■連載/ゴン川野の阿佐ヶ谷レンズ研究所
アルミニウムを採用して軽量化
ライカのデジタルカメラで最もバリエーションが多いのがMレンズに対応したM型ライカである。現行モデルだけで6モデル、さらにカラーバリエーションも含めると、選択肢は多岐に渡る。なかにはモノクローム専用モデルや背面液晶を省くなどの他社では実現不可能なマニアックなモデルもある。まさにMシステムはライカの看板モデルなのだ。私もレンズ沼に肩まで浸かりたくて、2011年に発売された赤バッチと機種名ロゴを省いた渋いデザインの「LEICA M9-P」を探しているのだが、なかなか程度のいいユーズドが見つからない。
2022年1月、M型ライカの最新モデル「LEICA M11」が発売された。私が衝撃を受けたのは、その重量が約530gに軽量化されたことだ。4000万画素の「LEICA M10-R」は約660g、「LEICA M10-P」は675gといずれも600g超えだったのが、今度は530gなのだ。軽いと思った「LEICA M9」が585gである。
軽くなったのはトップカバーがアルミニウム製になったブラックペイントのみで、シルバークロームは真鍮製トップカバー採用で約640gとなる。ブラックペイントと言っても「LEICA M9」のように光沢のあるなめらかな塗装ではなく、梨地仕上げで艶消しに近いブラックである。デジタルのM型の中では、最もフィルムカメラのM型に近い重さと厚みを実現したモデルが登場した。
シャッターボタンの隣に移設されたファンクションボタンはファインダーをのぞいたまま押しやすくなった
ISO感度ダイヤルは従来の100ではなく64からスタートしている。Mにすると任意の感度を設定できる
電池容量は64%アップ! USB-Cでモバイルバッテリーに対応
外観上の大きな違いは、従来あった底蓋が省略され、充電池をダイレクトにボディに差し込む方式が採用されたことだ。充電池の底蓋がボディの蓋の役割を果たし、これを開けることでSDメモリーカードスロットが現れる。銀塩時代からの伝統的な底蓋から合理的な方式に進化した。すでにこの方式は「LEICA Q2」や「LEICA SL2」には採用されており、M型の矜恃として底蓋は残されていたとも思えるが、そうではなかったようだ。ちなみにカードスロットが電池室内にあるのは今回が初となる。銀塩時代からライカを使っていた写真家の小平尚典氏も藤田修平氏も、こちらの方式の方が合理的で使いやすいとコメントした。
液晶モニターは従来の約104万ドットから、約230万ドットに高精細化されている。また左側の2番目のボタンがファンクションボタンとなり、右上の押込式ダイヤル、軍艦部のボタンと合わせて、合計3つのボタンに好みの機能を割り当てて素早く選択できるため、撮影時にメニューの深い階層までおりる必要はなくなった。
バッテリーの底蓋がSDメモリーカードスロットの蓋を兼用する設計。バッテリーは従来より64%も大容量化され1800mAhになった
背面液晶モニターのLVを使えば距離計連動範囲外の70cm以下のマクロ撮影のピント合わせができる
タッチ操作に対応したメニュー画面、LVを使わない場合はこちらの画面を表示しておける
RAWでも6030万画素、3650万画素、1840万画素が選べる
6000万画素になった裏面照射型CMOSセンサーは3種類の記録画素数が選択できるトリプルレゾリューション技術を採用。センサーの画素全域を使って6030万画素、3650万画素、1840万画素での保存ができJPEGだけでなくRAWデータにも適応される。必要に応じた解像度が選べるだけでなくオールドレンズを付けた時にMかSサイズの画素数を選ぶと良好な結果が得られるという。記録できるのはRAWのみ、JPEGのみとRAW+JPEGで、同時記録の場合はどちらも同じ画素数での記録となる。
記録媒体はSDメモリーカードでワンスロットだが、カメラボディに64GBのメモリーを内蔵、もしメモリーカードを忘れても撮影できる。さらに本体メモリーと外部メモリーを組み合わせて、RAWとJPEGを分離して記録したり、バックアップのため同時記録したりできる。また、本体から外部メモリーへの書き出しにも対応する。
内蔵メモリーに記録してSDメモリーカードに書き出すことも可能だ
ハイブリッド方式となり1/16000秒の電子シャッターが使えるようになった
iPhoneやiPadへ画像を高速転送できるワイヤード接続に対応
