【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第39回:平野歩夢選手が異議を唱えたオリンピックの判定、AIなら数値化できたのか?
AIには「作問」は難しい
2月18日の報道によると、新型コロナウイルスに感染して医師、看護師、介護福祉士の国家試験を受けられなかった人について、今年の追加試験を実施することは困難、とする答弁書が閣議決定されたとのことです。1年待たなければならなくなるとすると、発熱などがあるにもかかわらず無理して試験を受けようとする人が出てこないのか心配になってしまいます(医療を志す方々なのでそういうことはないことを期待していますが)。
この決定の理由として、「追加試験において、本試験と同等の質及び量を担保した試験問題を短期間に作成し、試験を実施することが困難であること」が挙げられているようです。
それこそAIで試験問題を作成すればいいのではないか? と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、AIは質の高い文章を作成することは難しいですし、国家試験問題を作成できるAIを構築するには、試験問題を人間が作るより時間がかかります。試験問題候補の質と量が、本試験と同等かどうかの評価をする、ということはできるかもしれませんが、試験問題を短期間に作成できないから困難、という課題解決にはなりませんね。
AIなら「試験の公平性」を担保できるかもしれない
今週まさに真っ只中の国立大学の入試については、文部科学省が公開している「入学者選抜実施要項」で、追試験の実施が推奨されています。各大学によって対応が異なるようですが、「追試験を行う」のほかに「共通テストと調査書など提出書類で合否判定」といった判断がされる可能性がありそうです。
ちなみに共通テストについて、新型コロナに感染したり濃厚接触者になったりして本試験も追試験も受けられなかった受験生について、個別入試の結果で合否判定するよう文科省が1月11日に各大学に通達を出しています。
いずれの場合も、最大の関心は、「入試の公平性」になります。共通テストを受けずに、各大学の個別試験のみを受験した方が有利になるのではないかという懸念が指摘されています。「意図的に受験しない方法を選択できるものではない」「各大学では共通テストを受験した受験生と比較して、慎重かつ厳格に判定」といった言及がされていますが、某受験情報サイトでは、早速、「私大専願者に朗報。共通テストを回避できた場合、得意科目だけで国立大学に入学できるチャンス」といった書き込みが見られます。
入試を実施する現場は、「公平性」を担保するために努力をしています。そのための詳細なマニュアルがあり、事前説明会などで周知が行われています。試験監督では、あらゆる事態が起きても、公平な対応ができるよう、大変緊張します。何かあった場合、公平かつ迅速な対応が求められるため、マニュアルをAI化できればよいのではないかと思ったりします。試験監督者の中に、AIがいてくれたらよいのかもしれません。試験監督者がマスクをしたまま、試験会場で受験生に対して指示を出す場合も、聞こえづらくないかどうか、などいろいろ気を遣います。AIが会場の様子をカメラで確認し、音声合成で指示を出すことができればよいのかもしれません。
そもそも、遠隔での公平な試験の実施が可能になれば、試験会場で受験できない人も、全員同じ試験を受けることができるようになるわけですが、受験生側の不正も高度化する可能性があるため、難しいかもしれません。今年の入試が最大限公平に実施され、受験生が気持ちよく受験を乗り切れるように祈っています。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。