【私たちの選択肢】レズ風俗「ティアラ大阪店」キャスト ゆう 前編
人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を知ると、すこし気持ちが楽になったりします。
人はいくつもの選択肢をもっている。そして自由に生きることができる。このインタビューは、同じ世界に生きている”誰か”の人生にフォーカスをあてていきます。
すっかり遅くなった帰り道、ただ空が暗いというだけで気持ちが空の色にひきずられそうになる日があります。そんなときに読み返したくなるのはレズ風俗「ティアラ 大阪店」で働くゆうさんのnoteです。
ある日、吹きさらしのホームで電車を待っていると自動販売機で売られているミルミルが目に入りました。小さいころによく飲んでいたのに味が思い出せません。
なんとなくそれを買って、いつものようにゆうさんのnoteを開きながら飲んだらなつかしくてちょっと泣きたくなりました。
女の子同士はどうやって恋愛をするんだろう
レズ風俗「ティアラ」でキャストとして働いているゆうさんはもともとヘテロセクシュアル(異性愛者)、いわゆる異性愛者として過ごしていました。
学校でも友だちとの恋バナで話題にあがるのは、好きな男の子や彼氏について。同性の友だちとは仲がよく、登下校はもちろんトイレに行くときも一緒だったといいます。仲のいい女の子友だちと好きな男の子。そんなある日、ありふれた日常に変化が訪れます。
「突然、同性の友だちから告白をされて友情以上の愛について考えるようになりました」
“仲のいい友だち“と思っていた女の子から、ゆうさんに恋愛感情をもっていることを伝えられたのです。
「最初は驚きが大きかったです。女の子と恋愛に発展するイメージができなかったんです。友だち以上になるとどんな変化があるんだろうって考えてしまいました」
ゆうさんはこれまで異性と恋愛をし、異性と付き合ってきました。それに、これまで見てきた映画や読んできた本のなかに同性愛は描かれていませんでした。
女の子同士はどうやって恋愛をするんだろう。答えの出なかったゆうさんは、「友だちでいたい」と返事をしました。そのあとその子とは少しだけ気まずくなり、学校を卒業してから会う機会はなかったそうです。
同性に興味をもつようになった夜
自分自身が同性に興味をもつようになったのは、成人をしてからだったそうです。
その日、ゆうさんはバーに向かっていました。せっかく成人したのだから、ハードボイルド映画に出てくるようなおしゃれな大人のバーで飲む体験をしたかったのです。
映画に出てくるようなかっこいい大人の男性にも、ひとりでちょっとだけ良いお酒を飲む体験にも憧れがありました。緊張しながらお店のドアを開けると、カウンターには10歳くらい年上の女性が座っていました。
狭い店内、なんとなくその女性と会話が始まりました。当時、本業に行き詰まりを感じていたゆうさんは気づけば自分の悩みを打ち明けていました。
「その女性から、”わたしはバイセクシャルなんだけど、あなたが知らない世界を体験してみたら人間力もあがるんじゃない?”と言われたんです」
ゆうさんは、そのとき初めてバイセクシャルという単語を知りました。学生時代の友だちの顔が浮かびます。その女性から話しを聞いているうちに、だんだんと興味がわいてきたそうです。
「バイセクシャルという知らない世界の話しを聞かせてくれる姿が生き生きとしていて、楽しそうに見えたんです。興味があったのですが、実際はどんな風になにをするのか全然イメージがわかないままでした」
お酒の勢いもあったのかついにタイミングが来たのか、ゆうさんは好奇心に動かされてその女性とホテルへ向かいました。
向かう途中、彼女はゆうさんに向かって、「あなたのことがすごくタイプだった」とバラしてくれたそうです。そんなにまっすぐ伝えてくれるのか、と驚きつつも嫌な気持ちはしなかったといいます。
「これからなにが起こるんだろうって想像が膨らみ緊張しましたが、実際に裸になったら違和感は感じませんでした。
一緒にお風呂に入って体を洗ってもらって、お互いの体に触れあってもなにも拒否反応が生まれない自分に驚きました。とにかく、すごく自然なことに思えたんです」
