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転職時に顧客リストやマニュアルなどの情報を持ち出すと罪に問われる?

2022.02.07

同業他社など、従前と類似の業界・業種に転職する場合、これまで培ってきた人脈やノウハウなどを活かしたいというのは普通の考え方です。

しかし、会社が保管している顧客リストやマニュアルなどの機密情報を、転職時に持ち出すことは、違法となるケースが多い点に注意しましょう。

今回は、転職時に会社の機密情報を持ち出すことについて、法的な問題点をまとめました。

1. 転職時の機密情報持ち出しに関する2つの法的問題点

転職時の機密情報持ち出しについては、「不正競争防止法」と「秘密保持義務」の2点に関して、それぞれ法的な問題が発生します。

1-1. 不正競争防止法違反

不正競争防止法2条1項4号では、営業秘密の不正取得行為が禁止されています。

転職時に会社の機密情報を持ち出すことは、会社によって禁止されているケースがほとんどです。

それにもかかわらず、会社の意に反して無断で機密情報を持ち出すことは、営業秘密の「窃取」に当たり、不正競争防止法違反となります。

また、不正取得された営業秘密を使用・開示する行為等についても、同様に不正競争防止法違反とされています(同項5号以下)。

1-2. 秘密保持義務違反

従業員が会社を退職する場合、会社に対して、秘密保持に関する誓約書を提出するケースが多いです。

秘密保持に関する誓約書には、会社の機密情報を持ち出さないことや、在職中に保持していた機密情報はすべて返還・破棄すべきことなどが規定されています。

転職時に会社の機密情報を持ち出すことは、上記の内容を含む秘密保持に関する誓約書に違反する可能性があります。

2. 機密情報を不正に持ち出した場合のペナルティ

従業員が会社の機密情報を不正に持ち出した場合、差止請求・損害賠償請求・刑事罰といったペナルティを受けるおそれがあります。

2-1. 差止請求を受ける

機密情報の持ち出しが不正競争防止法違反に当たる場合、被害者である会社は、従業員や転職先に対して、営業秘密の利用差止などを請求できます(不正競争防止法3条1項)。

差止請求が行われれば、転職先での活動などに支障が生じる可能性があります。

また、機密情報の持ち出しを転職先に秘密にしていた場合、転職先に迷惑をかけることにもなってしまいます。

その結果、転職先での立場が悪化し、さらなる転職を余儀なくされる事態にもなりかねません。

2-2. 損害賠償請求を受ける

持ち出した機密情報を利用して顧客を奪うなど、前職の会社に対して損害を与えた場合、会社から損害賠償を請求される可能性があります(不正競争防止法4条)。

特に、前職の会社の市場シェアや経営規模が大きい場合には、非常に高額の損害賠償を請求されるかもしれません。

実際に高額の損害が生じていると認定されれば、加害者である元従業員は、原則としてその全額を支払う必要があります。

そうなると、たった一度の過ちによって、経済的に破綻してしまいかねません。

なお、営業秘密の侵害に基づく損害賠償債務は、自己破産をすれば免責される余地はあります。

ただし、営業秘密の侵害が「悪意(積極的な害意)で加えた不法行為」と評価された場合には、損害賠償請求権が「非免責債権」となり、破産免責が認められなくなってしまうので要注意です(破産法253条1項2号)。

2-3. 刑事罰が科される

会社の営業秘密を不正に持ち出す行為や、不正取得した営業秘密を転職先に開示する行為は、不正競争防止法によって犯罪とされています(同法21条)。

営業秘密の不正取得・開示等については、最大で「10年以下の懲役または2000万円以下の罰金」が科され、またはこれらが併科されます(同条1項)。

日本国外での使用目的がある場合には、罰金の額が「3000万円以下」に加重されます(同条2項)。

さらに、営業秘密の不正持ち出し等を、転職先の担当者などが教唆した場合には、教唆した者も同様に罰せられるほか(教唆犯。刑法61条1項)、転職先の会社にも罰金刑が科されます(両罰規定。不正競争防止法22条各号)。

3. 前職の人脈を活用して営業活動を行うのはアリ?

機密ファイルの持ち出しなどが、営業秘密の不正取得に当たることは、比較的わかりやすいでしょう。

これに対して、書類やファイルを物理的に持ち出すことはしないとしても、前職で得た人脈などを活用して、転職先で営業活動を行いたいケースはあろうかと思います。

前職の人脈を活用すること自体は、直ちに営業秘密に関する不正行為に該当するわけではありません。

したがって、不正競争防止法との関係では、前職の人脈を活用して営業活動を行っても、特に問題ないと考えられます。

ただし、退職時に会社へ提出する誓約書などにおいて、会社の取引先に対して直接アプローチすることが禁止されているケースもあります。

制約の度合いが強い場合には、このような条項は無効となることもありますが、誓約書等を提出する前に、その内容をよく確認しておきましょう。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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