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宇宙船の外で作業する時に着用する船外宇宙服の開発が民間レベルで進まない理由

2022.02.09

宇宙服と聞くと何を思い出すだろうか。実は、宇宙服といっても大きく3つに分類される。1つは、船内服。Virgin Galactic、Blue Originのサブオービタル宇宙旅行の成功は記憶に新しい。そのときに来ていた、とてもスタイリッシュな宇宙服を覚えているだろうか。これが船内服だ。

2つ目は、与圧服。SpaceXが国際宇宙ステーションISSへ有人輸送を安定して成功させている。その際、船内で来ていたのは与圧服だ。

そして、最後が船外服。国際宇宙ステーションISSから宇宙空間へと出て作業などをする際に着用する服だ。上記のうち、船内服、与圧服は、民間企業による開発、製造が進んでいる。しかし、船外服は、民間企業主導によるビジネス化が進んでいる、そんな印象はない。では、なぜ、船外宇宙服は、ビジネスとして途上なのか、今回は、そのような話題について触れたいと思う。

https://www.nasa.gov/image-feature/artist-concept-of-an-astronaut-in-the-xemu-space-suit

宇宙服の今

本題に入る前に改めて、宇宙服について整理しておきたい。1つ目は、船内服。地球上で着用する感覚と同様もしくは類似した服。宇宙船という閉鎖され体積も限定された空間や微小重力環境下などでも動きやすさを追求したり、長期間洗濯できなかったり、とこのようなことを考慮して作られている。Virgin Galactic、Blue Originのサブオービタル宇宙旅行の際に着用されていた服がこれに該当する。

Blue Originの船内宇宙服
(出典:Blue Origin)

2つ目は、与圧服。SpaceXのCrew Dragonの搭乗の際に着用する宇宙服が代表だろう。つまり、打ち上げ時や帰還時に着用する。与圧服は、字の如く、服の内部が宇宙船内と同じ気圧に保たれている服。もし、宇宙船内の気圧がなんらかのトラブルなどで低下したとしても、必要な気圧を保つことができるため、生命を維持することができる。しかしながら、この与圧服で宇宙空間の外へは出ることは不可能だ。ちなみに、SpaceXの与圧服は、インハウスで製造されているという。

SpaceXの与圧宇宙服 キャプ
(出典:SpaceX)

そして、最後に船外宇宙服。国際宇宙ステーションISSなどで宇宙空間に出て作業などをする際に着用する服だ。真空状態、太陽の日陰による温度差、宇宙放射線の遮蔽など過酷な宇宙環境下に耐えられるように、特殊な素材が使われ、気密性の高い構造になっている。

下の図は、NASAが公表している船外宇宙服の基本構成だ。ヘルメット(Helmet)、トルソー(Hard Upper Torso、Lower Torso)、グローブ(Gloves)などのスーツ部分、PLSS(Portable Life Support System)という生命維持装置システム、Display Control Moduleから構成されていることがわかる。このような基本構成を持った船外宇宙服で、アポロ計画の月面活動、スペースシャトルからの船外活動、国際宇宙ステーションISSでの船外活動を実施してきたのだ。

船外宇宙服の基本構成 キャプ
(出典:NASA

NASAが開発を進める次世代船外宇宙服とは?

では、船外宇宙服の現状について見ていこう。NASAは、各国と協力しながら、アルテミス計画を進めている。アルテミス計画とは、アポロ計画から約50年ぶりとなる月有人計画のことだ。このアルテミス計画に向けて、船外宇宙服の開発が進められている。この次世代船外宇宙服は、xEMU(Exploration Extravehicular Mobility Unit)と呼ばれている。xEMUは、与圧されたスーツ部分「xPGS」、背中に背負う生命維持装置「xPLSS」、通信やデータ記録を行う「xINFO」から構成されている。上述で紹介した名称と異なれど大きくは構成に違いはない。

