最近、「サードパーティCookieが廃止されると、リターゲティング広告などが使用できなくなる」という噂を耳にして、気になっている人もいるだろう。しかし各ブラウザはサードパーティCookieのブロック機能の追加、廃止を発表しており、今後、使用できなくなるといわれる。そうした中、影響を受けるのは広告主やメディアだ。
果たして、サードパーティCookieが活用できなくなった後、誰にどのような影響が出るのか、また対策となる代替手段を探る。
「サードパーティCookie」とは
そもそも「Cookie(クッキー)」とは、ユーザーがWebサイトに訪れた際に、そのWebサイトのサーバーからブラウザに対して発行され、送信される情報のこと。ユーザーがそのWebサイトに再度訪れたときに、ブラウザがサーバーに保存していたCookieを渡すことで、同一のユーザーかどうかをサーバーが判断する。これにより、ユーザーは会員制サイトであればログインしたままの状態をキープできたり、ID・パスワード情報が残っていたりすることで、Webサイトの利便性を高める。
また、Webサイト側は、取得したCookie情報を利用してアクセス解析や閲覧履歴に基づくレコメンドなどに活用できる。
Cookieには、「ファーストパーティCookie」と「サードパーティCookie」の2種類がある。
●ファーストパーティCookie:
訪問しているWebサイトのドメインから直接発行される。
●サードパーティCookie:
訪問しているWebサイトのドメインとは異なるドメインから発行される。例)Webサイトに設置されている広告バナーから発行される。
サードパーティCookieは、広告の効果測定やアフィリエイト、リターゲティング広告などに活用されてきた。
Cookie規制とは
このサードパーティCookieについて、近年、規制が進んでいる。その背景には「個人情報の保護」がある。
目立ったニュースとしてはAppleによるブラウザ「Safari」では、すでに全面的に廃止している。ドメインを横断するトラッキングを防止する機能が搭載されており、利用開始時にはブロックされた状態になっている。
Googleは、ブラウザ「Google Chrome」において、2023年半ばから後半までの3ヶ月にわたって、段階的にサードパーティcookieを廃止することを公表している。
ユーザーにとっては、プライバシー保護の観点からすればありがたい話だ。しかし、広告主やメディア、マーケッター側としては気になる話である。
出典:Google Japan Blog「サードパーティ Cookie 廃止に関するタイムラインの変更について 2021年6月29日火曜日」
Cookie規制で誰がどんな影響を受けるか
Cookie規制により、誰がどんな影響を受けるのか。
Googleは過去にデータに基づいて、サードパーティCookieが使えなくなることによって、メディアの広告収益が52%減少すると発表(※1)している。
※1 Google「Effect of disabling third-party cookies on publisher revenue」
Cookieに変わる新たなIDソリューションを展開するLiveRamp Japan株式会社のHead of Partnership、今井則幸氏に話を聞いた。
【取材協力】
今井 則幸(いまい のりゆき)氏
Head of Partnership
2010年に米Yahoo!社が提供していたRight Mediaに入社。その後MediaMath社をはじめグローバルの広告プラットフォームで日本市場のビジネスを展開し、2019年3月にLiveRamp JapanにHead of Partnershipとして入社。IDソリューションをパブリッシャー、テクノロジープラットフォームといったパートナーへの提供を担当。
(日本語版)https://liveramp.co.jp/
(米国版)https://liveramp.com/
「まず、Googleの『メディアの広告収益が52%減少する』というコメントについてですが、52%以上になる可能性もあると思います。デスクトップ、モバイルそしてタブレットといったデバイスを通してのブラウザのマーケットシェアは、現在もサードパーティCookieをサポートしているChromeと、すでにサードパーティCookieのサポートを終了しているSafari、FirefoxやEdgeといったブラウザでは、ほぼ半々です。この点から、またこの広告収益の減少はすでに起こっていて、メディアの方々は実感していると言ってもいいと思います。
広告主の、サードパーティCookieを利用した『ターゲティング(リターゲティング)』キャンペーンのほうが、一般的にはCPM(インプレッション単価)が高いです。『ノンターゲティング/ブランディング』キャンペーンのCPMと比べると数倍の違いがあります。
ターゲティング(リターゲティング)キャンペーンが実施できなくなると、在庫の価値を判断しづらくなり、結果CPMはノンターゲティング/ブランディングキャンペーンと同様になってしまうことが予測され、メディアにとっては収益が減少してしまうことは明らかです。
一方、広告主側は、今までのような自社のサイトに訪れたことのある潜在顧客をもう一度誘導し、会員登録や商品購入などのコンバージョンを促すために行ってきたターゲティング(リターゲティング)ができなくなります。これまでと同じようなキャンペーンの目的やKPI設計を実行することができなくなるので、戦略を再検討する必要があると思います」
解決策は「IDソリューション」と「コンテクスチュアルターゲティング」
Cookie規制により、メディアと広告主にとって、大きな影響を受けるということがわかっている中、サードパーティCookieが使えなくなることの影響を抑えるための手段は、現在のところ「IDソリューション」と「コンテクスチュアルターゲティング」などがあるという。それぞれどんな方法なのか見ていこう。
