ところで、広東語に「斬料」という言葉があります。本来は「材料を斬る」という意味ですが、「焼味舗」で焼味を買うと店の人が肉を中華包丁で叩き斬って包んでくれるので、今ではこの言葉は、本来の意味より、「焼味舗で焼味をテイクアウトする」ことを意味するようになっています。広東一帯では、焼味はテイクアウトできる料理としてそれだけ定着しているわけです。そもそも焼味は、焼いた直後ではなく、人肌くらいの温度に冷ましてから食べのるが普通ですから、持ち帰りに向いているのでしょう。そんなわけで、コロナ禍の東京では、テイクアウトのきく「焼味」の店がめきめき増えてきました。
まず2020年6月、最初の緊急事態宣言が解除された直後に、老舗中華料理店『赤坂璃宮』が、同店で長年にわたって焼味師を務める梁偉康を前面に立てて、虎ノ門ヒルズの「虎ノ門横丁」内に、『香港焼味酒家 赤坂璃宮』をオープン。
続いて、2021年7月、4度目の緊急事態宣言が出る直前に、神田神保町の広東料理店『粤港美食』(粤港とは、広東省の珠江デルタ地帯の広州・深圳・珠海などの9都市に香港を加えたエリアのこと)が、同じ神保町の地下鉄駅寄りに『粤港美食 2号店』をオープン。ここは、焼味を4種類用意し、それぞれに白飯とスープをつけて1100円前後の定食として食べられるうえ、単品でも2つ組み合わせてもOKという、香港の庶民的焼味舗のシステムを東京で再現した珍しいお店です。
そして4度目の緊急事態宣言が出ていた最中の9月には、神田『味坊』・湯島『味坊鉄鍋荘』・御徒町『羊香味坊』といった食べログ3・70前後の店を展開している味坊グループが、小田急線・代々木八幡駅前に、テイクアウト可能な焼味をウリにした『宝味八萬』を出店。
さらに来年1月には、白山の台湾ストリートフード店『鶯嶁荘』の近藤喬哉が、焼味をウリにした『HONKEETONKEE香記豚記』を東中野に出店する予定だそうで。東京の「焼味舗」のオープンラッシュは、まだまだ止まりそうになさそうです。
『宝味八萬』は、本場っぽい雰囲気の中華料理店を都内に6店展開している味坊集団が、9月末に小田急線・代々木八幡駅の真ん前に出店した7店目の中華料理店。『添好運』をさらに庶民的にしたような店で、ウリは、本場の点心師がその場で包む点心ですが、密汁叉焼、脆皮焼肉、白切鶏など、焼味舗の代表的なメニューも揃っていて、美味! テイクアウト可能で、店前の窓口には絶えず出来上がりを待つ客が並んでいます。◆住所:渋谷区富ヶ谷1-53-4 ◆電話:03・5761・6066
【秘訣】焼き物はほかの料理に比べて、テイクアウトでもよく売れる
取材・文/ホイチョイ・プロダクションズ