同性と友だち以上の関係性はイメージができなかったゆうさんですが、気づいたらリード役にまわっていました。
「相手の女性のほうが経験豊富なはずなのにわたしが責める側になっていて、”ほんとうに初めてなの?”って聞かれちゃいました。
でも、なにをどうしたら気持ちがいいのか、どうやって触れたらいいのかが自然とわかったんです。なぜわかるのかわからないけど、わかる。楽しくて気持ちがよくて不思議な気持ちでした」
これまでゆうさんは男性と恋愛経験はあったものの、セックスに明るい印象を持っていなかったそうです。なぜかいつもスムーズにはいかず、気持ちよくなれないし幸せな気持ちにもなれなかったからです。もしかしたら自分は女性のほうが合うのかもしれない。ゆうさんは自分のなかに新しい自分を見つけました。
レズ風俗のキャストへ
「わたしは男性が嫌いなわけではないし、ハードボイルド映画のように大人の男性に憧れもあるし、かっこいいとも思う。でも体は女性を求めていました」
体験としては自分にフィットしましたが、感情はすぐに切り替えられませんでした。
その戸惑いから抜けたのは、自分の性を断定しなくてもいいと考えるようになったからです。一回の体験ではわからないと思ったゆうさんはレズビアンとの出会いを求め、他の女性とも体を重ねました。そのたびに男性と比べていたそうです。はたして自分はバイセクシャルなのかレズビアンなのか、それともヘテロセクシュアルなのか。結局、ゆうさんの戸惑いが消えることはありませんでした。その変わりに、無理に自分をカテゴリわけしなくてもいいと気づいたのです。
ゆうさんがレズ風俗のキャストとして働くきっかけは、生活をするお金を稼ぐため。はじめは男性向けの風俗に応募をしました。しかし、面接に行くと記載されていた条件と違っていたうえに、話しをろくに聞いてくれず、「まずは体験入店をしてみよう」と強引な態度。不安を感じたゆうさんはそこで働くことを辞退しました。
「どうしよう…と途方にくれて求人検索をしていたら、「レズ風俗レズっ娘クラブ」というお店を見つけたんです。
当時、『ダウンタウンのごっつええ感じ』という番組で「ブスっ娘倶楽部」というネタがあって、この店名ってパクリやん!
と面白半分でリンクに飛んだら、ちゃんとサイトとお店が存在していました。稼げるかわからないけど面接を受けてみようと思い、すぐに写真を送ったんです」
しかし、すぐに働くことが決まったわけではありません。ゆうさんは写真面接で落とされてしまいました。それでもめげずにもう一度応募。落とされたのだから仕方ない、と思うことができなかったのだといいます。
「なぜかすごく気になったんです。どうしても働いてみたいと思いました」
2回目の応募で面接を受けることになったゆうさんは、オーナーの御坊さんと話して直感しました。
「フィーリングが合ったんです。ここで働こう、そう決めました」
自分はヘテロセクシュアルだと思って生きてきたゆうさんは、興味本位だったはずの体験で自分にフィットする世界を見つけました。後編では、実際に働いてからのこと、そして現在ゆうさんが考えていることについてお話しをお聞きしていきます。東京進出も果たした「ティアラ」、そして姉妹店の「レズっ娘クラブ」は今や人気店。同性愛に対する社会の認識もすこしずつ深まっています。
ゆうさん
永田カビ著『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(
文・成宮アイコ
朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校・リストカット・社会不安障害を経験、ADHD当事者。「生きづらさ」「社会問題」「アイドル」をメインテーマにインタビューやコラムを執筆。トークイベントへの出演、アイドルへの作詞提供、ポエトリーリーディングのライブも行なっている。EP「伝説にならないで」発売。表題曲のMV公開中。著書『伝説にならないで』(皓星社)『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)。好きな詩人はつんくさん、好きな文学は風俗サイト写メ日記。
編集/inox.
「私たちの選択肢」のバックナンバーはこちら