企業が成長するためには、適材適所への異動配置が欠かせない。しかし、本人意向による異動と会社主導の異動では、社員のモチベーションに大きな違いがありそうだ。
パーソル総合研究所はこのほど、一般社員層(非管理職)の異動配置に関する調査結果を発表した。本調査は、非管理職の異動配置に関する様々な実態を定量的なデータで把握し、経営・人事に資する提言を行うことを目的に実施された。
① 異動者の割合
経営層・人事に尋ねたところ、一般社員層(非管理職)における1年間あたりの異動者の割合は平均で約2割だった。数年間でみると、社内の相当数が異動することになり、企業にとって異動配置に関する戦略や施策が重要と考えられる。
図表1.1年間あたりの異動者の割合
② 異動配置の重要性を認識する一方、明確な方針がある企業は少ない
経営層・人事に尋ねたところ、人事管理の各種取り組みのうち、一般社員(非管理職)の戦略的異動配置が重要との回答割合は70.1%だった(図表2。数値は「非常に重要である」と「重要である」の合計)。シニア人材の活性化やダイバーシティの拡大などよりも高い結果となった。
しかし、非管理職の異動配置について「明確な方針がある」という企業の割合は35.0%にとどまった(図表3)。新卒から34歳くらいまでの若年層に限って尋ねても「明確な方針がある」という割合は38.0%であり、重要性の認識と実際の取り組みとのギャップがうかがえる。
図表2.人事管理の各種取り組みの重要性の認識
図表3.非管理職の異動配置に関する方針
③ 本人意向を反映する異動の制度
経営層・人事に尋ねたところ、社内公募の制度や仕組みがある企業の割合は55.7%。フリーエージェント制度がある企業の割合は34.8%。
図表4.本人意向を反映する異動の制度
④ 本人意向による異動の現状
社内公募制がある企業のうち、48.2%が「ごく限られたポジション」と回答。社内公募制・フリーエージェント制・キャリア自己申告制を合計した本人意向(手挙げ制)による異動は約1割。これらの数値より、実際に本人意向に基づいて異動できるケースは限定的と推察される。
図表5.本人意向による異動の現状
⑤ 社内公募への応募条件
社内公募に応募するにあたり様々な条件が課されている。例えば「所属部門の上司の許可や推薦を得る必要がある」との回答割合は45.2%となり、応募による異動を抑制している可能性がある。
図表6.社内公募制の応募条件
⑥ 会社主導の異動に対する受け入れ意向
会社の指示による「転勤」を伴う異動について拒否する意向を持つ人は30.6%、拒否できない場合に退職や転職を検討する人は11.5%。
図表7.会社主導の異動に対する受け入れ意向
分析コメント~会社主導の異動に関する十分な説明や、本人意向を反映した異動の増加が重要~
パーソル総合研究所
研究員 青山茜氏
企業成長のためには、管理職や既存のハイパフォーマーだけではなく、一般社員層(非管理職)を含めた社員全体の最適な異動配置を行うことが望ましい。本調査結果を踏まえて異動配置に関して以下提言を行いたい。
■① 会社主導の異動に関する十分な説明
「上司から異動の理由について十分な説明があった」との回答割合が40.0%になるなど、異動前のコミュニケーションは不十分だと推察される(図表8)。異動前のコミュニケーションが異動後の活躍・適合度を高めているという調査分析結果(図表9)も得られており、企業としては会社主導の異動に関してもっと丁寧に説明すべきだ。
■② 本人意向を反映した異動の増加
本人意向による異動は、会社主導に比べて異動後の職務満足度が約1.4倍高い(異動後に満足している層は会社主導では38.7%、本人意向では55.5%)。また、職務満足度が異動前後で「不満足」から「満足」に変化した層は、会社主導では12.0%、本人意向では23.0%と、約1.9倍の差がついた(図表10)。キャリア自律の重要性が高まっている中、これからは本人意向に基づく手挙げ制の異動配置の仕組みを増やしていくことが必要だろう。
図表8.上司からの異動に関する説明
図表9.異動後の活躍・適合の要因分析
図表10.異動前後の職務満足度の変化
出典元:パーソル総合研究所
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/assets/personnel-relocating.pdf
構成/こじへい