁億円に
NHKは2018年度まで順調に受信料収入を増やしていました。これは支払い率を上げていたため。2013年度は支払い率が74%でしたが、2018年度は82%となりました。このころ、受信料収入の増加に伴って事業支出を増やしました。
一部批判の多い受信料の徴収問題ですが、金額だけを見ると、受信料収入を支払う世帯が増えるに従って番組の制作費や取材費に資金を回すことができ、番組の質を上げることができたと言えます。
※NHK「収支予算・事業計画・資金計画」より筆者作成
2018年度の受信料と支出額の差は2億円のプラスです。2014年度から2018年度までの受信料と支出額の差は、平均すると8億円のマイナス。ここまではプラスとマイナスを繰り返して、その差はわずかでした。
潮目が大きく変わったのが2019年度。この年から受信料収入が減少に転じます。NHKは2019年10月からの消費税率引き上げに伴う受信料額改定を行わず、地上契約・衛星契約を実質2%値下げしました。更に2020年10月から地上契約・衛星契約を2.5%値下げしました。消費税分で135億円、2020年10月の値下げで193億円を視聴者に還元したのです。この値下げが受信料収入を押し下げた要因です。
しかし、支出額の抑制がそれに追いつかず、2019年度以降は3桁億円の支出超過が続くようになりました。
■受信料と事業支出の差(単位:億円)
※NHK「収支予算・事業計画・資金計画」より筆者作成
子会社に発注する金額は適正なのか?
NHKは報道番組など国内放送費の支出額が最も多く、受信料収入の半分ほどを占めています。2019年度は国内放送費が3,523億8,000万円となり、全体の50.1%を占めるまでになりました。そこから抑制に動いていますが、2022年度は47.6%。受信料と事業支出が18億円のプラスだった2014年度の国内放送費は2,919億円で45.0%に抑えられています。
※NHK「収支予算・事業計画・資金計画」より筆者作成
番組制作の多くは外部の企業が請け負っていますが、NHKは子会社にNHKエンタープライズ、NHKエデュケーショナル、NHKグローバルメディアサービスなど合計12の子会社を持っています。
子会社への発注が適正に行われているかは疑問が残ります。
主要な番組制作を行うNHKエンタープライズへの2010年度のNHK取引分の売上高は362億1,000万円、2019年度は490億円でした。35.3%増加しています。また、NHK取引による営業利益率は2010年度の3.0%から2019年度は4.7%まで1.7ポイント上昇しました。
子会社への発注は“慣例”で行われることが多くいものです。正しい競争原理が働いているのか。収支バランスが崩れたNHKが徹底的な見直しを図るべきポイントの1つです。
■NHKエンタープライズ2010年度と2019年度の売上高・営業利益の比較
※「関連団体の事業運営状況等について」より筆者作成
2010年度
2019年度
人件費の割合が突出しているNHK
民放キー局と単純には比較できないものの、NHKの収支バランスで明らかにおかしいと感じるのが人件費です。2022年度のNHKの人件費は1,134億円。受信料に占める割合は16.9%にも上っています。
下のグラフは民放キー局の売上高に占める人件費の割合と、NHKの受信料に占める人件費の割合を比較したものです。民放各局は利益率の高い不動産事業を行っていることもありますが、それを加味してもNHKの高さが目立ちます。希望退職者を募集し、大規模な人員整理に踏み出したフジテレビですら5.9%です。
※有価証券報告書、収支予算・事業計画・資金計画をもとに筆者作成
フジテレビ
日本テレビ
TBS
テレビ朝日
NHK
NHKの給与額を職員数で割った職員1人当たりの年収額は2022年度で1,096万4,000円。日本の平均年収と比較すると高いように感じますが、他局と比べると決して高い水準ではありません。NHKは段階的に年収を引き下げています。
※NHK「収支予算・事業計画・資金計画」より筆者作成
2013年度は1,187万5,000円でした。9年間で91万円(7.7%)引き下げたことになります。NHKの人件費が膨らんでいる主な要因は職員の多さです。2015年度まで削減を続けており、職員数は10,242人まで減少しましたが、そこから底打ち反転して上昇傾向にあります。2022年度は10,343人となる見込みです。
※NHK「収支予算・事業計画・資金計画」より筆者作成
NHKは2019年から2020年にかけて値下げを断行し、受信料収入が急速に縮小しました。人員整理がそれに追いつくはずもなく、人件費が膨らむ結果となったのです。
2022年度は事業収入と事業支出が釣り合ったとはいえ、受信料と事業支出額のアンバランスな状態は改善できていません。NHKは抜本的な改革が求められています。
取材・文/不破 聡