最近、宇宙ビジネスにおいて、仮想通貨の話題が増えてきた、そんな印象がある。その話題の多くは、イーロン・マスク氏からの発信といっても過言ではない。読者のかたの中で、宇宙と仮想通貨というキーワードを聞いて、すぐに思い浮かべる話題はどのようなものだろうか。BlockStream Satelliteだろうか、もしくはSpaceChainだろうか。
今回は、イーロン・マスク氏が描く宇宙ビジネスと仮想通貨の最新のニュースを紹介しながら、仮想通貨が宇宙のフィールドでなぜ利用されようとしているのか、今回は、そのような話題について触れたいと思う。
イーロン・マスク氏が火星移住で描く仮想通貨の未来とは?
宇宙ビジネスにおいて、仮想通貨の話題は、イーロン・マスク氏からの発信が多いのは否定できない。彼は、仮想通貨の肯定論者でもなければ否定論者でもない、そのように理解できる。例えば、「老後の蓄えを仮想通貨に投資すべきではない」、「暗号資産が”地球通貨”になる可能性はそこそこあるんじゃないか?」という発言などだ。
この“地球通貨”という言い方が、関心を呼んだ。普通に考えて、仮想通貨が世界共通の通貨となるのであれば、世界通貨やグローバル通貨などという表現をすることが予想されるが、あえて、“地球通貨”という表現を使っている。これは、イーロン・マスク氏が火星移住を目指していることから、火星で使用する通貨になり得ることを示唆していると言われている。実際、彼はTwitterで、火星への移住計画では、暗号通貨の使用が検討されることになるだろうと語っているのだ。
少し冷静に考えてみると、そうかもしれない、そう思えてくる。例えば、あなたが、火星への移住者になったとしよう。地球のような紙幣より、仮想の口座を利用することのほうが火星に現金を移動させるのは非現実的なことだけに、理に適っているのかもしれない。火星への移住者が仮想通貨の取引を実施するには、スマホやタブレット、PCなどの端末が必要になるだろう。それさえあれば、P2P(ピアツーピア)取引が可能となり、個人が口座さえ持っていれば、取引を行うことができるだろう。
このような火星での仮想通貨を使った経済が形成される場合、イーロン・マスク氏は、「火星では、民主主義のシステムが採用される社会になる」、もしくは「地球のような法の概念すら存在しない社会になる」とも発言している。とても奥が深い。
月での仮想通貨の適用を実証するDOGE-1ミッションとは?
彼が率いるSpaceXは、月を周回する小型衛星(キューブサット)「DOGE-1」を、Falcon 9で2022年に打ち上げる予定だ。もし、「DOGE-1」が、無事、月の周回軌道に投入されれば、史上初となる月周回キューブサットとなるという。また、仮想通貨の観点に立てば、仮想通貨で資金提供された史上初となる月衛星とも言える。
UnizenとZenXのブロックチェーン企業2社、そしてGeometric Energyとのパートナーシップで実現されるミッションで、Geometric Energyが仮想通貨「Dogecoin」で支払ったという。仮想通貨「Dogecoin」は元々は、ビットコインのパロディで作られた仮想通貨。つまりあるエンジニアが半分冗談で立ち上げた仮想通貨。柴犬をモチーフとしている。犬の「Dog」のスラング「Doge」から由来し、ビットコインのパロディという背景があるため、ほとんどの機能が類似しているという。仮想通貨「Dogecoin」は送金スピードが速く価格が安く、発行上限がないという特徴があるという。ちなみに、イーロンマスクが度々ツイートなどで発言や支援を表明するなどしたことから価値が高騰したということもある。
では、「DOGE-1」のミッションは、なんだろうか。まず、Geometric Energyの強みである月の空間データを取得すること。その他にも、DOGE-1は「地球軌道を超えた暗号通貨の適用を実証し、惑星間コマースの基盤を築く」ことにあるという。2021年11月12日、Morpheus.Networkは、DOGE-1ミッションへの参画を表明し、Morpheus.NetworkとGeometric Energyは、地球を超えた暗号通貨と画期的なテクノロジーの適用を実証するという共通の目標に向けて協力しあうという。
Morpheus.NetworkがDOGE-1へ参画
(出典:Morpheus.Network)
インターネット衛星計画Starlinkと仮想通貨の関係は?
Starlinkもまた、イーロンマスクが押し進める計画の一つ。地球の低軌道に何万基という小型衛星を打ち上げて。世界中にインターネットを提供するサービスのことだ。このStarlinkでは、アンテナとルーターが必要となるのだが、このルーターに刻まれているロゴが、地球から火星への衛星の軌道変換楕円を示しているとイーロンマスクは、Twitterで説明し、話題となった。つまり、StarLinkは、地球にみならうず火星へも展開することを暗に示唆しているのだ。
実は、衛星を使った仮想通貨の取引を実施している先駆的な企業にBlockStreamがある。BlockStreamは、BlockStream Satelliteを開始している。Blockstream Satelliteとは静止衛星の通信回線をBlockStreamが借りて展開するサービス。IntelsatのGalaxy 18、Eutelsat 113 West A、Telstar 11N、およびTelesat Telstar18Vを借用している。
BlockStreamは、地球上のどこからでも、仮想通貨、特にビットコインにアクセスできる世界を実現することを目指している。例えば国家によるインターネットの大規模監視、遮断、そして、大停電、自然災害によるインフラ機能不全などの状態に陥ったとしても、衛星通信を利用して仮想通貨のブロックチェーンの同期を続けることができる。しかも誰にも許可を得る必要はなく、誰からも監視されずに可能となるのだ。
このことは、Starlinkを活用しても同様なことがいえる。そして地球から火星への展開も同じことだろう。
いかがだっただろうか。イーロンマスクは、SpaceX以外にも電気自動車Teslaも経営していることはご存じだろう。2021年2月に、1500億円相当のビットコインを購入し、Tesla社の自動車購入にビットコインの使用も開始しているという。仮想通貨は、国家によって、認知度、受入度が異なる印象だが、宇宙というフィールドではどうなっていくのだろうか。上述で紹介したイーロンマスクの仮想通貨の構想から読者のみなさんは何を感じ取るだろうか。宇宙というフィールドでも、仮想通貨経済の形成はイーロンマスクが主導していくのだろうか。今後も注目したい。
文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。現在は各メディアの情報発信に力を入れている。