DIME MAGAZINE
本当に偶然だったんですね。
「はい。まさにアメリカの大学チームを探そうかなと考えていたところでした。ただ女子チームだったので、自分に務まるのかなと悩んだのですが、1週間くらい練習や試合を見て、レベルの高さに驚いた。しかも選手は真面目だから、面白いかなと思ったんです」
それで2010年に再び来日、日本でのコーチ人生が始まります。英語ではなく、日本語でコーチしようと思ったのはなぜですか？
「大変だけど上手にコミュニケーションしたかったら、通訳さんは使わないほうがいいと思いました。通訳さんは選手とずっと一緒にいないでしょ？（笑） それに私の話は私自身から直接聞いたほうがいい。上手く伝わらなくても、ちょっとずつリレーションシップを作れば、いろんな話ができるじゃないですか。言葉が足りなかったら、ボディーランゲージを使いました。そこですよ。深いリレーションシップを作りたいのなら、コミュニケーションが一番大事。これは間違いないですね」
しかし、時に言い過ぎてしまうこともありますよね？
「フォローアップは必要です。私はキレイな日本語で伝えられないから、たまに言い過ぎることがあります。選手に直接話すので、言われたほうからしてみたら結構〝キツい〟かもしれない（笑）。言い過ぎた時は、練習や試合が終わってから『こういう意味ですよ』と説明します。でも、そこには信頼関係が必要。とにかくこちらのハイレベルな要求に選手が着いてきてくれなければ、チームとしての仕事はできませんからね」
5歳の時、近所で友達と遊んでいて、シュートが入り「Loveになった」のがバスケットを始めたきっかけだそう。
23歳でトヨタ自動車ペイサーズに入団、4年連続で日本リーグ得点王に輝く。昼間はトヨタ自動車東京本社で働いた。
4年プレーしたトヨタを退団、28歳でトライアウトを経てNBAアトランタ・ホークスに入団。2試合に出場した。
東京オリンピックでスター不在の女子日本代表チームを史上最高成績となる銀メダルに導いた。
チーム作りで一番大事なのは〝Believe〟
2016年のリオ五輪でベスト8に入った後、日本代表HCに就任されましたが、その時に東京オリンピックでの「金メダル」を目標にされました。
「皆、ベスト8で喜んでいたけど、私は全然喜んでなかったんですよ。準々決勝のアメリカ戦は、前半は悪くなかったけど、後半は雰囲気が変わって、もう十分という感じになった。でも、十分じゃない！もっとできるんじゃないかと思って残念だった。選手たちのメンタルをタフに鍛え直したら、きっと金メダルを獲れると思いました」
チームにはどう伝えました？
「皆が一人一人の力を信じてなかったから、もっと信じてほしいし、私はあなたたちを信じてるよ、と厳しく言いました。気持ちが負けたらその瞬間に負けるんです」
それが2017年のアジアカップ優勝につながったわけですね。
「そうです。全員の自信が上がりました。そして、もし誰かがケガなどで出場できなくなったら、誰かが代わりをするということもできるようになった。練習してレベルアップして自信がつけば、相手は関係ない。うちのバスケをやったら、上手にエクスキューションしたら（※）、勝ちますよ」
トムさんはカバンに「Believe」と書かれたマスコットを付けているそうですが、チーム作りで大事なのはやはり「信じる」こと？
「そうです。でも簡単なことじゃないですよ。これをやって、これやって、これやって……全部やらなければ、信じていなければ、できないんです。だから私が男子のHCになったからといって、急に男子が強くなることはない。マジックはないんです。とにかく自分の力をBelieveして、チームメイトの力をBelieveして、コーチたちもBelieveして、目標もBelieveする。口だけというのはダメですよ。そうでないと誰も着いてきません！」
そのために必要なことは？
「とにかく選手を見ることですね。コーチに休憩時間はありません（笑）。チームは生きものです。毎日少しずつ強くなるし、大きくなる。でもちょっとおかしくなったら、すぐに全部がおかしくなる。続けること、強くなることは難しいことだし、チームを作るのは決して簡単なことではない。とにかく、みんなの力が大事なんです。一緒に頑張りましょう！」
「頭使って」「Energyが足りない」「Head downしないで」「気を抜かないで」と常に日本語で選手を叱咤激励する。
チームは、生きもの。毎日少しずつ、強く、大きくなる
※バスケットボール用語。戦術を遂行すること
取材・文／成田全
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