社員がより働きやすい環境を構築したいなら、心理的安全性の向上を目的に職場作りを行ってみましょう。心理的安全性の高さは、社員のやる気や生産性に直結する重要な要素の一つです。心理的安全性が注目される理由や組織作りのポイントを解説します。
心理的安全性が注目される背景
心理的安全性が近年注目を集めている背景には、2016年に発表されたGoogleの研究結果があります。まずは、心理的安全性の意味とGoogleが示した研究結果を確認しましょう。
2016年にGoogleが研究結果を発表
心理的安全性とは、組織内で自分の発言を無視・批判されずに受け止めてもらえる状態のことです。発言者が質問やアイデアを気兼ねなく表明できる雰囲気を意味します。
心理的安全性の提唱者は、組織行動学の権威であるエイミー・エドモンドソン教授です。1999年に発表した論文で、心理的安全性を『psychological safety』という心理学用語として用いています。
心理的安全性が近年注目されるようになったのは、2016年に発表されたGoogleの研究結果が大きなきっかけです。生産性の高さと心理的安全性の高さが強く関連していることを、Google社内で実施した調査により突き止めています。
生産性向上と結びつくため注目
Googleの調査では、社内の数百にも及ぶチームを対象に、生産性が向上しているチームの特徴を分析しています。その結果、生産性の高いチームは心理的安全性も高いと結論づけました。
チームの効果性に影響する要素としては、心理的安全性以外に『相互信頼』『構造と明確さ』『仕事の意味』『インパクト』も示されています。5つの要素のうち、Googleが最も重要だと位置づけたのが心理的安全性です。
生産性の向上は、全世界におけるどの企業にとっても、非常に重要なテーマといえるでしょう。Googleが発表した研究結果を受け、心理的安全性への関心度は一気に高まりを見せています。
心理的安全性が高い職場とは
組織内の人間関係がよいだけでは、心理的安全性が高い状況とはいえません。心理的安全性が高い職場とはどのような職場なのかを理解しましょう。
不安や恐れを感じず発言できる
心理的安全性が高い職場では、メンバー全員が不安や恐れを感じることなく発言できます。他のメンバーから嫌みを言われたり、人間関係が悪化したりすることなく、安心して議論できる土壌がある状況です。
組織の中で各メンバーが本音を言い合えれば、情報の伝達がより活発化されます。組織としても、チーム内の情報を高いレベルで共有できるため、統合的・発展的な判断が可能になるでしょう。
逆に、心理的安全性が低い職場の場合は、各メンバーにさまざまな不安が生じやすくなります。自分の発言が無知・無能・ネガティブだと思われたくない心理が働き、発言や質問を控えたり失敗を言わなかったりする人が増えるでしょう。
ぬるま湯ではないことに注意
単にメンバー同士の仲がよいだけの状況は、心理的安全性が高いとはいえません。人間関係が悪化するリスクは低いものの、仕事に対する意識も低くなりやすいでしょう。
居心地がよい環境の中では、各メンバーが空気を読むようになり、当たり障りのない発言が多くなります。お互いが気を遣い、本音が飛び交わないチームになる恐れがあるのです。
心理的安全性が高い職場とは、このような『ぬるま湯』状態の職場ではありません。立場に関係なくメンバーが意見をぶつけ合い、ときに衝突しながらも良好な関係を保てる職場が、心理的安全性の高い職場といえます。
心理的安全性が高いことのメリット
心理的安全性が高ければ、組織やメンバーに数多くのメリットがもたらされます。特に高い効果を期待できる代表的なメリットを見ていきましょう。
メンバーのパフォーマンスが向上
心理的安全性が高い組織では、各メンバーの心理的な負担が軽減されるため、個人のパフォーマンスが向上しやすくなります。作業の効率化や生産性の向上にもつながるでしょう。
活発化したコミュニケーションの中で積極的な議論が行われ、それぞれが納得した状態で作業を行えることから、より早く目標を達成できるようになります。
メンバーの自主性や積極性を引き出しやすくなることもポイントです。自分の発言が常に受け入れられるため、強い責任感を持って仕事に取り組めるようになるでしょう。
イノベーションが生まれやすくなる
心理的安全性が高ければ、各メンバー間で多種多様な発言が飛び交います。どのような価値観でも認められるため、集められた意見からイノベーションが生まれやすくなるでしょう。
既存の仕組みやサービスに新たな考え方が取り入れられれば、これまでにないような価値が生み出され、社会に大きなインパクトを与えることが可能です。企業の業績向上も期待できます。
市場が頭打ちになり、現状を打破したい状況では、従来の発想にこだわらない画期的なアイデアが必要です。外部との連携や優秀な人材の採用を検討する前に、心理的安全性が高い環境を作れば、自社単独でもイノベーションの推進を図れます。
組織への帰属意識が高まる
