気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第7回は、「あいつ今何してる?」や「あざとくて何が悪いの?」など数々のヒット番組を手がけるテレビ朝日の総合演出・芦田太郎さん。「あざとくて何が悪いの?」の年越しスペシャルでは、佐藤健・上戸彩・指原莉乃など豪華ゲストが出演することでも話題になっている。
入社13年で年越し特番の総合演出に
芦田さんがテレビ朝日に入社したのは2008年。「雑学王」や「ナニコレ珍百景」などのADを経て、現在は「あざとくて何が悪いの?」のほか、「まだアプデしてないの?」「トゲアリトゲナシトゲトゲ」などのレギュラー番組や特番の総合演出に加え、プロデューサーも兼務しているため、キャスティングや番組予算管理、編集など業務は多岐に渡る。
「業務内容は番組により変わりますが、例えば2時間収録したものを、どこを切ってどこを使って、CMをどのタイミングで入れて…などを繰り返して1時間の尺に編集したり、どの週にどんなゲストを入れてどういうネタを入れるなど、基本的には演出に関わる全てを決めるポジションにいます」
入社して13年。芦田さんにとって初挑戦となる舞台が用意された。「あざとくて何が悪いの?」の年越しスペシャルの演出だ。毎年、日本テレビはお笑い、フジテレビは格闘技、TBSは歌番組など、各局、目玉と言われる年越し番組で勝負をかける。
「あざとくて何が悪いの?」は、山里亮太、田中みな実、弘中綾香の3人がMCとなり、男女の「あざとさ」にスポットをあてたバラエティ番組。著者が同番組の年越しスペシャルが決まったというネットニュースを見た際に、少しばかり驚きを感じたのを覚えている。
「『テレ朝と言えば年越しはこれ』というイメージが視聴者の方にはまだあまり定着できていないと思うんですよね。そんな中、『あざとくて何が悪いの?』を社内で選んで頂けたのは、この番組の強みであるSNSとの親和性や若者へのリーチなど、テレ朝には現状少ないタイプの番組で年越しを勝負してみようという意図があったんじゃないかなと感じました。
『あざとくて何が悪いの?』は、テレビ離れが進んでいると言われている中高生からも割と多く投稿をいただいたり、大学生からも数多く「見ている」という声をいただけています。そしてメインターゲットとしている20〜40代のビビットな感性をもった方たちがSNSを中心に盛り上げてくださり、ほぼ毎週Twitterでトレンド入りするなど、テレ朝としては珍しい種類の番組としての価値を認めていただけたのかなと思います。
大晦日はかなり特殊な視聴環境だと考えていて、いつもは一人で見ている若者も実家に帰省して家族で見ていたり、いつもはバラバラで見ている家族も、全員揃って見ている可能性が高まったり…。そんな中でいつも『あざとくて何が悪いの?』が取り上げている、恋愛におけるリアルなあざといテクニックを描く番組に興味を持ってもらえるか?そこの軸を変えるかどうか、かなり迷いました。年越しというイレギュラーすぎる枠環境なので、いつも見てくれてる番組の作り方ではなく、もうちょっと番組の間口を広くした方がいいんじゃないかと思ったんです。そこで決めた企画が人気女性芸能人がキュンキュンしたあざとい男性芸能人とのエピソードを本人再現でドラマ化して、No. 1を決めようという『あざとい男ー1グランプリ』という企画です。これならば普段視聴者は垣間見れない芸能人の裏側を知れて、その上番組の根幹である”あざとさ”を描くことはブレないという両軸で勝負できるのではないかと考えました。
佐藤建、上戸彩など豪華キャストが決定
今回の目玉と言えるのが、佐藤健、上戸彩、指原莉乃など超豪華ゲストだ。通常の放送では、視聴者が体験したあざといエピソードを再現ドラマ化するが、スペシャルでは、女優や女性芸人などが、男性芸能人相手にキュンとしたエピソードを本人が再現する。
「キャスティングの際にまず思い浮かんだのが、佐藤健さんです。実は一度も一緒に仕事したことがないので全く伝手がなかったのですが…我々初の年越しSPで、番組としてもフルスイングでいきたい、それにふさわしいイケメンキャストっていうのは佐藤さんしか思い浮かばなかったです。年越しのカウントダウンを是非佐藤健さんにお願いしたいと。
ダメ元は承知で、宣伝もない時期に申し訳ないですと前置きを前提に、失礼のないよう、出演していただきたいという思いを渾身の長文メールで送らせて頂いたんです。そしたら、マネージャーさんからもう少し詳しく教えてくれますか?ってメールが来たんです。企画趣旨などを伝えたら本人と話してみますとなり…。本番当日、佐藤さんに会って改めて感謝の思いを伝えると、実は以前から番組を見ていて、面白いと思ってくださっていたようで…『番宣がなくても声をかけてくれたのが普通に嬉しかった。こっちこそ有難いです』と言ってもらえて、感無量というか、普通にキュンとしましたね(笑)
ダメ元でも交渉(電話)してみるもんだということを今回学びました。熱を持って交渉して断られる分には仕方ない。ただ最初から電話もせずに「どうせ出てもらえない」と諦めるのはやめようよと、今回プロデューサー陣には散々言いました。プラス、我々がレギュラー放送を1年(番組内で)頑張って運用してきたものが、佐藤さんや上戸さん、それに他の出演者に届いて、この番組になら出ます、出たいですと言ってくれてこれだけのメンバーが揃った。このブッキングの成功は、今年の僕のハイライトではあることは間違えないですね。
