近年、推進している企業も増えてきた『インクルージョン』の意味を、正しく伝えられますか?基本的な概念から導入による企業のメリット、注意点まで知って知識を深めましょう。実際に導入している企業の事例についても解説します。
インクルージョンの基本を知ろう
よく耳にはするけれど、具体的に『インクルージョン』がどのような意味か説明できない人も多いのではないでしょうか?まずは基本的な概念と併せて、『ダイバーシティ』との関係や『ノーマライゼーション』との違いについても説明します。
さまざまな属性の人を包括し受け入れること
『インクルージョン(inclusion)』は、『含んでいること』という意味の英語です。日本語では『包括』や『含有』と訳されています。具体的には、『多種多様な属性の人を包括し受け入れること』を指します。
もともとは、ヨーロッパで貧困層をはじめとした社会的弱者を社会で支える必要性が重視され、社会政策の一環として生まれた概念でした。それがビジネス上でも取り入れられるようになっているのです。
会社ではさまざまな属性の人が働いています。男性と女性というように性別の異なる人や、日本人と外国人のように国籍が異なる人もいます。
未婚者と既婚者や、親と同居・一人暮らしという属性の違いもあるでしょう。このような多様性をお互いに認め、一体感を持って働くことが重視されているのです。
ダイバーシティとのセットの概念
ビジネスシーンでは、『ダイバーシティ』という概念もよく用いられています。『多様性』という意味で、簡潔に説明すると、『多様な個性やバックグラウンドを持つ多様な人が共存している』という状態を指す言葉です。
一方で『インクルージョン』は、多様な人の共存にとどまりません。『それぞれがお互いの個性を認め合い、一体感を持って活動すること』というように、さらに一歩踏み込んだ概念です。
例えば、政府が2020年までの目標として掲げていた『女性管理職比率30%以上』を達成している会社は、ダイバーシティを実現しているといえるでしょう。
しかし『インクルージョン』はそこで終わらず、育児中の社員向けに時短勤務を取り入れたり、重要な会議を子育て夫婦が忙しくなる夕方以外に設定したりするといった取り組みまで含まれる概念なのです。
インクルージョンが重要な理由
近年は、経営理念に『ダイバーシティ』を掲げ、多様な人の共存を実現している企業も少なくありません。しかし、それだけで個性を生かす取り組みがされておらず、生産性が低下している企業もあるのが現状です。
生産性を向上させるためには、個人の価値観やライフスタイルなど多様な個性を受け入れ、どのように生かしていくか考慮する『インクルージョン』が必要不可欠なのです。
既にダイバーシティを実現している職場でインクルージョンも実現すれば、雇う側・雇われる側どちらにもメリットが大きくなります。
例えばフレックスタイム制や在宅勤務など柔軟な働き方を取り入れることで、子育てや介護で忙しい人も働きやすく能力を発揮しやすい環境になるでしょう。
ノーマライゼーションとの違いは?
『ノーマライゼーション』は、『障がいのある人がそうでない人と同等に暮らし、共に活動できる社会を目指す』という概念です。デンマークで障がいを持つ人も一般市民と同等の権利が保証される社会を願って作られた法律に、『ノーマライゼーション』の言葉を用いたのがきっかけとされています。
『平等に扱う』『差別をしない』という点では『インクルージョン』と同じですが、対象者が異なります。『インクルージョン』が全ての人を対象にしているのに対し、『ノーマライゼーション』は障がいを持つ人を対象とした限定的な概念です。
企業がインクルージョンを導入するメリット
『インクルージョン』の実現は企業にとってメリットが大きいといわれますが、ピンとこない人もいるのではないでしょうか?具体的にどのようなプラス面があるのか紹介します。
従業員のモチベーションと定着率の向上
「職場で認められたい」と思う気持ちは、多くの人が持っているでしょう。インクルージョンが実現して「個性が認められ受け入れられている」と実感できれば、従業員の認められたい欲求が満たされます。
結果として従業員の自己肯定感が上がり、より意欲的に仕事に取り組むようになるのがメリットです。
また、長所や能力を十分に生かせることで、働く人のモチベーションが上がるのもプラスポイントといえます。居心地のよい環境で働ければ、転職したいという気持ちになりにくいため、離職率も低下するでしょう。
手塩にかけて育てた人材を失わずに済むのは、企業にとって大きな利益です。
企業のイメージアップ
『インクルージョン』に積極的に取り組むことで、企業のイメージアップにも期待できます。
近年は企業が活動するにあたり、従業員から社会貢献まで幅広い事柄に対して適切に対処する社会的責任が重視されています。これは『CSR』と呼ばれており、『インクルージョン』を取り入れることはCSRの一環と考えられているのです。
クリーンなイメージが定着すれば社会的な評価が上がり、企業の成長や業績アップにつながります。「この会社で働きたい」と思う人も増え、優秀な人材を確保できる可能性が高まるでしょう。
把握しておきたい注意点
企業が『インクルージョン』を取り入れると、多くのメリットを得られる反面、注意したいポイントもあります。自社で導入を考えている企業は、考えられる問題に対して事前に対策を練っておきましょう。
抵抗を持つ従業員が出る可能性
伝統を重んじている大企業や古い慣習が根強く残っている企業などでは、新しい取り組みに抵抗感を抱く従業員が出ることも珍しくありません。
例えば、近年は積極的に外国籍の人を採用する企業も増えています。しかし、島国である日本では外国人と接する機会が少ないため、海外の人に対する理解が乏しく、無意識に偏見を持ってしまう人もいるでしょう。
インクルージョンを実現するには、社員一人一人の意識改革が欠かせません。実際に効果を実感できるまでには、時間がかかると認識しておく必要があるでしょう。
数値化が難しく評価しづらい
インクルージョンに向けた取り組みは、数値で明確な指標を掲げるのが難しく、評価しづらいという面もあります。
『ダイバーシティ』なら従業員の属性やその比率で数値化しやすいものの、『インクルージョン』は多様な人たちの満足度やモチベーションなど、目に見えないものが指標になるためです。
指標や進捗が目に見えにくい中で、担当者はインクルージョン実現のために多くの試みをしていく必要があります。すぐに効果を感じられるものでもないため、担当者の負担が大きくなることもあるでしょう。