2021年2月にカルビーが、「副業人財」を募集してから早1年が経とうとしている。副業人財とは、他社で就業中のワーカーを「副業」として雇い入れる人財のこと。現在は5名の副業人財が就業しているというが、どのような意図があるのか。この新しい取り組みについてカルビーに聞いた。
カルビーの「副業人財」とは?
カルビー株式会社は2021年2月9日に、副業人財「カルビっとワーカー」の募集を開始。2021年4月1日から、採用者を業務委託として雇用している。
対象者は、多様な価値観や経験、高い専門性を持ったスキルを活かし、カルビーのEC事業に副業として携わりたいとの意欲を持つ人物。
業務内容は、カルビーの公式オンラインショップ「カルビーマルシェ」に関する事業の戦略立案・運用・管理、WEB広告の立案・運用・効果測定、EC向け商品の企画開発等の推進・支援となる。
現在は5名の副業人財が活躍中だという。この副業人財を取り入れた目的や背景について、同社の人事総務本部 人財・組織開発部 前田宏美氏は次のように話す。
「募集のきっかけは、Eコマース事業を推進しているマーケティング部門での人財ニーズでした。このときに求めていたスキルや役割から、『カルビーを副業とする』というかたちでの、フルタイムにこだわらない関わり方でも十分に可能性があるのではと考えました。さらに、副業といった働き方を実践して社外と常につながっている方を迎えることで、『“今社内にある知”と“新たな知”との掛け合わせにより、イノベーティブな発想・動きを加速する』ということも背景・目的の一つです。
また、成果を出すために多様な働き方を推進する当社の『Calbee New Workstyle』の取り組みにもマッチすると考えています」
カルビーは、多様性を活かした“全員活躍”を推進している。従業員一人ひとりが能力を十分に発揮し、組織の活性化とイノベーションの創出につなげるための組織づくりを支える。「Calbee New Workstyle」は、2020年に新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえたニューノーマルの働き方に対応するもので、オフィス勤務者の働き方を原則モバイルワークにするなどの、柔軟で効率的な働き方を取り入れている。
そうした中、外部人財の個性を活かした、多様な働き方の推進により、社内に新しい価値観や変化を受け入れるチャレンジングマインドの醸成と、自立的な成長を促し、イノベーションの創出を目指す意図がある。
カルビーの「副業人財」の特徴
ところで、企業が副業人財を募るというのは、あまり聞いたことがない。どのように実施したのか。
「取り組みそのものは試行錯誤でしたが、すでに副業を公募されていた企業や副業紹介のサービスもあったため、募集の仕方を拝見したりはしていました。結果、今回はカルビーらしさをしっかり伝え、大々的でなくても本当に興味を持っていただいた方にお会いできるようにと考え、『カルビっとワーカー』というネーミングで、募集要項をできるだけ明示し、自社サイトでの公募という方法をとりました。結果としては、想いをともにできる素晴らしい方々との出会いがあったと感じています」
カルビっとワーカーになるには、あくまで本業があり、副業として従事することが条件なのだろうか? フリーランスは応募できるのだろうか。
「特にフリーランスが対象外ということはありません。『カルビっとワーカー』では、前述のような“新たな知”との掛け合わせという意味でも、カルビーにまだない知識・経験とつながりながら、カルビーとも関わっていただける方とご一緒できればと考えています。現時点での公募は未定ですが、今後もカルビっとワーカーをお迎えし、活躍いただきたいと考えています」
副業人財として働いてみた感想
現在、5名のカルビっとワーカーが従事しているという。そのうち、株式会社メルカリで事業開発の仕事をしている30代男性の石川 佑さんに、「副業人財として応募したきっかけ」と「実際に副業してみた感想」を聞いた。
●応募したきっかけ
「自分のEコマースに関する業務経験や知見を活かす機会を探していたときに、たまたまカルビっとワーカーの募集を目にしたことがきっかけです。子どもの頃から大好きなカルビーさんに貢献できるなら挑戦しようと思って応募いたしました」
●働いてみた感想
「一緒に業務させていただく方々が皆、カルビーへの愛着があり、また熱い想いを持っている点に良い意味で驚きがありました。また第三者の意見をしっかりと受け入れる文化もあり、非常に働きやすく感じています。働き始めてから街中でカルビー商品をよく観察するようにもなりました」
副業人財は、受け入れる企業側だけでなく、副業人財本人にとっても新たな気付きや学びがあるようだ。
承認制の副業制度を導入
ところで、カルビーの社員は副業をすることは許可されているのだろうか? 実は2021年12月1日から、承認制の副業制度を導入したところだそうだ。
対象者はカルビー株式会社の全社員。副業を希望する場合は、開始希望日の2か月前までに誓約および申請書を提出し、承認を受ける。副業勤務日は、勤務時間外や休日となる。
この副業制度を導入した背景にはどんなことがあるのだろうか。
「主には『(1)多様な価値観によるアイデアやイノベーションの創出』や、『(2)優秀人材の確保・定着』を目的としています。(1)は、今の職場にはない気付きからの機会創出、社員の主体性・自律性の促進、個人の中に多様性が培われること(イントラパーソナル・ダイバーシティ)をねらっています。(2)では、柔軟な働き方の提示による他社との差別化、『知の探索』の可能性UP、副業ができないことによるエンゲージメント低下の回避を意図しました。
上記を実現かつ加速するにあたっては、長時間労働への留意や、自社の信用・信頼を損なわないといったガイドラインが必要なため、これらの遵守を確認する意味で承認制を導入しています」
現在、承認を受けた社員は25名いるそうだ。
大手企業の一つであるカルビーの、今回の「副業人財」や「副業制度」導入については、場所を選ばない、ニューノーマルな働き方が各社で広がる中で、企業の垣根を越えて活躍できる場も増えていく今後の未来が見えた。副業人財として各社が人財や技術、知見を交換し合う文化が定着する日が来るかもしれない。
取材・文/石原亜香利