1.IDソリューション
IDソリューションとは、サードパーティCookieの規制の影響を受けない別のIDを発行、利用するための仕組みだ。その一つとなる、同社が提供する「RampID」について今井氏に解説してもらった
「LiveRampが提供するID『RampID』は、利用するメディアや広告主が、それぞれ固有のRampIDを作成、保有、利用できるものです。
我々が提供している『ATS(Authenticated Traffic Solution/認証トラフィックソリューション)』を導入いただいたメディアは、ユーザーがログインの際に、ログインIDとして最も使われているメールアドレスから、固有の『RampID』を作成し、受け取っていただきます。このログインID=メールアドレスは、ユーザーが会員登録時などに同意を取得している、ファーストパーティデータになります。これにより、『今、私のサイト・サービスにはRampID a7b9j7agが訪問中です』という情報を、これまでのCookieやデバイスIDなどと同じように、SSP(※2)を通してDSP(※3)に送ってもらいます。
一方、広告主は自社のCRM(顧客管理システム)やCDP(顧客データ活用プラットフォーム)で管理しているファーストパーティデータである(ハッシュ)メールアドレスから、固有のRampIDを作成していただきます。キャンペーンのターゲットの対象となるユーザー群を、CRMやCDP、またはLiveRampが提供するプラットフォームから抽出していただき、DSPにそのRampIDのリスト(セグメント)を送っておきます。あとはこれまでのプログラマティック広告と同じように、対象となるRampIDの有無から、応札の判断をします。
これにより、広告主側は対象ユーザーにアクセスすることができ、またメディア側はインプレッションの価値を判断してもらい、CPMの改善が期待でき、またユーザーにとっては自分に関連のある情報を得られることから、ユーザーエクスペリエンスの向上にもつながります」
※2 SSP:サプライ・サイド・プラットフォームの略。メディアが広告枠の販売の効率化や収益の最大化を図るためのシステム。
※3 DSP:デマンド:サイド・プラットフォームの略。メディアが広告枠の買い付けや配信、クリエイティブ分析、ターゲティング等を一括管理するシステム。
RampIDは、プライバシーとセキュリティの観点からも期待が寄せられている。RampIDは、まずユーザーの同意を得て個人情報を取得するが、それを独自のアルゴリズムでIDに変換するため、セキュアなデータとなる。また、RampIDは企業やドメインごとにユニークIDとして生成されるため、企業間が共有することはできない。RampIDのデータ連携をするためには、ユーザーの同意が必要になるからだ。
2.コンテクスチュアルターゲティング
もう一つ、代替手段として「コンテクスチュアルターゲティング」が注目されている。
コンテクスチュアルターゲティング広告の普及活動を行うGumGum Japanの代表、若栗直和氏に話を聞いた。そもそもコンテクスチュアルターゲティングとは何か?
【取材協力】
若栗 直和(ワカグリ ナオカズ)氏
ブランディング広告を専門に20年以上にわたり国内外で活動。2018年より米国GumGumの日本代表として国内事業の統括を行い、コンテクスチュアル広告の発展・普及に取り組んでいる。
GumGum Japan株式会社:https://japan.gumgum.com/
「コンテクスチュアルターゲティングとは、Webコンテンツの内容を単語・文章・画像などを基に解析して、そのコンテンツに含まれる文脈(=コンテキスト)に適合した広告を配信する手法です。つまり、コンテキストを“ターゲティング”して広告配信する手法です。ユーザーが閲覧しているWebページ内容と関連性の高い広告を表示することができるため、広告に対するユーザーの興味を引きやすく、また違和感や嫌悪感なく広告が受け容れられる点が特徴です」
コンテクスチュアルターゲティングは、なぜ代替手段として注目されているのだろうか。
「これまでのデジタル広告は、サードパーティCookieなどを活用して取得したユーザーの行動履歴を使ってユーザーの追跡・ターゲティングを行うのが常識でしたが、コンテクスチュアル広告には履歴を追う必要が一切無いため、サードパーティCookie廃止後の有力な広告ターゲティング手法として注目されています。
また、追跡型広告と比べて、広告主企業や商品・サービスに対する好意、ひいては購入意向が得やすい点も、ブランディング目的での活用が広がっている要因の一つです」
コンテクスチュアルターゲティングは、どのような仕組みでメディア収益減少を対策することができるのだろうか。
「コンテクスチュアルターゲティングは、サードパーティCookieを使ったユーザーの追跡は行いませんが、Webページにそのコンテンツに含まれる文脈(コンテキスト)に最適な広告を表示した分の対価を、Webサイトを運営するメディアに対して支払う仕組みです。
サードパーティCookieが廃止された後の有力な選択肢として、広告主のニーズに応え得るコンテクスチュアルターゲティングの利用は、今後、大きく拡大していくと想定されます。メディア側においてもコンテクスチュアルターゲティングへの切り替えが進むことで、サードパーティCookie廃止により減少した広告収益をメディア側で補うことが可能になると考えられます」
Cookie規制が進む中、来年2023年にはGoogle ChromeにおけるサードパーティCookieが廃止となるのを控える今、代替となるIDソリューションやコンテクスチュアルターゲティングへの切り替えのための準備が必要となりそうだ。
取材・文/石原亜香利