カメラ底部にあるUSB-C端子はUSB給電と充電にも対応、万一の電池切れの場合もモバイルバッテリーが使えるのだ。また、付属の専用ケーブルを使えばLightning端子のiPhoneやiPadに接続できる。iPhone/iPadには専用アプリ「Leica FOTOS」をインストールしておけば画像を転送して、Apple純正アプリの写真で閲覧できる。それ以外にもカメラ設定をリモートでしたり、リモート撮影もできる。ワイヤレスでも使えるが、有線にすることで大容量のRAWデータの転送が素早く、安定しておこなえるようになった。
有線接続でiPhoneに接続、無線よりも高速でデータ転送ができる
左が設定画面、取説にもリンクされている。右がカメラ設定画面で詳細設定に対応
ミラーレス化を実現する「Visoflex 2」
「LEICA M11」と共に新登場したのが外付けEVFの「Visoflex 2」である。従来モデルの240万画素から370万画素に増えて、画像が一段と緻密さを増している。明るくピントが合わせやすいため、接写をおこなうのに欠かせないアクセサリーと言える。また、超広角や望遠などの交換レンズでレンジファインダーの距離計に対応していないものを装着してもピント合わせができるのだ。しかし、これを常用すると、もはやM型で撮るとは言い切れない悩ましいアクセサリーである。
金属パーツが使われ精悍さを増したデザインの「Visoflex 2」
マグネットを使ったロック方式を採用、ローアングルにも対応、これは便利だ
デジタルズームで1.3倍と1.8倍に望遠効果
6000万画素を活かして、フルサイズの画面をクロップして、望遠効果が得られる。例えばレンズの焦点距離が35mmであれば、45.5mmと63mmの画角が得られるのだ。RAWで撮影した場合は撮像素子の全域を使ったデータが残されるため、通常のデジタルカメラがおこなう単純なトリミングとは違い、フルサイズセンサーを活かした画像が得られる仕組みだ。実際に撮影した画像を100%で比較してみたが、描写に差異はなく、1.8倍でも用途によってはそのまま使えることを実感した。
作例撮影は人形町と銀座でおこない写真家の小平尚典氏に同行していただいた。使用したレンズは「LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.」となる。
35mmの画角で撮影した銀座四丁目交差点の時計塔、右下のビルが少し邪魔だ
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/250sec F9.5+0.33 ISO64
1.3倍のデジタルズームを使って撮影、右下のビルが隠れたが中途半端だ
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/250sec F11+0.33 ISO64
1.8倍にすると狙い通りのスッキリした構図になった。信号手前の動けない場所からのベストショット
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/250sec F9.5+0.33 ISO64
水天宮では屋根の内側にある彫刻のディールがつぶれずに記録された。「LEICA M11」は暗部に強い
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/1250sec F3.4 ISO64
「Visoflex 2」を使ってピントを合わせた。アポ・ズミクロン35mmは最短30cmまで近接できる
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/160sec F2 ISO160
ハイコントラストモノクロームモードにて撮影。暗い店内の棚までしっかり描写されている
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/250sec F6.8 ISO64
ビルの窓に写り込んだ雲がハッキリと見えた、6000万画素の高解像度が活きる
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/320sec F4.8 ISO64
ショーウインドウに写り込んだ風景、ガラスの文字、中の商品が複雑に絡んだ関係が明確に再現された
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/160sec F4+0.33 ISO250
暗い通路に明るいビル街、露出補正なしで暗部を再現、ハイライトはやや飛んでいるが主題は左側の女性だったので問題はない
LEICA M11 LEICA APO-SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.1/250sec F2 ISO64
写真・文/ゴン川野