心理的な安全が確保された職場では、メンバーの間で一体感が生まれやすくなります。仕事に対するモチベーションも向上するため、組織への帰属意識が高まるでしょう。
メンバーの帰属意識が高くなれば離職率が下がり、優秀な人材の流出を防げます。採用コストや育成コストの削減につながることも大きなメリットです。
各メンバーの自社に貢献したいという意識が強くなるため、個々の能力が発揮されやすくなり、組織力のアップにつながります。企業における生産性の向上も期待できるでしょう。
心理的安全性の低さから起こるトラブル
職場の心理的安全性が低い場合は、さまざまなトラブルが生じてしまうでしょう。主なトラブルやリスクを知り、心理的安全性が高い環境の重要性を意識することが大切です。
不安によりさまざまなリスクを誘引
心理的安全性の提唱者であるエドモンドソン教授は、心理的安全性に関わる4つの対人リスクを定義しています。自分の発言に対して、無知・無能・ネガティブ・邪魔だと思われる不安が、具体的な対人リスクです。
心理的安全性が高い職場では、上記4つの不安を感じずに済むという意識がメンバー間で共有されているため、各人が思い切った発言を行えます。
一方、心理的安全性が低ければ、これらの不安は払拭(ふっしょく)されません。組織にとって有益な意見が出なかったり、ミスが報告されなかったりと、さまざまなリスクを誘引してしまいます。メンバーのパフォーマンスや生産性の向上につながるとはいえない状態です。
改善意識やモチベーションが低下
組織やメンバーの問題点を改善につなげるなら、問題点や改善策をメンバー同士で共有する必要があります。問題点に気づいたメンバーは、積極的に発言しなければなりません。
しかし、自分の発言がネガティブだと思われることに不安感があれば、問題点を指摘する発言は生まれないでしょう。メンバー間で事なかれ主義が助長され、改善意識も低下してしまいます。
組織全体のモチベーションが低下しやすくなることも、心理的安全性の低さがもたらすデメリットの一つです。チャレンジに対してリスクを強調する雰囲気が強まれば、各メンバーは失敗を恐れて無難な方向に流れやすくなります。
ミスをしないことや波風を立てないことが重視される職場では、メンバーの仕事に対する熱意が高まることはないでしょう。
離職率上昇や組織的リスクが高まる
心理的安全性が低い職場では、各メンバーが自分の言動に対して常に不安を感じる状況になっています。不安によるストレスが増していくにつれ、職場にいること自体も苦しくなっていくでしょう。
離職率が上昇し、メンバーが会社に定着しにくくなると、企業の存続すら危ぶまれてしまいます。どのような人材を雇い入れても、長期間働いてくれないという悪循環が生じかねません。
組織的リスクが高まる点にも注意が必要です。非難を恐れて重大な問題や失敗をメンバーが隠すようになれば、組織として後に大きな損失を被ってしまう恐れがあります。
心理的安全性の高い関係を作るコツ
メンバー間で心理的安全性が高い関係を構築するためのポイントを紹介します。職場における心理的安全性を高めたいときの参考にしましょう。
上司と部下で一対一で話す時間を持つ
チーム内の心理的安全性を高めるためには、上司と部下の間に信頼関係を構築することが重要です。部下が上司に対して率直に発言できるようになれば、チーム内での発言にも気後れしにくくなります。
上司と部下の関係性を強める有効な方法が、両者における一対一の対話です。プライバシーを確保できる場所で、各メンバーとじっくり話せる時間を定期的に設定しましょう。
一対一の対話を行う際は、上司が一方的に質問するのではなく、部下が主役となり話をしてもらうことがポイントです。上司はあくまでも聞き役に徹し、発言するときはリーダーとしての立場から常にサポートする姿勢を示しましょう。
感謝の気持ちを伝える
組織に貢献していることを各メンバーが実感できるようになれば、心理的安全性はより高まりやすくなります。メンバー間で感謝し合える文化を醸成することも重要です。
メンバー同士が感謝や称賛を送り合える仕組みに、『ピアボーナス』と呼ばれるものがあります。普段の業務における行動や結果に対し、メンバー間で評価し報酬を送り合える仕組みです。
ピアボーナスが運用可能なツールを導入すれば、メンバー間で感謝の気持ちを気軽に伝えられるようになります。多くの大手企業も導入しているピアボーナスの運用を検討してみるのもよいでしょう。
自由に意見を出せる場を設ける
心理的安全性の有効な改善策としては、メンバーが自由に発言できる場を設けることも挙げられます。意見交換できる機会を組織的に設ければ、発言への耐性が身に付き、メンバーから本音を引き出しやすくなるでしょう。
ミーティングでの緊張感が高くなりがちなケースでは、ミーティング前に雑談やミニゲームができる時間を作り、メンバーの緊張をほぐしてあげるのも一つの方法です。
職場でメンバーから率直な意見が出にくいなら、業務を離れて本音を語り合える場を設ける方法も効果があります。研修や食事会の実施を検討してみましょう。
構成/編集部