今回3人のMCはもちろん、それと同じくらいに、ゲストの指原さん、近藤春菜さん、トリンドルさん、みちょぱさん、DJ松永さん、髙橋ひかるさんなどが、この収録の為にしっかりトークネタを用意してくれて、フルスイングしにきてくれてるなっていうのにすごく感動しましたし、最高に面白かったです。編集で余すことなくこれを伝えなきゃなっていう身の引き締まる思いですね」
卒業式で学年全員を巻き込んだサプライズ
芦田さんの演出家としての素質は幼少期からあったのだろう。学級委員長や生徒会長、サッカー部のキャプテンを務め、責任を持つ役職に就くことが好きだったという。テレビの世界に通じる「演出」をしたのが中学校の卒業式だ。
「卒業式って決められたプログラム通りに言われたことをこなしていくじゃないですか?それを見ていて、なんで自分達が主役の最後の場なのに言われた通りに終わらないといけないんだろう?何かプログラムにはないことで自分達の色を出して思い出にできないかな?ってずっと思っていて。でも誰かに迷惑をかけたり、自分だけが目立つのとか違うなと思って思い立ったのが、最後に校歌を歌い終わったあとに教師や親も知らないプログラムにない歌を全員で歌ってやろうと。卒業式の前々日前くらいから、当時は連絡網を見て(友人にも協力してもらって)学年全員の家に電話して歌う曲を『旅立ちの歌』に決めたんですよ。
当日、式が終わるタイミングで『一同着席!』って言われたのに、僕だけ立ったままでキッカケの一言二言を言う。すると指揮と伴奏の同級生が出てきてくれて、一同起立で歌い始める。事前に親父にサプライズのことを話してたんで、親父は俺じゃなくて先生のリアクションを撮ってましたね(笑)。先生全員、口あんぐりですよ。芦田がなんかヤバいことやりだしたぞってザワザワって。でも全く怒られなかったです。ぶっつけ本番だったのに、みんなしっかり歌ってれましたし、全員かは分からないですけど感動はあったと思います。そういういろんな人を巻き込んでやるドッキリみたいなものが好きで、サプライズとかよくやってましたね。同じことを小学校の卒業式でもやりましたし。僕一人でやるのはあんまり好きじゃなくて、人を巻き込むのが好きだったんですよね。みんなに共有してリアクションがデカければデカいほど気持ちいいなってのがあったんで、テレビもその舞台が大きくなっている延長なんだと今思うと感じますね」
目指すのは、「見てよかった」「出てよかった」
周りを巻き込み、サプライズやいたずらを重ねてきた芦田さんだが、絶対的なこだわりがある。それは、誰も傷つかないこと、人を陥れないこと。この信念はテレビの世界に入っても変わらないのだろう。芦田さんの言動や編集の節々に、いつも出演者や視聴者に対する気遣いが感じられる。
「偽善者っぽくなっちゃうんですけど、僕結構人が好きで、人にフォーカスする番組が多いんです。その人のポテンシャルを最大限引き出す舞台を、僕が整えたいなっていう欲求が結構昔からあって。
僕たちが出演者それぞれが輝く舞台を用意する。例えばその舞台で頑張りすぎて、輝きすぎちゃって、ちょっといきすぎた発言をしてしまったり、聞く人が聞いたら不快になるかもしれないなとか、その人のことを嫌いになるかもしれないなと思うものは、面白かったとしても切りますね。やっぱり出た人も見た人も読後感がいいものを作りたい」
「田中みな実さんも弘中アナも、結構キレ味鋭いこと言うことも多いので、その切り取り方、編集の仕方には気を遣っています。切れ味あるワードの前後の言葉をどう切り取るかで、受け手の感情も変わってくるので、そこは一番気をつけてるかもしれないです。田中みな実さんは必ずオンエアを見ているので(あえて編集で彼女のコメントカットしたことに)気付くんですよね。「私言い過ぎたよね、だからカットしてくれたんだよね?気を付けるわ」みたいな。もちろん何でカットしたの?って時もあります。ただ僕の中で明確に狙いや意図があってカットしてるってことさえ、ちゃんと説明できれば納得してくれるんで。もちろん山里さんや弘中さんもそうです。3人が輝きながらも傷つかない編集。これを心がけています」
テレビだけではない、可能性を探って
幼少期からテレビに魅了され続けてきた芦田さんだが、テレビ局全体が変革を起こすべきだという。
「『あざとくて何が悪いの?』を演出して気がついたのが、SNSやネット上でムーブメントを起こすことと、視聴率がなかなか釣り合ってこない苦しさがあること。そこを今後どう向き合っていこうかなという苦悩があります。作品性が高い番組、世間に迎合せず、こちらから新たな娯楽や価値基準を仕掛けにいく番組で、かつ視聴率もついてくるものが理想だと思うんですよ。そこをクリエイトする場所が、テレ朝なのか、もしくはNetflixやAmazonプライムと組んでやるのか。TELASAというテレ朝のプラットフォームなのか。絶対にテレビを通して何か新しいものを生み出したいというよりは、自分の生み出すコンテンツやクリエイトしたのもが、どこの媒体を通すと一番最大化出来るかって目線で仕事しないといけないと思っています。これはテレビ局自体の課題でもある気がしていますし。まさに課題山積という感じで、やれることと、やりたいことのバランスをとって、仕事していくしかないですね。もう早めに納品して、大晦日はゆっくりしたいです(笑)」
【取材協力】
芦田太郎さん
株式会社テレビ朝日 演出・プロデューサー
取材・文 / Kikka