【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第31回:イーロン・マスク率いるスペースXの宇宙船にはどんな最新AIが搭載されるのか?
オンライン飲み会では難しいコミュニケーションも、AIなら……
忘年会シーズン真っ只中、新型コロナの感染者が減少しているため、ずっと会えなかった人に会う予定を入れている方が多いかもしれません。でも、オミクロン株が気になりますし、なかなかすっきり楽しい気分になれず、コロナが憎いですね。
しかし、コロナ禍は悪いことばかりではないかもしれません。Skypeなどコロナ前からあったオンラインでのコミュニケーションツールは、コロナ禍に急速に広まり、進化しました。LINEやZoomやGoogle Meetなどのオンラインでのコミュニケーションツールは、若年者から高齢者まで多くの方が使うようになりました。
私も、1対1での対話から少人数でのコミュニケーション、会議や大人数での懇親会など、用途に合わせて様々なツールを使っています。1対1のツールは、知らない人と会うときに、いきなりリアルに会うのは抵抗がある、という時にはとても便利で、もっと早くこういうツールは使われているべきだったとさえ思っています。会議用ツールも、リアルな会議より効率的な面が多く、移動時間が必要ないため、多くの会議に入れるようになり、生産性があがったと思っています。
ただし、懇親が目的の集まりは、一般的なオンラインコミュニケーションツールは難しいという印象です。
まず、声を出して話せる人が一人だけなので、ほとんどの人がひたすら聞いているだけになります。この問題を解決するために、部屋を少人数のグループに分けるgather.townなどのアプリもあります。
ただし、このようなアプリでは、積極的に自分からコミュニケーションを図れる人はいいのですが、それが苦手な人は、どこかの部屋にとどまったままで、待ちの姿勢になって、最悪ひとりぼっちになります。リアルな懇親会でも、自分からテーブルを動いていろいろな人と話せる人とそうではない人がいるのと同じですが、オンラインの場合、どこかの部屋で一人になると、何の音も聞こえなくなったりします。
リアルな懇親会では、実体のあるロボットなりがいないと、AIにコミュニケーション支援をしてもらうということは難しいのですが、オンラインであればAIによる支援がしやすいと思います。
仲良くなるには「没入感」が大事?
一人になってしまったとき、AIがやってきて、話をしてくれる、ということもありえますが、せっかく人同士の懇親会に参加しているのですから、人と懇親するのが目標になります。AIとだけ話していた、とならないように、AIにどこかの部屋に連れて行ってもらって、話を振ってもらうとか、コミュニケーションのきっかけを作ってもらえるといいかもしれません。できれば、周りの人が、それがAIだとわからないといいのですが、AIがオンラインの集まりにいることが当たり前になって、普通に会話に参加できるようになれば、気にならないかもしれません。
井戸端会議ができるロボットの研究はずいぶん以前から行われていますし、共感対話の研究もアンドロイドで有名な石黒浩教授の研究チームで行われています。こういった研究が実用化されれば、コミュニケーションが苦手な人の支援をするAIがオンラインで活躍するようになると思います。
オンライン飲み会を経験された方は感じているかと思いますが、オンライン上での飲み会は、没入感がないせいか、関与し続けるのが意外と大変で、長くは続けられません。最近では、VRゴーグルをつけてバーチャルに参加する懇親会が普及する可能性が出てきています。2021年10月にFacebookが社名をMeta(メタ)に変えたことで話題になりましたが、今後は、VRゴーグルをかぶって、仮想空間内でコミュニケーションをとるような社会になると期待されています。
VRゴーグルではVR酔いをした経験がありますが、最新版を試してから、コミュニケーションの未来の可能性を考えてみたいと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。