従業員が交通事故に遭ったり、逆に交通事故を引き起こしたりするリスクを防ぐため、通勤手段を公共交通機関に限定する会社が一部に存在します。
厳しい会社では、自転車通勤すら認められないこともあるようです。
会社が認めていないにもかかわらず、無断で自転車通勤をした場合、会社から何らかの処分を受けるのでしょうか。
また、無断での自転車通勤中に交通事故に遭った場合、労災は認めてもらえるのでしょうか。
今回は、会社に無断で自転車通勤をした場合に関して、上記の疑問点を検討してみたいと思います。
1. 通勤手段についてのルールは就業規則などを確認
通勤手段についてのルールを定めているかどうか、またそのルールの内容は、会社によってまちまちです。
仮に通勤手段のルールを定めている場合、就業規則などに規定があると考えられます。
必要に応じて人事担当者などに確認のうえ、どのようなルールが定められているかを把握しておきましょう。
2. 会社に無断で自転車通勤したら、懲戒処分を受ける?
会社が自転車通勤を禁止している場合でも、便利だから自転車通勤したいというケースがあるかもしれません。
会社に無断で自転車通勤をした場合、心配になるのが「懲戒処分」です。
無断での自転車通勤によって、懲戒処分を受ける可能性はあるのでしょうか。
2-1. 戒告などの懲戒処分を受ける可能性がある
懲戒処分は、就業規則等への違反行為に対して行われます。
そのため、会社に無断での自転車通勤が、就業規則等の違反に当たる場合には、懲戒処分を受ける可能性があります。
無断での自転車通勤に対しては、基本的に「戒告」や「けん責」などの軽い懲戒処分が想定されます。
戒告とけん責はいずれも、会社から従業員に対して注意を行う懲戒処分です。
けん責の方が戒告よりも重いとされますが、従業員が実際にどのような行動を求められるかについては、会社によって異なります。
一般的には、口頭または書面での注意を受けて終わるのが戒告、さらに始末書の提出を求めるのがけん責と区別しているケースが多いようです。
2-2. 厳しい懲戒処分は認められない可能性が高い
懲戒処分の中には、戒告・けん責よりも重い以下の処分が存在します。
①減給
賃金を減額する懲戒処分です。
②出勤停止
一定の期間出勤を禁止し、その期間中の賃金を支払わない懲戒処分です。
③降格
役職のランクを下げ、それに伴い役職手当などを減額・不支給とする懲戒処分です。
④諭旨解雇
従業員に対して、任意に退職することを促す懲戒処分です。
断った場合は、懲戒解雇となるケースがあります。
⑤懲戒解雇
従業員を強制的に解雇する懲戒処分です。
しかし、無断での自転車通勤の場合、減給以上の懲戒処分が認められる可能性は低いと考えられます。
労働契約法15条に基づき、違反行為の内容に比べて重すぎる懲戒処分は、懲戒権の濫用として違法・無効となります。
自転車通勤は、たしかに公共交通機関に比べると、交通事故のリスクは若干高くなるかもしれません。
しかし、自転車通勤時の交通事故の確率自体はかなり低いものですし、自転車通勤をしたことによって、業務に具体的な支障が生じるわけでもないでしょう。
したがって、会社に無断で自転車通勤をして、それが就業規則等の違反に該当する場合でも、違反の程度は軽微であるため、重い懲戒処分を行うことは不適切と考えられます。
どこまでの懲戒処分が許されるかについて、明確な基準はありませんが、具体的な金銭的不利益を伴う減給以上の懲戒処分を行うことは、会社にとって法的リスクの高い行為と言えるでしょう。
3. 無断での自転車通勤中に交通事故に遭ったら、労災は認められる?
自転車通勤をしている途中で、交通事故に遭ってケガをした場合、それが就業規則等の違反に当たるとしても、「通勤災害」として労災が認定される可能性があります。
「通勤災害」の認定要件は、以下のとおりです。
①以下のいずれかの移動中にケガや病気が発生したこと
・住居と就業場所の往復移動
・就業場所から他の就業場所への移動
・単身赴任先住居と帰省先住居の往復移動
② ①の移動が合理的な経路および方法によること
上記の各要件は、会社が定める就業規則等とは無関係に適用されます。
自宅と職場があまりにも遠いなどの場合を除けば、自転車通勤自体は「合理的な方法」による移動と言えるでしょう。
したがって、合理的な経路で自転車通勤している最中に交通事故に遭った場合、自転車通勤の許可を会社から得ていなかったとしても、労災が認定されます。
なお「合理的な経路」とは、特段の事情がない限り、自宅と職場までの最短距離またはそれに準ずるルートを意味すると考えられます。
自転車は経路の自由度が高く、ルート変更や寄り道が比較的容易であるのが特徴です。
しかし、自転車通勤中にその日の気分でルートを変えたり、寄り道をしたりする際には、労災認定の要件から外れる可能性がある点に十分ご留意ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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