【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第27回:AIを使って藤井聡太四冠の頭の中を見られたら
毎秒2000回サンプリング、GoogleのAI技術も使うMLB
米メジャーリーグMLBのデジタルサービス部門であるMLB Advanced Media(MLBAM)が、2014年にAmazon Web Services(AWS)を用いて作成したプレイヤートラッキングシステム「Statcast(スタットキャスト)」を試験導入し、2015年シーズンにMLBのすべての本拠地球場30か所に本番導入されて以来、MLBにデータ革命が起こりました。
ミサイル追尾という軍事用に開発されたドップラーレーダーシステムがボールを追尾し、ボールの位置を毎秒2000回サンプリングし、3塁ベースラインの上に位置する立体撮像装置(光学高精細カメラ)が毎秒30回選手の動きをサンプリングするといったテクノロジーにより、グラウンド上のプレーに関するビッグデータが収集され、瞬時に解析されるようになりました。
2020年3月には、Googleのクラウドサービス「Google Cloud」がMLBの公式クラウドとして複数年契約を締結したと発表しました。スタットキャストなどを、Google Cloud上で運用し、その他のGoogleのAI技術なども利用して、次世代のベースボールの楽しみ方をファンに提供してくれるとのことです。
このような技術を享受する立場のファンにとっては、1試合当たり1TB(テラバイト)以上という人間の肉眼では追尾不能なプレーのあらゆる情報を提供してもらえるようになるということで、悪いことはないだろうと思います。
これから大谷は「AIに分析されつくす」
プレーする側の選手はどうでしょうか。こういったシステムによるデータを活用して自分のプレーに取り入れようとする選手は、実際増えているようです。
大谷翔平さんも、MLBのデータ活用の取り組みについて、「いままでは、あまり考えるタイプではなかった。自分がしっかりやってきたものを出せば、負けないと思ってやってきたので。どちらかというと、身体的な部分で勝負してきたところが多いのかなと思っていた。やっぱり、それだけでは補えない部分があったりして、いっぱいデータがあるなかで、それを活用しない手はないなと思った」と語っています(NHKホームページ「大谷翔平『大リーグ挑戦 1年目の姿』」『NHK SPORTS STORY』2018年10月17日より引用(2021年11月23日アクセス))。
二刀流として満場一致でのMVPに輝いた大谷翔平さんは、投手としても打者としても、その全てを分析される立場になることは間違いありません。2018年に渡米し、急速にスターになったこの3年間に比べて、AIに分析され尽くすこれからは、AIとの戦いとも言えるかもしれません。しかし、大谷翔平さんのプレーが詳細に分析され、数値として可視化されたとしても、その凄さに対抗しなければならないのは人間のプレーヤーであり、心身の総合的能力の勝負です。分析されることを恐れるのではなく、AIの分析能力を利用し尽くそう!という前向きな気持ちが大切と言えるでしょう。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。