では、今回のNASAの次世代船外宇宙服は、何が新しいのだろうか。

まず、宇宙服の下半身の動きの改善が挙げられる。お尻部分の曲げや回転、膝部分の曲げなどの可動域が増加している。これは、ジョイントベアリングなどの改良が起因しているという。アポロ計画時代の映像で、当時の船外宇宙服を着ているHarrison Schmidt宇宙飛行士が月面でモノを拾うときに、膝を曲げてしゃがむがその際。つまづき転んでいるシーンがある。次世代船外宇宙服になれば、もうこのようなシーンは見られなくなるだろう。

また、宇宙での活動可能な時間が、現在の7.5時間から9時間へと長くなっているのも特徴だ。他にもxPLSSやxINFOのアビオニクス部分などの電子回路を改良し、信頼度を上げているという。

しかし、残念なことに現在、この次世代船外宇宙服の開発は遅延しているという。理由は、予算、ベンダー管理、技術開発などに起因しているようだが、NASAはRFP(Request for Proposal)という提案依頼書を民間企業から募り、スケジュール遅延などをカバーしていくという。

アルテミス計画で使われる船外宇宙服のイメージ キャプ
(出典:NASA)

これほどの多くの企業が開発に携わっている次世代船外宇宙服!

下の図を見てほしい。NASAの次世代船外宇宙服の開発には、多くの企業が携わっていることがわかる。xPLSSでも6社、xPGSでも8社、そしてOtherに分類されている企業は何社いるだろうか。多くは、テストや通信、ソフトウェアなどで携わっている企業だという。

人間が着用する”服”のサイズのものに、これだけの企業が関わるのかと驚いたかたもいらっしゃるのではないだろうか。しかし、Old Spaceという昔の時代から宇宙産業に関わってきた人間にとっては何も驚くべきことではない。宇宙開発においては普通のこと。つまり、政府が開発するロケットや大型の人工衛星などと同様に、船外宇宙服は、これまでそして今回も政府から発注される事業として、多くの企業が関わることで開発されているのだ。

NASAが開発する船外宇宙服の担当企業 キャップ
(出典:NASA)

船外宇宙服の民間ビジネス化を主導する企業は?

しかし、今の宇宙ビジネスを思い返してみたい。ロケットや人工衛星も民間企業がビジネスを開始している。宇宙旅行、民間のスペースステーション、宇宙ホテルもしかり、月面開発も火星移住もしかり、民間主導で開発が進められている分野が増えてきているだろう。でも、まだ船外宇宙服の分野は、まだこのような民間ビジネスのフェーズまで進んでいないのが実情だろう。基本は政府事業として開発し納入するスタイルだ。

その理由は、開発途上であることが考えられる。今回のアルテミス計画における船外宇宙服の開発費用においても数百億円から1千数百億円もの予算が投入されている。この理由には、まだ開発要素が多いからであろう。

また、これまで市場の動向に不確定性要素が多かったことも理由としては挙げられるのではないだろうか。アポロ計画以来この分野は大きな進展がなく、機会といえば国際宇宙ステーションISSでの船外活動のみだったからだ。それは全て政府事業としてだ。

一方で、例えば、民間のスペースステーションや宇宙ホテルなどの建設、構築、運営であっても同程度もしくはそれ以上のコストがかかるにも関わらず、始動しているベンチャー企業が存在しているのに、この船外宇宙服の分野で、民間ビジネスとして、そしてプライム企業として手を上げている企業が不明であるのには少し疑問を感じている。その点は、SpaceXなどの50社以上がアルテミス計画の次世代船外宇宙服の開発の主導的な動きに積極的だという報道もある。そう考えれば、民間ビジネス化はそれほど時間はかからないかもしれない。

いかがだっただろうか。宇宙ビジネスの宇宙服の分野において、船内服、与圧服は民間企業が開発しビジネス化が始まっている。しかし、船外宇宙服はまだまだ途上状態だろう。まだまだ政府事業としての色が濃く、民間ビジネスへと進むプライム企業としてのプレイヤーが不在という印象だ。

別の言い方をすれば、この分野は、新規参入分野として狙うべき領域なのかもしれない。今後、民間の宇宙ホテルやスペースステーションでの船外での建設や修理や月面や火星でのさまざまな有人活動において船外活動のシーンは増えることは予想される、そう考えればニーズは少なからずあるだろう。そうなれば、民間ビジネス化には、それほど時間はかからないかもしれない。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。

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